記者の目 / 開発・分譲

東京・中野に“新しいまち”

 東京都中野区で「江古田の杜プロジェクト」(江古田三丁目地区)が進行している。(独)都市再生機構(UR都市機構)、積水ハウス(株)、(医)健貢会総合東京病院の3者が行なっているまちづくりプロジェクトだ。江古田の杜プロジェクトは、都営大江戸線「新江古田」駅徒歩8分、西武池袋線「江古田」駅徒歩17分に位置。「新宿」駅へは直通で15分、「池袋」駅へは10分の立地にある。子育て世帯の区外転出、小児初期救急診療施設の不足など、中野区が抱える課題にも対応する“新しいまち”とはどのようなものなのか。まちづくりのコンセプトを策定したUR都市機構の担当者に話を聞いた。

空から見た江古田の杜周辺
(平成26年7月23日撮影)

◆公務員宿舎の跡地約4.4haが一つのまちに

 現在、プロジェクトが進行している場所には、もともと昭和40年代に建てられた国家公務員宿舎があった。その後、この宿舎を廃止することが決まり、2008年3月、約4.4haの跡地をUR都市機構が取得したことから同プロジェクトが始まった。

 「地域のニーズを踏まえた土地利用計画とするため、中野区の都市マスタープランや要望を踏まえたコンセプトとし、その条件に沿った計画を実施する民間事業を公募してまちづくりを進めていくこととしました」と話すのは、UR都市機構東日本都市再生本部事業推進部事業推進第1課主幹の三輪 聡氏。

 江古田三丁目地区は、都心に近接した立地にありながら「江古田の森公園」と連続する豊かな自然環境を有している。また、同エリア一帯は、東京都の広域避難場所にも指定されているという。
 一方、中野区からは子育て世帯の区外転出が多いことから、ファミリー向け住宅の供給と、区の北部で不足している小児初期救急診療、病児・病後児保育等の導入についての要望があった。

 こうした状況を踏まえ、「避難路や防災機能の確保」「緑環境への配慮」「良質なファミリー向け住宅の供給」「小児初期救急診療および病児・病児後保育等の医療施設導入」「保育所等の施設導入」を軸としたまちづくり計画とした。

◆分譲住宅、医療施設、子育て支援機能を整備

 民間事業者等と連携してまちづくりを進めるにあたり、同地区でのまちづくりの考え方を共有するため、同機構は「まちづくりガイドライン」を策定。「緑」「防災」「多世代・子育て」「健康・スポーツ」の4つのテーマを設け、「多世代により育まれる持続可能な地域づくり」を目指す。

計画地を3つの街区に分け、A・C街区には
住宅・子育て支援機能を、
B街区には医療施設の整備を行なう

 計画地をA・B・Cの3つの街区に分け、A街区(敷地面積1万7,740平方メートル)ではファミリー世帯向けの分譲住宅の整備を、B街区(同6,000平方メートル)では小児初期救急診療と病児・病後児保育等を含む医療施設の整備を実施、C街区(同1万5,790平方メートル)には多様な世帯向けの賃貸住宅の整備および各種子育て支援機能を誘致することとした。

 一体的なまちづくりが必要なA・C街区の事業者には積水ハウスを、B街区には総合東京病院を選定。同機構を含む3者は「江古田三丁目地区まちづくり協議会」を15年4月に設立した。定期的に会合を設け、建物や屋外に関するデザイン、PR等の情報発信、まちの持続的な運営体制(エリアマネジメント)に関する事項など検討。中野区、地元町内会等とも連携し、まちづくりを推進している。
 同協議会は、建物竣工後1年間は取り組みを継続させ、A街区管理組合とC街区事業者積水ハウスが立ち上げるエリアマネジメント組織の活動(防災活動や親向けの育児教室・サークル活動等)を支援し、住む人々の愛着を高め「長く住み続けたいまち」「憧れの住みたいまち」の実現を目指していく。

◆協議会で要望のあった「医療従事者向け住宅」も計画

 A・C街区には、分譲マンション「グランドメゾン江古田の杜」(531戸、平成30年2月竣工、3月入居予定)、総合東京病院の新棟(平成29年4月開院)、3棟の子育て世帯向け賃貸マション(全263戸)、サービス付き高齢者向け住宅(121戸、平成30年8月竣工、入居予定)、介護付き有料老人ホーム(94室)、学生寮(85戸)を計画。認可保育所や学童クラブなども誘致し、子育て家族を支援する。
 「協議会で要望のあった、医療従事者向け住宅(56戸)も計画に組み入れました。総合東京病院は災害拠点連携病院に指定されているため、スタッフがすぐに駆けつけられるようにとの意見を採用したものです」(三輪氏)。

 また、街区の中心部には、住む人同士や地域との交流拠点となる「リブインラボ」(屋内面積約1,200平方メートル、屋外約500平方メートル)を設置。1階には食堂・ラウンジ、コンビニエンスストア、2階には絵本ライブラリー、キッズルーム、学童クラブ、多目的ルームを設けるなど、多様な世代の人々が交流しやすい仕掛けを散りばめ、良質なコミュニティの形成を推進する。

街区ごとに役割を分担することで、
多世代が住まう持続可能なまちづくりを実現

 「分譲マンションに住む夫婦が子供の独立を機にサ高住に移り住み、賃貸に住まう夫婦2人が子育て期に備え広い分譲マンションに住み替え、賃貸住宅には新たな夫婦等が入る…といった循環により、年月を経てもまちが賑わい、多世代による持続可能なまちになることを目指します」(同氏)。

◆災害発生時は周辺住民の避難場所にも

 広域避難場所としてのまちづくりも行なう。

 道路新設により、江古田の杜を東西南北に常に通り抜けることができる導線を確保。これら道路・歩道は、地震等の発生により火災が拡大した際に、周辺の人々が広域避難場所である江古田の森公園一帯に避難するときの避難路の役割も果たす。また、A街区に設ける約900平方メートルの「ゆりのき広場」をはじめ、C街区の中庭は災害時、周辺の住民も利用することができる。
 C街区の「リブインラボ」は、非常用発電機で電源多重化を図るほか、耐震等級を2等級とすることで、屋内の避難場所として十分な建物強度を確保。災害時には屋内の活動拠点として避難住民を受け入れ、デジタルサイネージを活用して災害情報等を発信することで、広域避難場所としての役割も担う。

「水消火器で的当てゲーム」では、実際に消火器を扱うだけでなく
火災発生時の対応や正しい消化についてレクチャーした

 7月2日、「多世代子育て」と「防災」をテーマとしたイベントを江古田の森公園に隣接する広場で開催。近隣に住む親子約300名が参加し、おもちゃ交換会のほか、「ジャッキアップゲーム」「水消火器で的当てゲーム」など、子供が楽しめる防災プログラムを実施した。今後も定期的にイベントを企画していく予定だという。
  「こうしたイベントを通じて、子供たちの防災への意識が高まるといいですね。将来的に、まちの居住者と周辺住民が自発的に防災訓練などを行なってくれることを期待しています」(同氏)。

◆◆◆

 「持続可能なまちづくり」の実現には、住民一人ひとりがまちづくりに関わっていくことが重要だ。地域が抱えるさまざまな課題を理解し、それと向き合っていく心構えも必要となろう。何より、住民らを先導する「まちづくり協議会」の果たす役割は大きい。
 しかし、これだけの規模のプロジェクト。結果が見えてくるのは十数年後になるかもしれない。同プロジェクトが「魅力のある」「住み続けたい」まちとして機能していくのか、注目していきたいと思う。(I)

◆◆◆

【関連ニュース】
東京・江古田で多世代に育まれるまちづくりを推進/UR都市機構、積水ハウス(2015/3/5)
東京・江古田で中野区最大のマンションプロジェクト/積水ハウス(2016/4/15)
江古田の複合開発でまちづくりイベント(2017/6/29)

この記事の用語

マスタープラン

他の計画の上位に位置付けられる総合的な計画のこと。都市計画法では「市町村の都市計画に関する基本的な方針」のことを指している。

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2017/8/9

「記者の目」更新しました

東京・中野に“新しいまち” 」の記事を更新しました。

 

東京都中野区の元々は国家公務員宿舎だった4.4haの土地に“新しいまち”をつくる、「江古田の杜プロジェクト」(江古田三丁目地区)。同プロジェクトでは、同区が抱える「子育て世代の区外転出」や「小児初期救急診療施設の不足」などの課題の解消にも取り組むそう。今回は、具体的な計画についてまとめました。是非ご覧ください。