記者の目 / 開発・分譲

2020/2/25

分譲マンションにも「働き方改革」の波

共用部に「ワークスペース」でテレワーク支援

 政府が掲げる「働き方改革」はさまざまな商品・サービスに変革をもたらしてきたが、分譲マンションもその例外ではなくなりつつある。入居者サービスの一環である「共用施設」といえば、集会室やゲストルーム、カフェスペースあたりが定番だが、ここにきて「ワークスペース」をウリにした新築マンションが増えてきた。共働き世帯や自宅やコワーキングスペースで働く個人事業者の増加、テレワークや副業など多様な働き方の定着等が背景にある。こうしたワークスペースをウリにしたマンションを、都市型・郊外型それぞれでみてみよう。

「イニシア大森町 N’sスクエア」の共有ラウンジ。ランドリーを設置。洗濯の待ち時間を仕事時間に充てられるよう、コワーキングスペースとして24時間開放する

「自宅近くで仕事がしたい」の声に応える

 共用施設は、文字通りマンションの区分所有者が共有し平等に使う施設であり、一部の入居者のニーズに偏った施設は作りづらいという性質がある。単身者向けのワンルームマンションならいざ知らず(もっとも、ほとんどの物件は共用施設を設ける余裕などないが)、ある程度の戸数、間取りのバリエーションがあるマンションだと入居者属性もそれなりにばらけるため、共用施設はどうしても凡庸なものになりがちだ。理事会等の会場となる「集会室」や「ラウンジ」、親戚や友達を泊めるための「ゲストルーム」、ちょっとした飲食ができる「カフェスペース」あたりに収れんされるのは、仕方がないことだ。

 ただ、そうした共用施設をよく観察していると、当初予想とはまったく違う使われ方をしていることもある。とくに近年は、マンションのラウンジやカフェスペース、オープンスペース等でパソコンを開き、仕事やネットサーフィンをしている入居者が増えているという声を、ディベロッパー関係者からよく聞くようになった。「自宅に居るのだから、自宅で仕事をすればいいじゃないか」という指摘もあるが、自宅では案外仕事に集中できないものだし、家族にも気兼ねする(カフェで仕事をしている人が増えているのは明らかにそのため)。

 裏打ちするデータもある。日鉄興和不動産(株)が30~49歳の単身男女を調査したところ、約63%が「5年前と比較して仕事を自宅や自宅周辺でする機会が増えた」、約93%が「自宅近くにサードプレイスオフィス(企業などの本社・本拠から離れた場所で仕事ができるようなオフィス)があったら利用したい」と回答したという。今のマンション市場を支えている共働きやDINKSも単身者に近い志向だろう。

 とはいえ、ガチガチのワークスペースをマンションに設置するのは、専業主婦世帯やシニア層などから反感を買う心配もある。そこで、ディベロッパー各社はさまざまな用途で使いまわせる共用施設をワークスペースにも使えるよう作りこみ、「自宅仕事」を志向する入居者ニーズに応えようとしている。

「洗濯」の合間にひと仕事

「イニシア大森町 N’sスクエア」完成予想図

 (株)コスモスイニシアが2019年12月に販売を開始した分譲マンション「イニシア大森町 N’sスクエア」(東京都大田区、総戸数112戸)は、1階のラウンジスペースを「コワーキングスペース」としている。

 同物件は、京浜急行線「大森町」駅徒歩4分に立地する地上15階建ての都市型マンション。単身者やDINKS、プレファミリーをメインターゲットと想定し商品企画が練られたが、当初からワークスペースを作ろうという発想があったわけではない。朝から晩まで仕事で忙しい入居者のために「家事の時間短縮」ができないかというのが企画の原点で、そのためにまず、溜まった洗濯物を一気に洗濯乾燥できる共用のランドリーを置くと決めた。洗濯乾燥には1時間~2時間ほどかかるが、その間利用者はラウンジ等で時間をつぶすことになる。ならば、その時間「仕事」ができれば効率的で、浮いた時間を好きなことに使えるのではないかと考えた。

設置予定の洗濯機。大型の洗濯機が住戸内に置けないシングル、DINKSには好評
洗濯機置き場の前にはロールスクリーン
ランドリーがあることで洗濯機を置かない世帯があると予想。そのまま収納に使えるようにした

 コワーキングスペースの広さは60平方メートル。座席は18席。Wi-Fiを設定し、自動販売機を置き、24時間開放することで、子供の勉強を見ながら洗濯するといった、仕事以外の利用も促す。逆に、理事会以外の貸し切りは禁じ、あくまでも入居者のサードプレイスとして運用していく方針だ。

 共用部を充実させることで、住戸の専有面積を圧縮。販売価格を引き下げる狙いもある。共同で使えるランドリーがあることで、従来の洗濯機置き場は大型の収納としても使えるよう工夫している。第1期25戸は8割が販売済み。同物件は、単身女性の購入者がもっとも多いのだが、理事会等しか使い道がなくほとんど遊んでいる集会室ではなく、ランドリーやワークスペースなどの「使える共用施設」への評価も高いということだった。

「予約制の個室」まであるワークスペース

「ルネ横浜戸塚」完成予想図

 総合地所(株)が同じ12月から販売を開始した「ルネ横浜戸塚」(横浜市戸塚区、総戸数439戸)は、JR東海道線他「戸塚」駅徒歩12分のスーパー跡地で建設が進んでいる、典型的な郊外型大規模マンションだ。総戸数が数百戸規模の大規模マンションの場合、敷地の一角に共用棟を設けて、多目的室やキッズルーム、フィットネスルームやゲストルームといった共用施設を配するのが一般的。このマンションも、敷地中央に木造建築の共用棟を置いているが、その中心に据えているのが「ワーキングラウンジ」だ。

木造平屋の共用棟の主役はワーキングラウンジ

 文具メーカーのKOKUYOが監修したもの。広さ約170平方メートルの共用棟内に、予約制の個室ブース(約3.6平方メートル)5つと半個室ブース(約1.8平方m)6つを設置。コピー機やWi-Fi環境、シュレッダーも設置するなどかなり本格的な仕事ができるようにしている。郊外型マンションといえば、十数年前ごろまでは優れた環境で子育てしたいという専業主婦世帯の購入比率が圧倒的だったが、社会環境の変化やマンション価格の相対的な上昇により共働き世帯の比率はじわじわと上がってきている。この物件はそうしたトレンドを敏感に察知し、自宅に持ち込んだ仕事の処理や、テレワーク等で働く主婦がしっかり仕事を処理できるスペースとした。

ワークスペース俯瞰図。愁眉は③の予約制個室。④は半個室ブース。子供に勉強を教えることを前提とした①のキッズライブラリーやグループワークを前提とした②のソファスペースなど、多様な使途に対応することで多くの居住者ニーズに応える

 ただ、それだけでは専業主婦世帯の反感を買う。そこで、ワークスペースとラウンジを一体化し、キッズライブラリーや学習スペース、ソファスペース、カフェスペース、デッキも配している。これにより、母親が子供の勉強を見る、コーヒーを飲みながらデッキでネットサーフィンといったさまざまな使途に使えるようにした。前出の「大森町」同様ランドリーも置いており、仕事や家事の時間を極力効率化して、その浮いた時間を自分や家族のために使ってもらいたいという思想は共通している。住戸にもディスポーザ、食器洗い乾燥機、個別宅配ロッカーなどが標準装備。マンション隣接地には大型スーパーがあるというおまけ付きだ。1期137戸は、発売1ヵ月強で100戸超を契約。そのうち、共働き世帯は4割に達しているという。現在、2期3次180戸まで販売を進めている。

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 多くのサラリーマンにとって、通勤時間ほどの人生の無駄遣いはないだろう。ICT機器の進化や社会通念の変化で、働き方の自由度は増し、「職住近接」「職住同一」のハードルも低くなりつつある。分譲マンションの商品力を決めるのは3P(Place、Plan、Price)だが、働き方改革の進展は、Place(立地)(都心や駅との距離といってもいい)の在り方を大きく変えるかもしれない(J)

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