記者の目 / 仲介・管理

2022/3/4

LGBTsカップルでも「買える」

「あらゆる2人」のためのリノベマンション

 SDGsの目標にも「ジェンダー平等」が掲げられているように、LGBTs(性的マイノリティ―)の人達が差別なく生活できる社会の実現が求められている。しかし、LGBTsの人達と「住まい」の関係は、法的な問題等の障害もあり、決して良好ではない。だが、ここにきて「パートナーシップ証明書」の普及など、LGBTsカップルが住まいを購入できる環境が、少しずつではあるが整ってきた。今回は、そうしたLGBTsカップルが快適に生活できる住まいを目指した分譲(リノベーション)マンションを紹介したい。

「あらゆる2人」に最適化されたマンション。これまでローンを組んでの住宅購入が難しかったLGBTsの人達を強く意識した企画だ

「パートナーシップ証明書」でローン問題に光明

 LGBTsの人達には、世の中の大多数の人達が「普通にできること」ができないことは、決して珍しくない。「(賃貸ではなく)住まいを手に入れる」ということも、その一つだ。

 LGBTsカップルがお金を出し合って、またはキャッシュリッチな一方がお金を出して現金一括で購入するのであれば、問題なく取得できる。問題は、「住宅ローンを組んで住宅を購入する」場合だ。LGBTsカップルは、一般的な夫婦のような婚姻関係がない。それゆえに住宅ローンの連帯債務、収入合算、ペアローンなどが認められないのだ(一方がローンを組む事はもちろんできる。ただ、一般的な夫婦がそうであるように、住まいは“2人が力を合わせて買う”ことに意味がある)。

 幸い、こうしたLGBTsに係る不平等を解消する取り組みとして「パートナーシップ証明」がある。「パートナーシップ証明」とは「法律上の婚姻とは異なるものとして、男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備えた、戸籍上の性別が同じ二者間の社会生活における関係を「パートナーシップ」と定義し、一定の条件を満たした場合にパートナーの関係であることを証明するもの」(渋谷区公式サイトより引用)。

渋谷区の「パートナーシップ証明書」。この証明書を提示することで婚姻関係と同等の権利を得ることができるため、収入合算による住宅ローンや連帯保証が可能となる

 この証明書を提示することで、例えば2人で賃貸住宅を借りる際の家賃保証審査が可能となったり、パートナーを生命保険や損害保険の受取人にできたり、「家族」として手術同意書へのサインもできるようになる。もちろん、収入合算による住宅ローンも組むことができ、パートナーを連帯保証や連帯債務者として指定することができるようになる。「パートナーシップ証明書」は、LGBTsの住民が多いと言われている渋谷区が2017年に開始したのを皮切りに都内では12区で発行しており、全国へと広がりつつある。

 一方、多様な世帯の多様なニーズに対応して商品企画を進化させてきた分譲住宅も、明確にLGBTsを意識したものは、これまでのところ皆無だった。そうした中で、「あらゆる2人へ」を合言葉に、LGBTs対応のマンションをリリースしたのが、(株)コスモスイニシアだ。

社内コンペで提案。専門業者にヒアリング

「2人一緒の時間」と「自分の時間」を両立させるための工夫を随所に盛り込んだ。

 同住戸は、既存住宅流通やリノベーションマンション開発を手掛ける流通事業部が毎年開催している社内コンペから生まれたもの。このコンペは、同社が企業スローガン「Next GOOD」の実現に向けた商品企画を、事業部内の様々な担当が連携したチームごとに出し合い、実現可能性等を踏まえ審査し、優秀な提案を商品化している。同社が供給するマンションの多くはファミリーがターゲット。だが、実際に購入しているユーザーの家族形態は多様化しており、商品自体がもっと多様な家族形態に対応していくべきという考えから提案された。「あらゆる2人」と銘打つだけにDINKSやプレファミリーなどももちろんターゲットだが、LGBTsカップルを強く意識した商品であることは間違いない。

 ただ、ようやく市民権を得つつあるLGBTsカップルも、住宅マーケット全体で言えば圧倒的マイノリティであり、同社もマーケティングの蓄積はまるでなかった。そこで、LGBTs当事者もスタッフとして参画し、LGBTsの二人暮らしをサポートしている不動産仲介会社(株)IRISと協業。同社のアンケート結果やIRISスタッフへのヒアリングを基に商品を企画した。

 リノベーションした物件は、都営大江戸線「西新宿五丁目」駅や東京メトロ丸の内線「中野新橋」から徒歩圏の、14階建て、築20年余の既存マンションの一室(2LDK、約64平方メートル)。価格は6,180万円。日本最大の繁華街・新宿にほど近いが、駅近くには商店街があり、通りを入ると閑静な戸建住宅街が広がるエリアだ。「IRISさんに、LGBTsの皆さんは個性的な飲食店やスポーツジム、花屋さんが近所にあるまちを好まれるということ教えていただきました」(同社流通事業部流通二部一課・末吉 渉氏)。

 リノベーション前後の間取り図は以下の通り。ごく簡単に説明すれば、(1)リビング隣接の和室(6畳)を廃しリビングを拡大(2)水回りと収納の面積を拡大――により、2人のパーソナルなスペースを維持しつつ、2人で共有するスペースを拡大している。だが、仔細に見ていくと、本当にきめ細かな工夫が随所に施されている。

間取り図ビフォーアフター。狭小の3LDKを2人暮らし仕様に改修。独立した2つの部屋はそのままに、キッチンや洗面所といった水回りや収納を拡大した2LDKに

パートナーだが、ひとりひとりの時間も大事

6畳大の和室スペースをほぼまるごとキッチンスペースに改修。L字型の大型キッチンは2人並んでの調理も余裕。天板は大きく、パーティにも対応する

 キッチンはL字型。大きなカウンター(フィオレストーン天板)付きで、タブレット置き場、食洗器を備える。2人暮らしにはやや大きすぎるくらいのキッチンとスペースがおごられているのは、「LGBTsカップルは、2人で料理をしたり、友達を呼んでワイワイ騒ぐ(パーティ)のを好む」(同氏)という傾向を踏まえたものだ。天井高が2,400mmと低いため、それを感じさせないよう照明はダウンライトを使っている。

玄関からもホールからもアプローチできる土間収納
シューズインクローゼットのほか、ゴルフバッグが2セット並べて入る。共通の趣味の収納として提案

 玄関横には、土間敷きのウォークインシューズクローゼットと収納スペースが一体となった約3畳大の「ハーフ土間収納」がある。ゴルフセットが2組並んで入るスペースで、同じ趣味のツールやそれぞれの趣味のツールが十分収納できるようになっている。また、居室は完全なセパレートで、それぞれに独立したクローゼットを用意。通常この広さの物件であれば、居室間を可動間仕切り等にすることが多いが、「パートナーでありながらも一人一人の時間(生活)も大事にする」というLGBTsへの配慮が見える。

ボウルと鏡が2組の洗面所。その一つは、化粧用のライティングも付く
浴室も専有面積に見合わない1616サイズ。家事労働を軽減する自動洗浄機能付き
「自分磨き」にこだわる傾向の強い女性やLGBTsに配慮したフロア埋め込み体組成計

 その意図が最も明確に表れているのが、洗面所と浴室だ。洗面所は2ボウルでそれぞれ独立した鏡が付き、その一つは化粧用の調光機能も付く。床には体組成計が埋め込んであり、壁には音楽が流せるスピーカーが埋め込まれる。浴室はミストサウナ付きで、住戸面積から考えると大きめの1616サイズ。浴槽の自動洗浄機能まで付く。「(LGBTsカップルやDINKSは)共働きで、身だしなみ時間がバッティングしても大丈夫なようにした。LGBTsカップルの世帯年収は1,000万円を超える。キッチンの食洗器もそうだが、お金を出してでも家事労働を軽くして充実した時間を送りたいという考えがある」(同氏)。

 記者が、一般的なユーザーを念頭にこの物件をリノベーションするとしたら、水回りはもっとコンパクトにして、大きな寝室の1LDK(リビングか寝室の一部にワークスペースを設けたい)で提案したと思う。そうしたプランでは、2人それぞれのプライベート空間が持てない。同社の提案は、LGBTsカップルが「人生において何が大切か」「住まいで何が大切か」がよくわかり、記者も勉強になった。

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たった1戸のリノベーションマンションの販売だったが、担当者の企画意図を説明したパンフレット(12ページ)を作成し、見学者に配布した。社内の見学者も異例なほど多かったといい、同社の商品企画の上でもインパクトのあるチャレンジだったことがわかる

 同物件は、2021年12月末から販売を開始。毎週必ず集客があり、最終的に16組を案内し、22年1月末無事売却が完了した(購入者の詳細は非公開)。現地案内したユーザーの3割弱が同性カップルで、DINKS(プレファミリー)と一般ファミリーが同率だった。同社内での見学も多かったそうで、今後の商品企画の上でもインパクトのあったチャレンジだったことがわかる。

 同社は今後も、パートナーシップ証明書を発行している都内の自治体エリアで、「おとな2人リノベーション」を事業化していきたいという。「SDGsは当たり前の世の中になった。LGBTsの方々向けの分譲マンションも、あと数年もすれば当たり前になるはず」と言い切る末吉氏の「予言」も的外れではないだろう(J)。

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お知らせ

2022/6/13

「記者の目」更新いたしました

ICTで変化・多様化する本人確認手法』をアップしました。
本人確認については免許証や保険証、パスポート等で行なわれることが一般的でしたが、最近ではICTの活用やオンライン取引の普及により生体認証が用いられるシーンも増えているそう。今回はオフィスで行なわれている最新の実証実験等を紹介します。