記者の目

2023/5/22

“サードプレイス”を賃貸物件内に

賃貸住宅オーナーの取り組みを探る Part.23

 春から一人暮らしを始めた人にとって5月は、新たな生活、そして自分の部屋にも慣れる時期だろう。入居時には広く感じた部屋も、生活するにつれだんだんと狭く感じたり、逆に雰囲気の違う場所で気分転換したいと思うこともあるかもしれない。
 「賃貸住宅オーナー取り組みを探る」シリーズのPart.18にご登場いただいた池上正芳氏が、入居者のための共用空間を再整備し、入居者に向け提供を始めたと聞いたので、取材した。

◆先に利用者がいると入りづらかった様子の従前スペース

 今回取材した「百合ヶ丘池上マンション」(川崎市麻生区)を所有・運営する池上氏は、花や装飾にあふれたエントランスや共用の脚立や救急箱の設置、生活の中で音楽を楽しんでもらうために高品質のBluetoothスピーカーを部屋に備え付けるなど、細かい気づかい、おもてなし精神にあふれる賃貸経営をしている。

エントランスの黒板にはプロのイラストレーターが描いた可愛らしいイラストが
郵便受けにはスティックタイプのアロマを設置するほか、グリーンもプラス。ここに到着したら癒される入居者も多いはず

 2019年には3階の居室を共用スペース「コモンズ百合CAFÉ」として開設(詳しくは過去の記事を参照)。テーブルセットを設置し、ウォーターサーバー、コーヒーや菓子も備えつけ、3時間100円で入居者に提供していた。

 利用者からは好評の声を得ていた一方で、エレベーターなしの建物の最上階ということもあったのか、なかなか足が向かなかった人もいる様子だった。コーヒーを楽しむイベントやワークショップなどを開催したりして周知を図ったものの、その後コロナ禍に突入。そうしたイベントの開催も断念せざるを得なくなった。16.5平方メートルという限定された面積とテーブルセットが比較的小さかったからか、先に利用している人がいると後から来た人が中に入りにくいという状況も感じられたそう。「複数の人が使用しやすいようにするにはどうしたらいいか、となんとなく考えていました」(池上氏)。

 そうした中、2022年に1階のエントランスからも近い部屋が空室に。そこで同氏はこの部屋を新たな共用スペースとして活用することを決意。全面的にリノベーションを実施し、22年12月より「サードプレイス102」として、入居者への提供を開始した。

◆ベランダにはハンモックも

 今回のスペースも、前と同じ16.5平方メートルだが、天井を抜いたため、「コモンズ百合CAFÉ」とは同じ広さとは思えないほどゆったりとしたスペースに感じる。

新たにオープンした「サードプレイス102」

 「思い切って3点ユニットを撤去したんです。トイレは自室に戻り使用してもらうか、管理スペースにあるトイレを使用してもらえば不便はないと考えました」(同氏)。

 パーティ利用なども想定し、キッチンは対面キッチンへと刷新。カウンターにはハイチェアー2脚を用意し、複数使用でもそれぞれが気兼ねなく利用できるよう配慮している。

 スペースの中央には造作のテーブルを設置。大きめのテーブルのため、知り合いでない者同士が座ってもさほど気を使うことがなさそうだ。イスはすべて違うものをイケアで調達。費用の圧縮と高デザイン性を両立させている。天井をドライフラワーで装飾し、コンクリート打ちっぱなしの室内に温かみを与えている。

 ベランダにはハンモック!

独特のこもり感がくせになりそうなハンモック

座るとゆらゆらと居眠りしそうな心地良さだった。

 物件内にはこだわりの小物を使用するのが池上流。スピーカーとポットはバルミューダ、備え付けのコーヒーメーカーはネスカフェのドルチェグストと、置いてあるものが洗練されていて、この空間のおしゃれ度がぐんとアップしている印象だ。

備え付けのコーヒーはドルチェグスト。利用者は自由に飲める

 このスペースは、貸し切り利用もOK。友達との団らん、集中業務など、多様な使い方が可能だ。

貸切利用時にドアの表に貼る紙も、池上氏が作成して備えつける細やかさ

 オープンは2022年12月。コロナ禍だったこともあり利用者が一気に増えるということはないようだが、「就職活動でのオンライン面談で、部屋だといろいろ映ってしまうのが嫌だからと貸し切りで利用した方もいらっしゃいました。この場所を入居者の皆さんが好きなように使ってもらえたら嬉しいです」(同氏)。

 料金は、月額1,000円。新たな入居者募集の際には、こちらの利用権付きで募集している。同氏は、「『カフェなどを利用することを考えると、安く済んでありがたい』と言ってくださっている入居者もいらっしゃいます。コロナ禍が明け、これから利用する人がもっと増えてくれたらうれしい」と語っていた。

◇ ◇ ◇

 文中でも触れたが、池上氏は細やか配慮をされる大家さんとして業界でも有名人であり、大家のお仲間からも、「池上さんの〇〇の取り組みをまねした」という話を複数聞いたことがある。
 今回の共用スペースの設置についても、費用を投下し一度設置したら、それにまた費用をかけてリニューアル…というのは容易にできることではないと思うが、より使いやすい場所に…と手を入れた池上氏の入居者に、そしてこの物件にかける愛情には頭が下がる思いがした。
 清掃をし、お菓子を補充する…。そうしたオーナーの心遣いを感じるこの空間が、この物件の大きな魅力の一つとなる日も近いはずだ。(NO)

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