記者の目 / その他

2019/11/5

オーナーの配慮が感じられる賃貸住宅(後編)

賃貸住宅オーナーの取り組みを探る Part.18

 今回は、前回に引き続き、「百合ヶ丘池上マンション」(川崎市麻生区)でオーナーの池上氏がどのような取り組みを実施しているのか、その内容や思いも含めて紹介していこう。

 前回は、物件の概要紹介や、エントランス回りでの工夫を紹介させていただいた(前回の記事はこちら)。今回は、住戸内の工夫も含めて、さらにレポートしていく。

◆Bluetoothスピーカーを付帯設備に。理由は?


 専有部に到着すると、既存物件では大変めずらしく、ドアの鍵は電子錠を採用している。鍵を取り出すことなく解錠・施錠ができる便利な設備だが、これは、入居者の利便性を考え、導入したものだ。エントランスのオートロックも、取得当初はエントランスまで降りて中から開けなければならなかったそうだが、部屋にいながら開錠できるシステムを新規に導入した。そして部屋の電源などについても、最近ではホテルなどでよく見かけるUSBポート付きのものに変更している。入居者利便性を高める投資については、積極的に実施していることがよく分かる。

入居者の利便性を考え、電子錠を導入
電源はUSBポート付きのものに変更

 室内は、退去者が出るたびにリノベーションを実施しているが、工事の発注先として、自然素材を多用したナチュラルテイストのリフォームが得意な会社、特徴的な色使いやコンセプトがはっきりした部屋に仕立てるのが得意な会社、そのどちらかに依頼している。「部屋の好みも人によって違います。当マンションを選択してくれる人のニーズになるべく対応できるように、テイストの異なる部屋を仕立てるのが狙いです」(同氏)。

ナチュラルテイストなリノベの部屋
男性的な、特徴がはっきりしたリノベの部屋

 ナチュラルテイストな部屋では、池上氏の希望で、一部の壁を有孔ボード仕上げに。ボードに専用の金具などを用いることで、棚を設置したり、絵画などを掛けられたり、と、部屋を入居者自身で可変することができるようにするためだ。詳細は、月刊不動産流通2019年11月号編集部レポート「DIY賃貸 普及のカギは?」をご覧いただきたい。

 リフォーム後の部屋には、同氏自らがステージングを施す。部屋のイメージに合う照明器具などもその部屋ごとに選択して設置。さらにインテリア小物や雑貨など、仕立てる部屋の雰囲気をイメージしながら、自ら購入して設置する。

 それは、部屋の雰囲気づくりだけではなく、部屋の使い方の模範を示す場でもある。「限られたスペースですので、例えば『ここに鏡を置いて、小さな椅子を置けば、化粧などをするスペースとして活用できる』と思ったら、そのイメージでステージングします」(同氏)。

リノベーション工事後は池上氏がステージング。写真は、このコーナーをちょっとしたメイクなどに使用したら便利ではないか?と考えた池上氏が、鏡を掛け、椅子を配置した

 なお、ステージングに使用したものは、基本的に入居してくれた人に自由に使ってもらうために、そのままの状態で引き渡す。おしゃれなアロマキャンドルやフォトスタンドなどは、特に女性入居者から喜ばれているそうだ。

有孔ボードに棚を据え付け、雑貨でステージング。雑貨は入居者にプレゼントしている

 同マンションには、付帯設備として特徴的なものがある。それがBluetoothのスピーカー。音楽鑑賞が趣味の一つである池上氏は、音楽を楽しみたい入居者に良い音響を提供したいとの思いから、設置している。「部屋の上部の方に棚を設けて、そこに設置しています。スマートフォンやタブレットをBlootoothで接続すればよい音響で楽しめます」(同氏)。

 ちなみにスピーカーは有名メーカーの製品で、価格は数万円!だそうだが、そこは「限られた空間だけど、そこでの生活をなるべく楽しんでもらたい」との思いから、設備として備え、提供している。

付帯設備としてBlootoothスピーカーを各部屋に設置。スピーカーは部屋のイメージなどにより異なる形状のものを配置する気配りも

◆入居者と共用ルームの使い方を検討

 同氏は入居者との連絡ツールとして、そして広告ツールとして、SNSを積極的に活用している。同物件のLINE@(ビジネス用のLINEのアカウント)を設け、入居者とのやりとりに活用している。「設備の不具合の連絡や質問など、物件専用のLINE@で連絡をいただくようにしています。即時に対応できるので私自身助かります。『おすすめの飲み屋さんを教えてほしい』などの質問が寄せられたりなど、入居者との距離を縮める効果もあると思います」(同氏)。

 また、FacebookやTwitter、Instagramにもアカウントを設定し、オーナーとしての取り組みや思い、入居者との交流などを積極的に発信している。「Twitterはあまり使いこなせていなくて。もっぱらInstagramを使うことが多いです」(同氏)。同氏のInstagramをのぞくと、ステージングした部屋の様子や、入居者との交流の様子などが多数アップされている。物件の雰囲気やコミュニティの様子まで伝わってくる。

 さらに2019年9月、新たな取り組みとして同物件のホームページ「BROOKLYN in yurigaoka」を開設。物件のコンセプト、部屋の様子、オーナーの人となりなども含めて、積極的に発信している。同氏は、「築年数が経過しているので、ポータルではアピールがなかなか難しい。私が自ら発信することで、物件の魅力を伝えると共に、この住まいを喜んでもらえる方を積極的に誘引することにつなげたい」と語っている。ホームページからは、オーナーの人柄、そして入居する人の雰囲気まで伝わってくる。

 同氏は新たな取り組みにも着手している。物件の1室を使い、入居者サービスにつなげられないかと思い立った。どのような使い方が一番入居者に喜ばれるかを知るために、入居者に声をかけてこの部屋に集まってもらい、おすすめのお店などの情報を交換しながら、交流を深める会合を開催。さらに知り合いのバリスタに来てもらい出張カフェも催し、コーヒーを飲みながら、スペースの活用法について意見を聞くといった取り組みも行なった。

出張カフェ開催時の様子。コーヒーを飲みながらこの部屋の活用法について意見を聞いた


 そしてこのほど、「コモンズ百合CAFE」としてウォーターサーバー、コーヒーセット、お菓子も備えた「コモンズ百合CAFE」として活用を開始した。「テーブルセットなども備え、3時間100円で入居者に利用していただいています。コミュニティスペースとして、集中ブースとして、うまく活用してもらえたらいいな、と思っています」(同氏)。

このほど入居者向けのスペース「コモンズ百合CAFE」として運用をスタート。周知のためにおしゃれな案内チラシも作成
「入居者の方に喜んでもらうことが大好き」と語る、池上正芳オーナー

☆    ☆  ☆

 池上氏は、大変人当たりが柔らかく、温かいお人柄の方。その人柄を反映し、物件に対する取り組みも、大変優しさにあふれている。入居者への思い、それが結果として空室対策につながっている。この好循環が他の賃貸物件にも波及していけば…。そう願わずにはいられない取材となった。(NO)

【関連記事】
オーナーの配慮が感じられる賃貸住宅(前編)」(2019/10/28)

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