記者の目 / その他

2019/10/28

オーナーの配慮が感じられる賃貸住宅(前編)

賃貸住宅オーナーの取り組みを探る Part.18

 今回紹介するのは、取得した既存物件を、「入居してくれた人には便利に、楽しく生活してほしい」との思いから、さまざまなアイディアを実践しているオーナーの取り組みである。

◆カリスマ大家の講演を聞き、“オーナー業”に目覚める

 小田急線「百合ヶ丘」駅徒歩6分に立地する「百合ヶ丘池上マンション」(川崎市麻生区、1987年築、総戸数42戸)を所有するのは、専業大家の池上正芳氏。建物は築30年超、中心専有面積帯が16.5平方メートル、3点ユニットバスと、条件的には入居者獲得に少々苦労しそうな物件だ。

「百合ヶ丘池上マンション」外観

 この物件、もとは池上氏の祖母の所有で、10年ほど前に同氏が取得。当時は物件の管理は管理会社に任せ、毎月家賃が振り込まれるのを待つ…という、いわゆる「受け身の、普通のオーナーでした」(池上氏)。

お話を聞かせていただいた、池上正芳オーナー

 そんな同氏が賃貸業に目覚めたきっかけは、賃貸住宅オーナー向けのイベントに参加し、あるカリスマオーナーの講演を聞いたこと。「空室にあえぐ物件を引き継ぎ、どのような取り組みをして再生していったかといったお話でした。取り組み内容も目からうろこが落ちる思いで聞きましたが、それ以上に、『賃貸業に、こんなに若い人が目を輝かせて取り組んでいる。私はお金を払って他の人に任せきり。楽しくてやりがいがある賃貸という事業、積極的に取り組まないともったいないのではないか、と痛感したのです」(同氏)。

◆エントランスには救急箱や日焼け止めが

 では、具体的な取り組みを紹介しよう。「百合ヶ丘池上マンション」は、エントランスから、すでに他の物件とは異なる印象を与える。

プロのイラストレーターによる可愛らしいイラストで入居者を出迎える(写真はエントランスそばに備えられた黒板)
随所にイラストが飾られ、雰囲気を和ませる

 エントランスそばの黒板、そしてエントランス近くの壁に貼られているのは、可愛らしい女の子のイラスト。入居者への案内通知もイラスト入りだ。イラストは、イラストレーターに依頼し、この物件用にと描いてもらっている。「イラストにより雰囲気が柔らかくなりますからね」(同氏)。雰囲気づくりのためにプロのイラストレーターにわざわざ描いてもらう。コスト抑制の意識が高いオーナーはまずやらないだろうが、共用部の雰囲気を大切に思う同氏は、あえてそこにコストを投入している。

オーナーからの連絡やメッセージにもイラストをいれている
ハロウィンにちなみ、お菓子を用意して入居者に自由に食べてもらっている。お菓子はなくなると補充する心配り

 そして、エントランスを入った場所には棚とテーブルを設置。手指のアルコール除菌剤、マスク、救急箱を備え、自由に使用してもらっている。春・夏には、日焼け止めスプレーも用意する細やかさだ。

救急箱のほか、ルームスプレーや日焼け止めも
マスク、アルコール除菌剤も自由に使用できる

 なお、そばには、脚立や大きめの懐中電灯、工具なども備品として置いている。「スペースが限られていますので、いざというときに必要なものは、オーナーが用意し、みんなで使えるようにするのが良いのではないかと思い、用意しました」(同氏)。

脚立や懐中電灯、巻き尺なども入居者が共用できるよう設置している

 エントランスを拝見しただけでも至れり尽くせりの温かみを感じるが、その気配り・心配りは各住戸内からも感じられる。

 次回は、専有部の取り組みを中心に紹介したい。(後編につづく)

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