記者の目

2025/2/10

女性の活躍を企業が積極サポート!(後編)

少子高齢化が進む今、女性の社会進出・活躍は社会の要請であると言える。
前編では(株)コスモスイニシアの取り組みを紹介したが、後編の今回は、三菱地所(株)について紹介する。

社内のみならず来街者も含め、女性の健康向上に向けた活動を展開

 “丸の内の大家”と言われる三菱地所(株)は、「まるのうち保健室」という取り組みにより、社内のみならず、大丸有エリアのワーカー、来街者を含め女性活躍を支援。具体的には、女性に特化した健康測定や健康やライフプランなども含めたカウンセリング、セミナー等の開催により、ヘルスリテラシーの向上につなげる活動を行なっている。

 2014年、働く女性が就業中にも気軽に立ち寄れる、相談できる保健室のような場所として企画した「まるのうち保健室」をスタート。BMIや骨密度などの測定、管理栄養士とのカウンセリングなどを受けられるイベントを開催していった。

 その取り組みの中で、ヘルスリテラシー向上につなげるために、健康増進事業等を展開する(一社)ラブテリ(東京都中央区)と共に、大丸有エリアで働く女性に大規模なアンケート調査を実施したところ、驚きの現実が浮き彫りとなった。
 「それによると、1日の平均摂取エネルギーはわずか1,479kcalで、戦後間もなくの女性の1日の総摂取カロリーよりも低いという結果に。朝食を抜いている女性回答者も多く、最多睡眠時間は5~6時間と、大変な“不健康状態”にあることが分かったのです」と語るのは、エリアマネジメント企画部マネージャーの井上友美氏。

 残業を長時間こなすのが当たり前の時代でもあったため、残業時間が長時間に及ぶワーカーが多く、さらに終業後に飲みに行き、翌朝ぎりぎりまで寝ていて朝食を食べない、というサイクルの人が多かったことが推測できる。健康を維持しながらキャリアを積み、妊娠出産などのライフイベントもこなしていくためには、この状況を改善する必要がある。女性のウェルネスに焦点を当てた取り組みをまち全体で展開しよう、との考えに行きつき、以来多面的なさまざまな取り組みを実践している。

健康リテラシー向上へ、セミナーやイベントを開催

 現在は、オンラインセミナーを主軸とした「オンラインまるのうち保健室」や、リアルイベントや健康関連イベントへのブース出展、女性の健康調査やその結果の公表、提言の発信、産学医連携による相談窓口の設置や健康サポートのための施策の実施など、幅広く実施している。

 2021年より秋に開催している「オンラインまるのうち保健室」では、テーマを決めて無料で誰でも視聴可能なセミナーを開催。内容は「かかりつけ婦人科医、ありますか?」「『卵子凍結』『精子凍結』のメリデメ大解説」「眠り術でパフォーマンス改善」など。特定の年代に限定せず参考にしてもらえるようさまざまなテーマを用意している。また共働きが増えていることから男性も参加できるテーマも用意している。配信済みのセミナーはアーカイブ化し、広く公開している。
 専門家や参加者と質問・意見を交わせるZoom座談会や、ワークライフバランス、妊活など同じ悩みを持つ人で集えるようなリアルイベントも開催している。「希望日時を登録することで20分間カウンセリングを受けられる『Zoomカウンセリング』もあり、こちらは人間関係、病院に行くほどでもない症状、病院の選び方などちょっとした相談でもしやすいと好評いただいています」(同氏)。

2024年秋に開催したオンラインまるのうち保健室の案内。健康、介護、ワークライフバランスなど、さまざまなテーマのセミナーを無料で提供(写真提供:三菱地所(株))
オンラインだとセンシティブな内容でも参加しやすいとの声も寄せられているそう。写真は「かかりつけ婦人科医、ありますか?」の回の様子(写真提供:三菱地所(株))

 調査研究では、2022年には、神奈川県立保健福祉大学の協力も得て都心の女性ワーカー300人を対象に調査した結果を「働く女性ウェルネス白書2022」として発表。ピルの服用率が15%と全国平均の約5倍にのぼる、リモートワーク実施者はPMSが軽い傾向が確認できるといった、医療との連携に可能となった質問も盛り込み調査を実施・公表。併せて女性が自分らしく働き続けるために社会、企業、ワーカー自身、それぞれがウェルネス実現に向け実施できる具体例も提言している。

 さらに「働く女性 健康スコア」を開発し、23年のトライアルを経て24年より正式にサービス提供を開始した。
 これは、就労課題を企業ごとに見える化するサービス。参加企業を募り、その企業の女性従業員にヘルスリテラシーや女性特有の健康課題、就業環境などについて50問程度のアンケートに回答してもらい、全体の平均値とその企業の立ち位置を提示することで、その企業ではどういった策を講じるべきか、どういったポイントに注力すべきかといったことを見える化してフィードバックする取り組みだ。こちらの取り組みも現在無料で実施しているという。

 「女性の問題とはいえ、女性のリテラシーだけ上げれば解決するという問題では実はないんです。例えば、職場の環境次第で女性特有のPMS(月経前症候群)や更年期を感じづらいというデータがあります。女性の健康リテラシー向上には、男性も含めた職場全体のリテラシー向上や環境改善を進める必要があります。そのために男性にも回答するように一部改訂するなどもしています」(同氏)。
 この取り組みにより、女性の働きやすい環境を実現する、そしてその文化を醸成することにつなげ、大丸有エリア全体で、女性が健康に、ライフイベントを楽しみながら、仕事とプライベートを両立できる環境整備につなげていく考えだ。

2024年3月に丸ビル1階のスペースで開催したイベント「Will Conscious Mrunouchi2024まるのうち保健室~私と向き合う時間~」の様子。健康の状態の測定や健康に関する悩み相談対応、自然派食品の紹介など、提携企業がさまざまなブースが出展し、盛会に(写真提供:三菱地所(株))
同イベントで「働く女性 健康スコア 2024」の結果を発表。写真は、その結果を基にして用意した、来場者が自身の健康状態や環境をチェックできる簡易展示(写真提供:三菱地所(株))

 こちらのサービスも、現在は無料で提供している。また、「働く女性 健康スコア」のレポートは公開されており、誰でも見ることができる。
 なおこの取り組みの中で課題となったテーマでセミナーやミーティングのテーマに反映されており、エリア全体で女性活躍を支援する環境が着実に醸成されているといえそうだ。

■ ■ ■

 取材を終えて頭に浮かんだのが「多様性」という言葉。仕事を続ける・辞める、結婚をする・しない・出産後も仕事を続ける・続けない…さまざまな選択肢がある中で、その選択を、健康な状態で、性別関係なく、自身が納得できる形で選択することができる…。そんな多様性を認める社会がもっともハッピーではないかとつくづく思った。
 今回取材した二社の取り組みは、女性支援が主目的ではあるが、実際はそうした社会実現につながる取り組みではないかと感じた。(NO)

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