縮小市場での生き残りへ、工務店7社がタッグ
持ち家(注文住宅)市場の縮小がますます加速している。「住まいといえば一戸建て」という地方都市にも、その波は確実に押し寄せており、地域の工務店の多くが苦境に晒されている。そうした中、地場の住宅会社や工務店がタッグを組み、共存共栄の道を探る取り組みが増えてきた。ここでは、岩手・盛岡の地域工務店による「合同住宅展示場」を紹介する。
止まらない持ち家着工減に危機感
令和の世となってからも、持ち家(注文住宅)市場の縮小が止まらない。2024年の持ち家着工戸数は21万8,175戸。19年(令和元年)から5年間で約24%も減少している。少子高齢化による市場の縮小、資材高騰・人件費増による建築コストの上昇、住宅価格の高騰と実質賃金の減少を背景に、「注文住宅離れ」は加速する。
都市部と違い今でも一戸建てが住まいの主役である地方都市では、注文住宅市場の低迷はさらに深刻だ。「需要が4割は減っている感覚です。大手・中堅問わず、県外資本のハウスメーカーの参入も目立ち、競合はますます激化しています」と話すのは、岩手県下を中心に注文住宅建築等を手掛ける(株)フリーダムデザイン(岩手県盛岡市)代表取締役の小池康也氏。岩手県の24年の持ち家着工件数は2,533件、19年比約35%の減少は全国平均を上回り、小池氏の肌感覚とも合致する。
地域に根を張るハウスメーカーや工務店の現状はもっと深刻だ。営業エリア内の地場業者同士が減り続けるパイを奪い合うだけでなく、県外からの参入もある。ふんだんに広告宣伝費をかけ住宅展示場を展開する大手企業と違い、工務店1社単独で住宅展示場へ出店するのは厳しいし、ブランディングにかけられるコストも限られる。さらにコロナ禍も追い打ちをかけた。「地域の工務店というのは商売するのに手いっぱい。“井の中の蛙”で、市場のことやユーザートレンドの現状などの情報にも疎い。ますます競合他社と差がついてしまうわけです」(小池氏)。
こうした地域の工務店の生き残り策として、にわかにブームになっているのが、「競合」ではない「協業」の発想に基づく、工務店合同の住宅展示場の運営だ。青森県五所川原市周辺の地場工務店5社による「ミライエプロジェクト」が元祖と言われている。工務店が合同で住宅展示場をつくり合同で運営、合同で集客を図る。展示場は期間限定の運営とし、最終的に建売住宅地として販売。別の住宅地に新たな住宅展示場をつくる、という流れ。「ミライエプロジェクト」は2017年から8期にわたり住宅展示場の運営に成功。今では、全国にフォロワーが生まれている。
小池氏も24年にこの噂を聞きつけ、同業者3社で青森の住宅展示場を見学。関係者に話を聞くなどして、その可能性を確信した。コアメンバー3社を介してさらに賛同する工務店を募り、7社合同で事業組合を発足。地元行政や住設メーカーなどを集め事業説明会を開き協力を仰ぎ、25年3月、盛岡中心部に近い新興住宅地に、広さ約1,600平方メートルの合同展示場「IWATEなないえタウン」をオープンした。
発想は「博多の屋台」。集合体としての認知度アップ目指す
「IWATEなないえタウン」は、岩手県下の盛岡、滝沢、雫石、紫波エリアを地盤とする工務店7社(フリーダムデザイン、(有)田村工務店(岩手県盛岡市、代表取締役:村上洋樹氏)、サトコンホーム(株)(岩手県滝沢市、代表取締役:佐藤重幸氏)、(株)八重働工務店(岩手県盛岡市、代表取締役:八重畑 順一氏)、(有)美建工業(岩手県岩手郡、代表取締役:櫻田文昭氏)、(株)ビーハウジング(岩手県滝沢市、代表取締役:金 剛一氏)、(株)ルームクラフト(岩手県盛岡市、代表取締役:髙橋康文氏))が参加。各社1棟のモデルハウスのほか、案内員が詰めるセンターハウスを設置している。
どこか画一的な家が並ぶ大手ハウスメーカー中心の住宅展示場と違い、地元の気候・風土を知りつくし、そこに住まうために最適化された各社のモデルハウスは創意工夫に溢れ、どれもみな個性的だ。下に並ぶ写真を見てほしい。
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「発想は『博多の屋台』です。屋台一つ一つは有名ではないけれど、屋台が集まる一画がブランド化している。我々も『岩手のハウスビルダー』という集合体で有名になれれば」(同氏)。
内外観のデザインもコンセプトも各社バラバラだが、共通しているのは「品質」。岩手県が進めている省エネ性が高く、快適で環境にも優しい「岩手型住宅」のガイドラインに基づき、ZEH+水準の断熱性能や、創エネ・畜エネ設備の設置、県産材の使用等が図られている。
抜け駆け営業厳禁。「お互いに褒めあう」がルール
展示場に来場したユーザーは、まずセンターハウスで顧客リストに記名をする。以後は、各社のモデルハウスで記名を求められることはない。記名が終わったら、各社のモデルハウスを順番に見学してもらい、最終的に気に入った2社を選んでもらい、その2社だけが商談を継続できる仕組み。「抜け駆けはできないようになっています。また他社の商品について聞かれても、悪いことは絶対に言わず『お互いに褒めあう』こともルールにしています。褒めるからには、その住まいをよく見ないといけない。同業のつくった住まいを見て、自分たちの技術を磨くという目的もありますね」(同氏)。
各モデルハウスはそのまま販売する。分譲地に作っているのは、そのためだ。もちろん、ユーザーは気に入った工務店に注文住宅を依頼することもできる。展示場オープンから1年間を事業期間として、運営終了後は別の場所に同様の「売却型展示場」を作ることを繰り返していく。
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各社のプロモーションに加え、合同ホームページでのプロモーション、SNSでの情報発信、セミナーなどイベントの開催などの取り組みで、3月15日のモデルルームオープンからの来場者数は、半年間で500組に迫っており、モデルハウスを含め14棟の受注に成功しているという。
今後は、参加各社同士、各社の従業員同士の交流を深め、将来的には資材の共同購入や合同社員採用など、さらに踏み込んだ協業の在り方を模索していくという。
「工務店1社ではできないことがたくさんあります。住宅展示場の運営を通じて、地元の工務店の頑張る姿を知ってもらいたい。参加している各社の社長は、本当に楽しんで取り組んでいますので、その姿を見て、地元ユーザーの皆さんも『なんだかおもしろそうな連中だな』と感じてもらえればありがたいです」(同氏)。







