競争の激しい賃貸住宅市場にあって、入居者獲得のため、どのような工夫により魅力的な賃貸住宅に仕立てるかは、ディベロッパーや管理会社、オーナーが常に頭を悩ませるところ。そんな中、JKK東京(東京都住宅供給公社)がこのほど、「ペット共生」を前面に打ち出した賃貸住宅を竣工した。ペットと住める住宅は現在、数多く存在しているが、この物件はどうやら“一味違う”らしい…そう聞いた記者は現場に飛んだ。
◆資格有するスタッフが入居者にアドバイス
物件は、「カーメスト用賀馬事公苑」(東京都世田谷区、総戸数173戸)。築65年超の旧用賀住宅を、ペット等共生住棟(1号棟:79戸)と一般住棟(2号棟:94戸)に建て替えた賃貸住宅だ。基本的な情報は過去のニュースに詳しい。ここでは、同物件の「ペット共生」の工夫に焦点を当てたい。
最大の特徴は、ハード面(ドッグランや足洗い場等)の整備にとどまらず、ソフトサービスの提供にも力を注いでいる点。その象徴が、敷地内に開設した「ペット相談室」だ。同物件の「ペット面」における管理をJKK東京から受託している(株)ムサシシステム(埼玉県越谷市、代表取締役:関根博之氏)の常務取締役・鈴木亮人氏によれば、管理人室とは別にペット相談室を独立で設けている物件は「かなり珍しい」という。
同社が「動物介護士」や「動物介護ホーム施設責任者」といった専門的な資格を有する社員を、ペットサービススタッフとして1人配置させることで、しつけや飼育方法、食事など日常的な相談から、かかりつけ病院のアドバイス、介護、予防接種管理、去勢に係る相談など専門的なものまで、入居者が気軽に相談できる体制を整えた。「『ご家庭に誰もいなくなってしまうタイミングは、犬がほえてしまわないよう、ラジオ放送などを流しっ放しにして人がいる雰囲気を出してください』といったアドバイスなどが、ここでできるようになるイメージです」(鈴木氏)
◆基準も「民営住宅より厳しく」
入居者およびペットの面接審査も、同相談室で直接実施(犬のみ。猫はオンライン)。事前に収集したヒアリングシートの内容は正しいか、ほえ癖や噛み癖、攻撃性はないか、飼い主としての心構え(飼い主としての責任の自覚や、ペット共生に対する理解など)に問題はないか、などを見る。
民営住宅より厳しい基準設計も特徴だ。犬種の制限や飼い方における一定程度のルール、面接の実施は民営住宅でもあるが、「例えば、去勢手術なんかは義務付けられていないことも多い。本物件では、そこも入居に当たっての基準に入っており、当社が書類審査の段階でチェックしています」(同氏)。ミックス犬についても、「決められた犬種の中での掛け合わせでなければ入居は受け付けないなど厳し目」(同氏)だそうだ。公的住宅として、万全の体制を整えることで、どのような入居者であっても安心して暮らせるような環境づくりに配慮していることがうかがえる。
ハード面では、水飲み場やベンチを設けたドッグガーデン(約150平方メートル)、ペット用の足洗い場、汚物流し、リードフック、ペットカート置き場を整備。住戸の専有部の床材は滑りにくくかつ傷や汚れにも強いタイプのフローリングを採用し、玄関にはペットゲート設置用の下地を導入。一部住戸にはキャットウォークも設置されている。
こうした「ペット共生」の取り組みがユーザーから好感され、2025年10月16~30日に実施した入居者募集では、「ペット等共生住宅」は募集戸数74戸に対して172件の申し込みを集めた(平均倍率約2.3倍)。また、同月25・26日に開催した予約不要のオープンルームには、全体で1,000人超が来場。高い注目度が見て取れる。
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以前、低コストで賃貸住宅に付加価値を付け、空室解消や長期入居につなげている事業者を取材した(詳細は、『月刊不動産流通』2025年12月号の特集を参照)。工夫を重ね賃貸住宅の魅力向上に努めている取り組みは、取材者として大変勉強になったとともに、住宅を借りる側の一ユーザーとしても興味深く聞かせていただいた。
今回のJKK東京の取り組みも、賃貸住宅の差別化策の一つだろう。入居者にとっては、ペットのことをいつでも気軽に、そして専門的に相談できる場所が物件の敷地内にあるというのは心強いはず。引き合いが強くなるのも納得だ。
さて、新築分譲マンション価格の高騰は止まる気配を見せず、今後ますます、賃貸住宅の注目度が上がることは間違いないとみられる。そして、「本当にここで理想の暮らしをかなえられるか」と、ユーザーの賃貸住宅を見る目も厳しくなっていくだろう。
ユニークかつ入居者目線に立った住宅づくりが、これまで以上に求められる時代になっている。各社の取り組みに期待したい。(木)
