記者の目 / 開発・分譲

2009/11/13

団地を「ルネッサンス」する(下)

アイディア満載、UR都市機構の実証試験

 老朽化した団地の再生に向け、実際の団地を使ってさまざまな手法を検証しているUR都市機構の「ルネッサンス計画」。前回は、主として建物そのものの再生に関した実証試験を紹介した。今回は、さまざまなユーザーを想定した間取りプランを紹介したい。

隣り合う2戸をつなげた住戸。接続部にキッチンを置くことで、PP分離を実現した
隣り合う2戸をつなげた住戸。接続部にキッチンを置くことで、PP分離を実現した
2戸1住戸で提案する高齢者自立プラン。かつての1戸(35平方メートル)をまるまる使った夫婦の寝室は将来の介護を視野に入れたもので、通常の玄関とは別動線で入れる。水回りは、車いす利用ができる広さ
2戸1住戸で提案する高齢者自立プラン。かつての1戸(35平方メートル)をまるまる使った夫婦の寝室は将来の介護を視野に入れたもので、通常の玄関とは別動線で入れる。水回りは、車いす利用ができる広さ
上下階をつないだメゾネット住戸。SOHO利用を視野に、下階をワーキングスペースとして提案している
上下階をつないだメゾネット住戸。SOHO利用を視野に、下階をワーキングスペースとして提案している
4戸を1つにしたプランは広大。1戸分まるまるを、2世帯が集うキッチンとして提案。上下階をつなぐ階段はストレート階段。開口部にFRP製のグレーチングを使うことで、上階からの日差しを導く
4戸を1つにしたプランは広大。1戸分まるまるを、2世帯が集うキッチンとして提案。上下階をつなぐ階段はストレート階段。開口部にFRP製のグレーチングを使うことで、上階からの日差しを導く
床を堀下げ、天井スラブ(上階床)を撤去し、天井高を最大3
床を堀下げ、天井スラブ(上階床)を撤去し、天井高を最大3
300ミリまで拡大した住戸。段差を付けることで、1つの空間を目的ごとに使い分けている
300ミリまで拡大した住戸。段差を付けることで、1つの空間を目的ごとに使い分けている
上の住戸の玄関。専用庭側に設置している。基礎の高さ分盛り土をすることで、専用庭と玄関、サッシュの高さをそろえている
上の住戸の玄関。専用庭側に設置している。基礎の高さ分盛り土をすることで、専用庭と玄関、サッシュの高さをそろえている
上の住戸と対になる、1.5層住戸。シングル向けを想定し、天井高を有効利用したロフトと収納を設置した
上の住戸と対になる、1.5層住戸。シングル向けを想定し、天井高を有効利用したロフトと収納を設置した

多彩な住戸プランで多世代を誘導

 「ルネッサンス計画」では、構造躯体のさまざまな改修施工技術の検証に加え、世帯の高齢化が進む団地へ多彩な世代を呼び込むことを目的に、さまざまなユーザー層に合わせた住戸プランを提案している。

 とはいえ、もともとの住戸は専有面積がわずか35平方メートル。現代の水準では、2人世帯ですら厳しい広さである。そのままリニューアルしたところで、専有面積が広がるわけではない。では、どのように空間を広げるのか?

 そこで生きてくるのが、前回紹介した「住棟単位の改修技術」である。躯体の外観など基本的な構造はそのままに、構造壁や柱を巧みに動かしながら、内部構造をまったく別物に改修しているのだ。
 
複数の住戸をつなげて広げる

 てっとり早く居住面積を増やす方法として誰もが思い浮かべるのが、「2つの住戸をくっつければ?」という考えだろう。同計画でも、複数の住戸を縦・横でつなげたものをいくつか提案している。

 たとえば、横に並ぶ2戸をつなげた「2戸1住戸」(専有面積70平方メートル)は、ファミリー向けと高齢者向けの2パターンを提案。ファミリー向け住戸は、戸境壁を取り払い1つになった横長の住戸を、キッチンを中心にパブリックスペースとプライベートスペースを振り分けたPP分離の間取り。バルコニーを連続させたことで十分な採光が得られたほか、キッチンからリビングと子供部屋を見渡せる(子供部屋にはキッチンを通らないと行けない)ようにするなど、子育て世帯を念頭に置いた間取りとなっている。また、無垢フローリングや珪藻土クロスなど、環境配慮型住戸としても提案している。

 一方、高齢者向けのプランは、高齢者2人暮らしを念頭に、(1)自立可能な高齢者、(2)身体機能が低下した高齢者、(3)車いす利用者のいずれもが快適に過ごせるよう配慮し、高齢者が永住できるプランとして提案。玄関2つをそのまま残し、その1つは車いすなどが収納できる「土間玄関」とした。洗面・浴室は車いすで利用できるよう、大きな開口部を持たせ、隣接して10畳大の寝室を設置。両住戸の連結部分には、伝い歩きにも使える長いカウンターを設置。もう1つの玄関から別動線でアクセスできる部屋を、健常な高齢者向けのホビールームとして提案している。

 横方向ではなく、縦方向に連結したメゾネット住戸もある。床の一部をL字型(約3平方メートル)に切り抜き螺旋階段を設置してつなげたもの。上層階住戸の旧玄関部分には浴室を設置。下層階をLDK兼ワークスペース、上層階を寝室とし、1LDK(68平方メートル)住戸としている。梁を削って設置したテラスが印象的だ。

 縦2戸と横2戸とを連結した、二世帯想定の「4戸1住戸」(138平方メートル)の提案もあった。さすがにこれだけ広いと「やりたい放題」の部分もあり、上下階をつなぐガラス製のストレート階段は、マンション住戸でみると相当なインパクトがある。リビングは上下に一か所ずつ、大型のL字型キッチンが設置された「コミュニティキッチン」は、ほぼ1戸分のスペースを取っている。また、この住戸は、窓枠上の梁を縮小することで高さ2,000ミリのサッシュを入れていることもあり、室内が非常に明るかった。

上下方向に開放感を持たせる

 たとえ専有面積がそのままでも、上下方向に開放感を持たせることで、人間は広さを感じることができる。それを実証した住戸もいくつか用意されていた。

 DINKS向けを想定した1階住戸は、既存の床をグランドレベルまで約300ミリ堀下げ、さらに天井スラブを撤去し、1,700ミリ天井をかさ上げ。階高を4,480ミリとした。これにより、グランドレベルにキッチン、一段上がリビング、ロフト部分を寝室と、空間をやわらかく分離した。また、南側に盛り土を施すことで、サッシュと高さを揃え、専用庭とし、同時に玄関も設置、戸建感覚を出している。
 また、この住戸の上階は、床レベルが約900ミリ下がり、天井高が約3,300ミリまで拡大している。つまり、3戸分の階高を2戸で使う、というわけだ。

 もっとシンプルに天井高を上げている住戸もある。1階を専用玄関とすることで、既存床から約400ミリ床を下げたもので、サッシュも高さ2,200ミリ、かつウッドデッキと段差をなくしたフルオープンサッシュを採用している。天井は、高さ2,700ミリを確保したうえで、梁も小さくしている。

 この空間の立体的利用法は、「エレベータを設置しないまま、住戸の魅力を増す手法」として提案されており、世代を限定して提案すれば、極めて実用的に思える。

採算度外視 それでもコスト1割減 CO2半減

 まだまだ書きたいことはある。だが、そろそろスペースも尽きてきた。最後に、最も気がかりな「コスト」について触れておきたい。いくらリニューアルがユーザーニーズを満たし、環境にやさしくても、コストが見合わなければ結局建て替えという選択肢を選ばざるを得ないからだ。

 今回は実証試験ということもあり、採算度外視の施工となっているが、それでも同機構の試算では、同規模建物への建替えと比較して、建築コストは約2割、廃棄物処理を含めたCO2排出量を約5割削減できるという。しかも「スケールメリットや発注形態を考えると、まだまだコストダウンの余地はある」(UR都市機構都市住宅技術研究所住まい技術研究チームリーダー・徳中聡子氏)というから期待できる。
 ただし、「実証試験に導入した各種技術については、現行の法規に対応していないものもあり、即実用化することは難しい」(同氏)としているため、実際の団地再生に用いられるのは、まだ先の話のようだ。

 今後は、ソフト面での再生手法検証を核とした「ルネッサンス計画2」へ移行。同団地を始め、再生事業により用途廃止されたUR賃貸住宅を、民間事業者へ住棟もしくは敷地ごと賃貸または譲渡。民間事業者のアイディアで、UR賃貸住宅とは異なる多様な住宅(シェアハウス、ケアサービス付き住宅など)や子育て・高齢者施設等として再生していくという。

 今回、まさに朽ち果てようとしていた建物が、躯体そのものはほとんど問題なく使えることを教えてもらった。また、開発から半世紀を経た、深い緑に覆われた素晴らしい環境も目の当たりにした。これを次代に継承しない手はない。

 URの実証試験は、一般公開されている。業界関係者は、ぜひ見学してほしい。(J)

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