記者の目

2011/3/29

東日本大震災、「管理会社の対応に“心”温まる」

新浦安、「液状化被災者」が語る

 3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震。東北エリアはもちろん、関東全域において大きな爪痕を残した。首都圏のなかでも湾岸エリアにおける「液状化」は深刻で、千葉県浦安市、東京都江戸川区、江東区などのエリアで甚大な被害をもたらしたのは、報道などですでにご承知のとおりだ。  今回は、なかでも被害が深刻とされている「新浦安」の新築分譲マンションに住んでいるユーザーにインタビューする機会を得たので、被災後におけるマンション管理会社の対応などを中心に記したい。

新浦安の新興埋立地に位置する分譲マンションの敷地内でも液状化が起きた。写真下はマンションの入り口で、液状化によりタイルがめくれ上がっている
新浦安の新興埋立地に位置する分譲マンションの敷地内でも液状化が起きた。写真下はマンションの入り口で、液状化によりタイルがめくれ上がっている
マンション敷地内で一番被害が深刻だった駐車場
マンション敷地内で一番被害が深刻だった駐車場
歩道だった部分も液状化で使用できない状態。ガードレールは埋没している
歩道だった部分も液状化で使用できない状態。ガードレールは埋没している
「境川」に架かる橋も断裂が起き、一部崩れている
「境川」に架かる橋も断裂が起き、一部崩れている
「境川」の堤防付近。亀裂が生じ、土地に段差が生じた
「境川」の堤防付近。亀裂が生じ、土地に段差が生じた
テレビなどでも多く報道された「新浦安」駅前のエレベーター。周囲の地面が沈下した影響でエレベーター部分が浮いてしまっている。また、表面が乾燥した今は、砂埃がひどく、目を開けていられない状況だという
テレビなどでも多く報道された「新浦安」駅前のエレベーター。周囲の地面が沈下した影響でエレベーター部分が浮いてしまっている。また、表面が乾燥した今は、砂埃がひどく、目を開けていられない状況だという

●全国無数に点在する「液状化」の危険地帯

 まず、そもそも、「液状化現象」とは何かを簡単に触れておきたい。海岸や川のそばの比較的地盤がゆるく、地下水位が高い砂地盤などで、地震が起きた際、砂の粒子同士が離れて水に浮いた状態になることを指し、その後、砂の粒子が沈み、地面に水が溢れ、噴き出すなどが発生する(参考資料:新潟地震対策連絡会「液状化現象とは?」)。それに伴い、建物が沈む、マンホールが浮くといった現象が生じる。現在日本で危険とされているエリアは全国無数にある状態だという。

 1995年に起きた「阪神・淡路大震災」の際には神戸市の「ポートアイランド」「六甲アイランド」(写真参考リンク先:神戸市「写真から見る震災『液状化』」)、2007年「新潟県中越沖地震」では「柏崎市」(同:東京電機大学理工学部建設環境工学科地盤工学研究室「2007年新潟県中越沖地震現地調査概要」)などで液状化が起きている。

 そういった過去の経験を踏まえて、現在はさまざまな対策を講じるため、専門家チームによる実験などが行なわれている。また、あらかじめその恐れのあるエリアでは、国土交通省がとりまとめている「ハザードマップ」のほか、地方自治体によっては「液状化予想マップ」をホームページ上で公開するなど、対応しているところもある。
 ただ、今回、M9.0という予想以上のエネルギーの地震が発生し、東京、千葉県、茨城県などで液状化現象が起こった。水道、ガスなどのライフラインへの影響が甚大だったほか、ハザードマップには含まれていなかったエリアでの被害なども明らかになっている。

●ライフライン断絶が最大の痛手

 千葉県浦安市の「新浦安」に住むFさんは、海近くの新興埋立地に位置する某大手ディベロッパー分譲の新築マンションを、08年に購入した。購入の決め手は、立地と広さ。将来的に親を迎え入れることを想定し、まちの機能が充実している、高齢者向けのコミュニティが整っている、そして首都圏へのアクセスが良いことなども魅力だった。

 ディベロッパーからの説明はなかったものの「購入した段階で液状化の危険性が高いエリアであったことは知っていました」(Fさん)。今回の震災では、建物自体は耐震対策がしっかりしておりほぼ影響はなかったが(現在調査中)、敷地面積約4万5,000平方メートルの約半分を占める平面駐車場は、その3分の1が被害を受けた。
 「液状化自体はこの程度で済んだという思いでしたが、何より困ったのはライフラインの停止でした」(同)。地震により電気はほとんど停止しなかったものの、ガスは2日、水道は1週間半、復旧まで時間がかかった。なかでも最も困難だったことは、「下水道が機能しない」ということだったという。

●マンション管理会社の即時・的確な対応に救われる

 ただ、こういった状況下でも管理会社(ディベロッパーのグループ会社)の対応が即時かつ的確であったことから、すぐに安心することができたという。

 「防災センターを通じて、各戸に随時アナウンスが流れていました。内容は細かいところまでケアされており、例えば、給水車が来た際にはどこどこに来ましたよとアナウンスされ、非常に役立ちました」(同)。また、なかなか給水所に行けない居住者に向けて、管理会社側でも水を汲みためてくれていた。
 朝夕には各6リットルのペットボトルが各戸に配布されたほか、マンション用の簡易トイレもすぐ設置された。水道が復旧した際には、管理会社スタッフが各戸に回って説明、留守宅には1階に常駐するコンシェルジュから連絡がいくよう手配されていたという。

 また、マンションの泥を清掃する際には、担当部署以外の経理スタッフがわざわざ出向くなど、被災後は管理会社をあげて1日も休まず手厚い対応をしてくれたことが印象的だったという。
 そのほか、同社管理物件の専用サイトにも随時情報がアップされたほか、浦安市が運営するツイッターをリンクさせていたのが便利だったそうだ。同情報は、ネットに慣れない高齢者や日本語の判読が難しい外国人などに対応するため、共用スペースにホワイトボードを設置、同じ情報を英語などでも掲示した。「情報開示→共有」がすばやくできたため安心感が高まったという。

 一方、課題もある。「住民からボランティアを募ったものの、リーダー不在でうまく指揮系統がとれず、いざ参加しても活躍の場がうまく見つけられない人もいました」(同)。日頃から物件全体での防災訓練も実施されているが、災害時を想定したボランティアの働きかけについても事前準備・知識が必要といえる。また、それには住人の各個人が、日頃からボランティアに対する意識を持つことも必要だ。

 そのほかにも、Fさんは「入居時に浦安市から防災セットを受け取っており、その中の簡易トイレがとても役に立ちました。ただ、われわれは夫婦二人暮らしなので良かったのですが、ご家族が多い世帯はご苦労されたのでは…」と話す。同駅徒歩7分に位置し、スターツグループが運営する「ホテル エミオン 東京ベイ」では、井戸水が上がるため、住民に配り重宝されていたようだ。

 3月23日現在、やっと生活に安定が見えたというが、地面が乾いた今では砂埃がひどく、水が自由に使用できなかったため、やっと床掃除などができる状態だという。

●脆弱さを抱くエリアの活路とは

 Fさんいわく、今後強化してもらいたい点として、「ライフラインの確保」と話す。「今回の液状化被害を踏まえて、対策をお願いしたい」(同)。
 また、マンションだからこそ良かったと思える部分も大きかった。「情報交換ができるというのは非常に心強かった。戸建住宅などに住む方は各自で対応せねばならず、地域としてコミュニティをつくっていく必要性を感じました」(同)。

 先般「平成23年 地価公示」が発表されたが、今回の震災の影響で地価全般が下落傾向に向かうのではないかという見方も出ている。今回取り上げた「浦安」は、近年「住んでみたい街」や「子育てがしやすい街」(いずれも(株)長谷工アーベスト調査)の上位に入るなど人気エリアであることはもちろん、今後の分譲予定地も多い。埋立て状況によって被害の度合いに差があり、新興埋立地などは比較的被害が少なかったため、分譲計画などに影響しないというケースもあるようだが、今回の被災を受けて、不動産会社への影響は大きく、また不動産会社に課されたテーマは多くあるだろう。

 前述した管理会社の対応は、運営資金の潤沢な大手企業だからこそできたという部分もあるかもしれないが、管理会社スタッフの声がけや対応など、ソフト面での働きかけがキーとなった。また、スタッフが適切な行動に移れるためにも、実際、震災が起きた際に備えての行動指標が事前にしっかり策定されていたことも重要そうだ。
 実際、Fさんが暮らすマンションは、総戸数700戸超の大規模マンションであるが、外国人居住者が引っ越したなどはあったものの、大きな転出の動きはないそうだ。「液状化の心配等はあるものの、引っ越したいという気持ちより、マンション住民の協力体制等も含めてこのマンションで良かったなという思いの方が強いです」(同)。
 今後、震災のリスクを抱くエリアに住宅を供給する側、管理する側として、マンションや戸建分譲地そのものはもちろん、地域全体におけるコミュニティ醸成を見込んだ仕掛け、働きかけが求められていくだろう。(umi)

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