記者の目

2011/9/22

被災地“いわき”から、世界に向け情報を発信!

復興めざし「ふくしま国際メディア村」発足

 東日本大震災により、甚大な被害を受けた福島県いわき市。中心地は、福島第一原子力発電所から約50km離れているにもかかわらず、北端が原発から30km圏内に入るということで、市全体が「危険エリア」と認識され、さまざまな風評被害に苦しんだ。  そんななか発足したのが、「ふくしま国際メディア村」(福島県いわき市、以下メディア村、http://fukushima-news.com)。いわき市営公園内に設置した「大型ゲル」を拠点に、正確かつ生の情報を世界に発信することを目的としている。代表を務めるのは、東京都心部を中心に外国人向け賃貸住宅の仲介等を手がける(株)イチイ(東京都品川区)代表取締役の荻野政男氏。同氏は、いわき市出身であることから、同プロジェクトを6月に立ち上げた。今回は、荻野氏にメディア村について話を聞いた。

「ふくしま国際メディア村」看板。ぶら下がっている千羽鶴はアメリカ人から贈られたもので、“フクシマ頑張れ!”という願いが込められている(写真提供:ふくしま国際メディア村、以下同)
「ふくしま国際メディア村」看板。ぶら下がっている千羽鶴はアメリカ人から贈られたもので、“フクシマ頑張れ!”という願いが込められている(写真提供:ふくしま国際メディア村、以下同)
いまや長町公園のシンボルになりつつある「ゲル」
いまや長町公園のシンボルになりつつある「ゲル」
風船で子供たちを楽しませ、すっかり虜にしてしまったバルーンマン(中央)。バルーンマンの周囲には、子供たちの歓声と笑い声が絶えなかった
風船で子供たちを楽しませ、すっかり虜にしてしまったバルーンマン(中央)。バルーンマンの周囲には、子供たちの歓声と笑い声が絶えなかった
中国遼寧省の朝鮮族高級中学校中学部から届いた「日本頑張れ!」のメッセージカード
中国遼寧省の朝鮮族高級中学校中学部から届いた「日本頑張れ!」のメッセージカード
中国の子供たちが書いてくれた「日本加油(頑張れ)」の絵。モンゴル料理店の社長からプレゼントされたゲルに飾られた
中国の子供たちが書いてくれた「日本加油(頑張れ)」の絵。モンゴル料理店の社長からプレゼントされたゲルに飾られた
モンゴルの代表的料理「ホーショール(羊の肉などを小麦粉で練った生地に包んだもの)」を料理中のモンゴル人女性
モンゴルの代表的料理「ホーショール(羊の肉などを小麦粉で練った生地に包んだもの)」を料理中のモンゴル人女性

いま自分にできることを、いまやろう!

 「地震、津波、原発、風評の4重苦を背負った“いわき市”。なかでも深刻だったのは、原発事故で“いわきは危険”という風評があっという間に広がってしまい、物流だけでなく農作物、水産物など、ありとあらゆるところに被害が及んだことです。その原因の一つは、正確な情報がきちんと発信されていなかったため。特に、海外からの目は厳しく、震災直後は母国へ帰国する留学生も少なくありませんでした」と、いわき市出身の荻野氏は当時を振り返る。

 「これではいけない。いわきの現状、復興に取り組む地元民の様子を正確に伝えなくてはならない。さらに、日本にいる外国人留学生がそれらの情報を母国に向けて発信すれば、われわれ日本人が発信するよりも情報の信憑性が増すのではないか。何より、“自分にできることを、いま、すぐにやらなくては”という気持ちに押され、メディア村を立ち上げることにしました」(荻野氏)。

 早速、荻野氏は市役所に掛け合い、市内にある長町公園の一部スペースを1年間借りた。そして、簡易につくれて目立つという理由から、活動拠点としてモンゴルの「ゲル」を設置(ちなみに、2つ設置したゲルのうち1つは、荻野氏の友人で内モンゴル出身のモンゴル料理店社長からプレゼントされたもの)。その中にインターネット放送スタジオを設け、多くの情報を全世界に向けて発信する手筈が整った。

 現在、運営委員は5名。そのほか、活動の趣旨に賛同したボランティアスタッフ十数名でメディア村を運営している。

響け!復興の思い、「復興音楽祭」を開催

 そんなメディア村の初のイベント「復興音楽祭」が、8月27~28日に開催された。
 血縁や地縁がなくても、ただ“ふくしまが好き”という約50名のアーティストが東京から参加。アーティストとボランティアの多くが、前日の夜行バスで東京を出発し、いわきに到着したのは深夜だったという。ほとんど睡眠も取らず、早朝からそのまま会場入りして準備に取りかかった。

 「いまもなお、震災と原発の被害に苦しみ、ひたすら復興を願ってやまない人たちに、ほんのひと時でもいいから、音楽と祭りで笑顔を取り戻してもらいたい」(同氏)との思いから企画された同イベント。
 地元新聞社やFM放送局、商店街で商店を営む同氏の友人・知人などに依頼し、イベントを告知。「ちゃんと人が集まるのか、子供たちは参加してくれるのか…」という不安をよそに、2日間で集まった来場者は延べ3,000人を数えた。

 イベントでは、日本人アーティストによる演奏のほか、西アフリカ、バングラディシュ、インド、モンゴルなどの民族音楽があるかと思えば、津軽三味線や民謡、いわきの民芸舞踊(じゃんがら念仏踊り)ありと、和と洋がコラボした賑やかな音楽祭となった。

 子供向けにも、バルーンパフォーマンスやキャンドルワーク教室などを用意。原発の影響で、子供たちは外で遊ぶことを制限されていたが、この日ばかりは思い切り遊んでいたという。「2日間、子供たちの歓声や笑い声が絶えませんでした。5ヵ月ぶりに大声で笑い声をあげた子もいたのでは」(同氏)。

 また、国際派のメディア村ならではのサプライズもあった。インターネットを通じてイベントを知り、中国の中学生が「日本頑張れ!」のメッセージカードを送ってくれたのだ。これらのメッセージは、拠点となったゲルに飾られた。

 「イベントの模様は、イベントに参加していたアメリカ、ペルー、モンゴル、韓国、中国人スタッフから母国にインターネット配信されました。今回の経験を、今後の活動に生かしていきたい」(同氏)。

震災から半年、今後の課題とは?

 4重苦を抱えるいわき市だが、さらにもう1つ、大きな課題ができたと荻野氏は言う。
 「5番目の苦は、“まちが壊れる”こと。現在、いわき市には、同じ福島県内からの避難者が約2万人いますが、もともとの住民と新たな住民とでは生活スタイルやルールが違うため、お互いに違和感を感じながら生活しているようです。こうしたちょっとしたズレが、気が付けば大きな亀裂になっている。つまりは、“まち”が壊れるということです。これは、いわき市にとっての大きな課題となるでしょう」(同氏)。

 同氏はこれまで、賃貸住宅における外国人と日本人とのスムーズな共生を図るため尽力してきた。今回の問題は、同じ日本人同士ではあるものの、まさに同様のケースといえよう。
 「これまで行なってきたことを、問題解決のために役立てたい。また、当社が持つシェアハウスの運営ノウハウを広めたり、北欧生まれアメリカ育ちの“コミュニティを取り戻そう”という住まいづくりの手法『co-housing』を提案するなど、いわき市を元の住みやすいまちに戻すために、行政にも積極的に働きかけていくつもりです」(同氏)。

 メディア村のイベントは、知らない者同士が出会う場。こうしたイベントをきっかけに、お互いの理解を深め合い、ひいては皆の気持ちが一つにになれればと願うばかりだ。(I)

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2024/3/7

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