記者の目 / 仲介・管理

2011/11/4

17年前に発生したアメリカ・ノースリッジ地震

その後、不動産取引に義務づけられたこととは?

現地不動産エージェント・清田晴美氏に聞く  東日本大震災からまもなく8ヵ月を迎える。尾を引く原子力発電所問題、政府の対応の鈍さからか復興作業もなかなかスピードアップしない。  しかし、いずれは被災地に人々が戻り、地域活動が始まり、経済も徐々に活力を取り戻していくだろう。そうしたなかで忘れてはいけないのは、こうした災害で得た教訓だ。直接的な被害はもとよりその後の社会・経済活動においても被災から学んだことを取り込み、今後に備えなくてはいけないと考える。  17年前、アメリカ・カリフォルニア州で発生した大地震「ノースリッジ地震」をきっかけにその後の不動産取引ではさまざまな義務づけがなされるようになった。災害を機に変化した点について、アメリカ在住の不動産エージェント・清田晴美氏(Century21 Union Realty ブローカーアソシエート)にインタビューした。

写真1:地震後、カリフォルニア州で不動産購入者に手渡すことになったハンドブック「Homeowner's Guide to Earthquake Safety」。50ページほどの冊子で、法律、税金などの住宅購入にかかわる基本的情報のほかに、州内で起こった過去の地震マップ、被害状況、また、防災対策等が掲載されている。表紙には、現地のレストランの地震前、地震直後、さらにその後の光景が写真で入れられている
写真1:地震後、カリフォルニア州で不動産購入者に手渡すことになったハンドブック「Homeowner's Guide to Earthquake Safety」。50ページほどの冊子で、法律、税金などの住宅購入にかかわる基本的情報のほかに、州内で起こった過去の地震マップ、被害状況、また、防災対策等が掲載されている。表紙には、現地のレストランの地震前、地震直後、さらにその後の光景が写真で入れられている
写真2:住宅売買では、売主はその物件の地震対策の状況を書面で買主に伝えることが義務付けられている
写真2:住宅売買では、売主はその物件の地震対策の状況を書面で買主に伝えることが義務付けられている
写真3:タンク式の湯沸かし器がしっかり設置されているか、寝室や廊下に煙探知機が取り付けられているかどうかも、売主・買主間が書面で確認し合う
写真3:タンク式の湯沸かし器がしっかり設置されているか、寝室や廊下に煙探知機が取り付けられているかどうかも、売主・買主間が書面で確認し合う

※ノースリッジ地震とは…
1994年1月17日午前4時31分(現地時間)、カリフォルニア州ロサンゼルス市に隣接するノースリッジで発生した。マグニチュード6.7。北アメリカでは史上最大規模の大地震で、10~20秒間の揺れが続き、多くの住宅、ビル、施設、道路等が倒壊等の被害を受けた。8700人以上が負傷、少なくとも33人が地震により死亡、その被害総額は200億ドルに達し、アメリカの歴史の中では、これまでで最も被害額の大きい自然災害の一つとされている。

友人の家は1階が崩壊。多くの住民が1年近く避難所暮らし

――地震では、高速道路が崩れたり、ビルや商業施設が倒壊したりという光景をテレビなどで見た記憶があります。住宅などにはどういった被害がありましたか?
 「私自身は、当時は別の州に住んでおり、直接体験は語れないのですが、友人や知人からはさまざまな話を聞いています。
 特に印象深いのは、現在保険会社の代理店をしている友人のT・Yで、彼は当時ノースリッジのタウンハウスを借りて住んでいました。1階がガレージ、2階がリビングとキッチン、3階がベッドルームという構造で、地震が発生した時刻には3階のベッドルームで就寝中だったそうです。揺れでベッドから転がり落ち、一瞬何事が起ったのかわからずにいたが、目を凝らしてみると、ベッドルームの壁が大きく避け、1階ガレージの車がなぜかすぐその向こうに…。
 1階と2階の天井(2階と3階の床)部分が崩れ落ち、3階がその上に落ちた格好になっていたのです。車は潰れたものの、幸い本人は怪我がなくて助かったと言っていました。同じアパートの他のユニットも皆同じように1階部分が潰れたそうです。
 しかしながら、彼の住まいの向かいに、山の斜面に沿って建っていた住宅があったそうですが、1階がベッドルーム、2階がガレージ、そして3階がリビングという構造になっていて、なんと1階が完全に崩れ落ちて2階と3階が折り重なった状態で潰れてしまったというのです。おそらく入居者は亡くなられたでしょう。彼は、直後に友人の家に避難したそうですが、その後、近所の学校や公園、公共施設が避難所となり、1年くらいは多くの被災者が暮らしていたと聞きます。避難所が亡くなってからも、しばらくの間、瓦礫などが町中のいたるところに散乱していたと聞きました」

壊滅的だったまちが、その後高級住宅地に

――その後、被災地の不動産マーケットはどうなりましたか?  「一時はインフラも含め壊滅的な状況だったのですが、復旧・復興の際に強固で良質な建物がつくられたことで、以前の数倍の評価を得られる場所になりました。  前述した友人T・Yは、地震からほどなくノースリッジから15分ほどのまち、ポーター・ランチ市に戻り、そこで住宅を購入しています。なぜなら地震の前は32万ドル~33万ドルしていたその地域の物件が、地震後には25万ドルにまで下がったからです。  そして彼の購入した物件は、5年後には35万ドルで売却できたそうです。  その地域で地震直後に着工した建物は、揺れに強い構造になっていたため、復興とともに評価が大幅に上がりました。それにつれて同地域の住宅価格が上昇したのです。  彼の売却した住宅は、さらにその後、70万ドルで取引されたと聞きました。  そのあたりは、今では、郊外型の高級住宅地として知られるまでになったんですよ」

取引時に義務付けられた、書面やレポートでの地震対策確認

――地震の後、不動産の取引にあたり何か変わった点はありましたか?
 「震災後カリフォルニア州では、不動産売買時に、購入者に必ずハンドブック“Homeowner’s Guide to Earthquake Safety”(写真1参照)を手渡すことになりました。ハンドブックには、住宅に関する法律や税金などの基本的な情報のほかに、カリフォルニア州で過去に発生した地震のマップ、主な断層、地震の被害を受けた一戸建て住宅の事例、地震に対して脆弱な設備や建物等についての被害例と説明などが、イラストや写真入りで分かりやすく書かれているほか、防災対策や注意点、いざ被害に遭った時の対応法、地震によって引き起こされる揺れ、地滑り、地割れ、地盤の液状化、津波、ダム決壊等の危険等について解説しています。
 さらに、もし地震が起こったら、直後に自宅でチェックすべきポイント、水や食料などの調達法、困った時の相談窓口についてもガイドしています。

 また、住宅売買に当たり、売主は買主に対し、その物件がどの程度地震対策を施しているかを書面(「Residential Earthquake Hazard Report」(写真2参照))で伝えることになっており、その中には「住宅は基礎部分に対ししっかりとボルトで固定されているか」「(もし、その住宅が丘の斜面などにある場合)、高さのある外壁の基盤はかすがいで支えられているか」「居住部分がガレージの上にある場合、ガレージの開閉部分周囲の壁は強い耐震性を持っているか」「住宅は、地震の断層の外側にあるか」「もし外壁の基礎が強度の強くないレンガで造られている場合、耐震強化してあるか」といった質問項目があり、売主は「はい」「いいえ」「当てはまらない」「わからない」にチェックをつけることになっています。
 さらに、その物件の立地する地域が地震や洪水、火災多発地域に含まれていないかをエスクロー中に専門機関に問い合わせ、その結果のレポートを買主にわたすことも義務付けられるようになりました。

 そのほか、「WATER HEATER AND SMOKE DETECTOR STATEMENT OF COMPLIANCE」(写真3参照)という書面も取り交わされるようになりました。タンク式の湯沸かし器(Water Heater)を使用している住宅では、その器械を2インチ幅のステンレスのベルトで等間隔で2ヵ所建物に固定することを法律で定め、それが完了していることを売主・買主間で書面で確認し合うことにために設けた書式です。地震が起きて住宅が揺れた場合、タンク式の湯沸かし器が倒れ火災を起こすことを防ぐためです。
同じく寝室や廊下に煙探知機(Smoke Detector)を取り付けているかどうかもこの書面で確認します。
 また、市町村によっては、揺れると同時にガスラインがストップする安全装置システムをガスの元栓に装着することを義務付けているところもあります。ロサンゼルス市もその一つで、装着が完了するまで売買契約は成立しません、もしくは、買い手が引き続き責任を持って施工するという証明書がエスクローの時点で必要になります」

人々の安全・安心への関心が高まるなか、不動産業に求められるものは

 ノースリッジ地震はその強さもそれが及ぼした被害・影響も、東日本大震災とは大きく異なるものの、消費者の防災や安全・安心への関心が高まってきているなか、取引に携わる現場でもそのニーズに対応した細かな配慮が必要になってくると考えると、参考になる部分もあるのではないだろうか。
 被害から明らかになった問題点を一つひとつ丁寧に検証し、万一再び同様な震災が起こっても同じ被害・損害を被らないようにしていくことが、行政、自治体はもちろんのこと、顧客の大切な財産を取り扱う不動産のプロとしての義務でもある。
 官民が連携し、いざという時に犠牲をできるだけ少なくしていくために、まずはさまざまな立場、視点から対応策を考えていく必要があるかと思われる。(yn)

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