記者の目 / 開発・分譲

2006/2/23

安心・便利・快適を追求した次世代のファミリーマンション

長谷工「これからの暮らし方」具現化したモデルルーム

 マンションというハードは、常に進化し続けている。新しい製品や技術が次々と開発され、採用されていくが、それは物件によってまちまちだ。では、現時点で最新の製品があまねく導入され、最高の躯体を持ったマンションはどのようなものになるのか。  その答えの1つを、マンション施工最大手の(株)長谷工コーポレーションが出した。同社・関西事務所にオープンした「HASEKO CONCEPT ROOM」がそれ。ユーザーの声を反映させた住設備、ITを駆使した情報インフラやセキュリティなどが、次世代型の躯体に搭載されるという前提で作ったモデルルーム。それは過度のコストを必要にするものでなく、ある意味、現時点で考えられる「究極のファミリーマンション」だった。

モデルルームに実装されていた、玄関の「おさいふ携帯対応電気錠システム」。電子マネーやスイカなどが利用できる「FelliCa(フェリカ)」対応の携帯端末をそのまま電子錠にすることができる
モデルルームに実装されていた、玄関の「おさいふ携帯対応電気錠システム」。電子マネーやスイカなどが利用できる「FelliCa(フェリカ)」対応の携帯端末をそのまま電子錠にすることができる
アルミサッシュ並みのT-1等級の遮音性を確保した、オリジナルの木製防音ドア「シャットスルードア」
アルミサッシュ並みのT-1等級の遮音性を確保した、オリジナルの木製防音ドア「シャットスルードア」
玄関に設けられている「全室消灯スイッチ」(左)は、玄関ですべての居室の電気を消すことができるスグレモノ。右は、取り外せばリモコンになる照明スイッチ
玄関に設けられている「全室消灯スイッチ」(左)は、玄関ですべての居室の電気を消すことができるスグレモノ。右は、取り外せばリモコンになる照明スイッチ
リビングのサッシュには、片手で簡単に開閉できる「ローラー付きアーム」が付いている
リビングのサッシュには、片手で簡単に開閉できる「ローラー付きアーム」が付いている
収納スペースがたっぷり設けられたオリジナルのシューズボックス(上)は使い勝手がよさそう。カギ掛け、乾燥、脱臭のための通風孔、脱臭剤・乾燥剤入れ、靴の脱ぎ履きに便利なスツールも組み込まれている。下は収納ボックス
収納スペースがたっぷり設けられたオリジナルのシューズボックス(上)は使い勝手がよさそう。カギ掛け、乾燥、脱臭のための通風孔、脱臭剤・乾燥剤入れ、靴の脱ぎ履きに便利なスツールも組み込まれている。下は収納ボックス
同施設を会場に、「ユーズスタイル」のさらなる進化をめざし、商品企画に関するモニター会を開催。応募者60名の中から抽選で選ばれた19名が参加した
同施設を会場に、「ユーズスタイル」のさらなる進化をめざし、商品企画に関するモニター会を開催。応募者60名の中から抽選で選ばれた19名が参加した

最先端のセキュリティ・ITインフラと生活者の視点で作られた設備

 「HASEKO CONCEPT ROOM」は、2005年9月に関西事務所に設けられた「HASEKO GALLERY OSAKA」をさらに発展させたものだ。「GALLERY」は、長谷工の技術力の紹介や、災害対応備品(非常用飲料水供給システム、非常用マンホールトイレ、かまどベンチなど)や光統合インフラシステム、セキュリティーシステムなどを展示して、同社の「これからの暮らし方提案」の一端を紹介したものだった。「CONSEPT ROOM」は、それらの最新設備が実際にマンションに搭載された場合、どのような暮らしができるのかを関係業者やユーザーにより身近に体験してもらうために設置された。ギャラリーで紹介するIT設備やセキュリティ設備に加え、「U's-style(ユーズスタイル)」と名づけられた、オリジナル商品群が装備され、「安心」「便利」「快適」といったキーワードを満たすために必要な要素が全て詰まったマンションのあり方を見せている。こうしたコンセプトルームは、業界でも初めてではないだろうか。

 記者がとくに注目したのが、「ユーズスタイル」だ。同仕様は、販売を担当する長谷工アーベストの女性スタッフが、一旦販売する立場から離れて「自分達が住むとしたら、こうだったらいいな」という商品を提案。それを長谷工コーポレーションの営業、設計、建設部門を中心とするメンバーが具体化したもの。つまり、ユーザーの声と販売者との声を合わせたライフスタイルのトータル提案である。そこには、新商品もあれば既存商品の再提案もあり、すべてが珍しいものというわけではない。ただ、評価したいのは、今後、関西圏で長谷工コーポレーションが施工し、長谷工アーベストが販売提携するマンションについては、この仕様を「無償」で採用できるという点。過度なコストをかけず(長谷工が負担するのだが)、暮らしやすさが格段に向上するアイテムは全部で24ヵ所に及ぶが、そうしたスグレモノの一部を紹介していきたい。

通気性と遮音性両立したオリジナルドア

 まず、同社オリジナルの木製防音ドア「シャットスルードア」。マンションの居室扉は、通気経路を確保するため、必ずアンダーカットがある。そのため、音漏れは防ぐことができず、遮音性能を高めることは難しかった。「シャット~」は、ドアの芯材に高密度のボードを採用すること、ドアの納まりをエアタイトにすることにより、アルミサッシュ並みのT-1等級の遮音性を確保。また、ドア内部に多数の縦孔をもつ構造により、上部の切り欠きから下部のガランへと空気が流れるため、従来ドア同様の換気性もある。とくに音を気にしなければいけないトイレからの採用だが、このドアが各居室に採用されれば、マンションの音環境は格段に向上するだろう。ドア自体が適度に重くなるため、重厚感も増すオマケ付きだ。ちなみに、トイレには夜間利用時にまぶしさを防ぐ「ほんのり照明」が装備されている。

 玄関に設けられている「全室消灯スイッチ」。ホテルのように、玄関ですべての居室の電気を消すことができる。朝の忙しいときなど、いちいち各室を確認せず一気に消灯できるスグレモノである。
 リビングと廊下を仕切る扉には、玄関扉にあるような「ドアチェック」が付く。マンション居住者ならわかると思うが、この扉を(ロックもせず)開けたままリビングのサッシュと玄関を同時に開け放つと、一気に室内に風が流れ込み、扉が物凄い勢いで閉まるので危険だ。ドアチェックはそうした危険を防ぎ、「品良く」ドアが閉まる。

 リビングのサッシュには、サッシュが片手で簡単に開閉できる「ローラー付きアーム」が付いている。この商品自体はかなり前に開発されたものだが、コストの問題もあるのか、あまり普及していない。改めて使ってみるとやはり便利だ。キッチンでは、吸音材を詰め込むことで水はね音を軽減した「静音シンク」、引き出しや扉を軽く押すだけで静かに閉まる「ショック吸収機能」などを採用。「ショック吸収機能」は、ここにきて普及してきた嬉しい機能だ。

 同社オリジナルのシューズボックスも、使い勝手がよさそうだった。幅1.5mを基準に、靴40~50足分の収納スペースのほか、ブーツ、スリッパ、傘、小物類をより効率的に収納するためのスペースも設置。カギ掛け、乾燥、脱臭のための通風孔、脱臭剤・乾燥剤入れ、靴の脱ぎ履きに便利なスツールを組み込むなど、高い機能性と豊富な収納量を両立させた。棚板が赤と青という原色づかいというのも、汚れを防ぐうえで効果的だし、ファッション性も高まる。いかにも、女性らしい提案だ。
 このほかにも細かい部分で、玄関外に設けた傘掛けフック、取り外せばリモコンになる照明スイッチ、通常より1口多い「三口コンセント」など、それぞれ「あれば便利」な提案が随所に見られる。

 ITインフラについては、基本的に表に出てこないのでモデルルームではなくギャラリーでの紹介となるが、モデルルームに実装されていた、玄関の「おさいふ携帯対応電気錠システム」は画期的だった。電子マネーやスイカなどが利用できる「FelliCa(フェリカ)」対応の携帯端末をそのまま電子錠にするシステムで、今後、エントランスのオートロックや宅配ロッカーのカギなどと併用も考えられる。通常のカギと併用することで、セキュリティの信頼性も格段に向上するし、見た目的にも防犯抑止効果がありそうだ。

高い基本性能と可変性持った次世代躯体

 このモデルルームでは、長谷工が普及させようとしている次世代のマンション躯体「セルフィット」も提案されている。セルフィットは、高い基本性能を持った構造体で、さまざまな居住者のニーズに合わせた間取りを実現することを目的に開発されたもの。3世代、90年の耐久性を持つ躯体は、完全アウトフレーム。スラブ厚220~270mm、戸境壁220mm、ペアガラスの採用など、遮音・防音・省エネ性能を向上。次世代省エネ基準をクリアする。
 天井高は2,600mmと高く、廊下幅とトイレ幅も、通常の尺モジュールより50mm広い950mmとしている。スラブは、水周りゾーンを二重床とし、かつエリアを広く取り、水周り部分のレイアウトに自由度を持たせた。1つのフレームに対し最大30のバリエーションを展開することで、購入者のライフスタイルに合わせた様々な間取りの選択を可能としている。フルSIほどの自由度は無いものの、最小限のコストで耐久性・省エネ性・可変性を追及しているのが特長。まだ、関西圏で2物件の採用事例しかないというが、記者はこの工法が普及すれば、長谷工のマンションは間違いなく変わるだろうという感触を得た。

待たれる首都圏物件での採用

 今回、長谷工がモデルルームで提案したものは、億ションのように贅沢や豪華さにコストをかけたものではなく、いわゆる一般ユーザーが求めるマンションの理想像の実現に視点が置かれたものであり、それらの意欲的提案は大いに評価したい。
 ただ、残念なのは、「ユーズスタイル」も「セルフィット」も、関西圏のみの導入であり、首都圏には採用されていないという点だ。確かに、どちらも全くコストがかからないというものではないので、関西圏に比べコスト競争、販売競争が厳しい首都圏では、施主の理解をなかなか得られないであろうことは、容易に想像できる。「良いものやサービスは、ユーザーがカネを出して得るもの」と考える首都圏と、「業者は、良いモノやサービスをどんどんユーザーに提供すべき」と考える関西との風土の違いもあるであろう。
 だが、コスト競争一辺倒だった首都圏のマンション市場も、ここにきて大きく流れが変わりつつある。とくに、構造計算書偽装問題の発覚以来、ユーザーは「多少高くても良いものを選ぶ」ことに躊躇しなくなっている。わずかなコストアップでライフスタイルが劇的に変わるのであれば、ディベロッパーは積極的にそうした提案を行ない、ユーザーの理解を得る時代になったと思う。(J)

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