記者の目 / 開発・分譲

2005/6/24

「経年優化する」都市型戸建てのパイオニア

三井不動産「ファインコート武蔵境七番街」をみる

 三井不動産(株)が、「ファインコート武蔵境七番街」(東京都武蔵野市)の販売を開始した。「ファインコート」は、同社の都市型戸建てシリーズで、「都市型戸建て」というジャンルを確立したパイオニア。これまで10年間にわたり首都圏で約5,000戸が供給されてきた。なかでも「武蔵境」シリーズは、2000年の「シーズンコート」58戸以来、100戸以上が供給されており、それら一連のシリーズが形成する優れた街並みは、独自のブランド力を持つ。その最新作「七番街」は、これまで以上に練り上げられたランドプラン、ユーザー調査により浮かび上がってきたニーズを取り入れた商品企画が特徴。開発者が「時間が経つほどに優れた街になっていく“経年優化”の街」と言い切る自信作だ。

「ファインコート武蔵境七番街」
「ファインコート武蔵境七番街」
吹き抜けのあるリビングダイニング
吹き抜けのあるリビングダイニング
角住戸の円型リビング
角住戸の円型リビング
同社が5年前に分譲した「ファインコート武蔵境シーズンコート」の街並み
同社が5年前に分譲した「ファインコート武蔵境シーズンコート」の街並み

 「七番街」は、武蔵野市境3丁目(JR中央線武蔵境駅徒歩9分)に立地する、総区画数50区画(うち宅地分譲8)の建売住宅団地。中央線沿線は同社も「戦略エリア」として力を入れているが、なかでも武蔵境駅圏は、これまで6つの「ファインコート」シリーズが供給されており、駅の北側徒歩5~7分エリアに「ファインコートの街」を形成。シリーズのなかでも独自のブランドを形成している。今回は、駅からの距離は一番遠いものの、敷地北面が緑豊かな玉川上水に面しているという売りがある。

 ファインコートシリーズは、都市型戸建てではとかく手を抜かれがちな外溝や植栽に力を入れており、それらは築4,5年を経て成熟度が増し、潤いある街並みとなっている。
 「21世紀の武蔵野を代表する知的な街がテーマ。普通、不動産というものは時間が経つとその価値は落ちていく。ファインコートシリーズは、時間が経つほどその価値が上がり、優れた街並みになっていくことをめざしている。つまり経年“優化”だ」と語るのは、同社戸建住宅事業部統括の荒井一弥グループ長だ。販売にあたっても、それらの「成熟」した街並みを見てもらい、ユーザーにこれからできる街並みをイメージしてもらえるメリットがある。

 今回の「七番街」も、それらの既存供給の街並みとブランドイメージの共有を図りながら、街区としてはやや離れていることもあり、新しい街並み形成をめざしている。開発地は元ゴルフ練習場で、東西方向に細長い長方形。ここに、街並みをむやみに寸断しないよう、東西方向に1本、南北方向に1本「T字型」に車道を入れ、あえて道を緩やかにカーブさせ、植栽により街並みにリズムを持たせている。道路の交差部分にはインターロッキング舗装を施し、視覚的に車のスピードを落とさせる工夫は、既存の「武蔵境」でもお馴染みのものだ。7,400平方メートルの街区の中心には、広さ400平方メートルあまりの提供公園を設置。限られた敷地に開放感を持たせている。
 建物は2×4工法で、施工は三井ホーム(株)。今回は、これまでの武蔵境シリーズと異なり、所在地である武蔵野市の「敷地面積120平方メートル規制」、また1種低層・建ぺい率40%・容積率80%という制約があった。そのため、延床面積も揃って90平方メートル台、ほとんどの住戸が総2階に近い商品企画だ。その制約のなかで、外観デザイン4パターン、内装デザイン4パターンと、1戸ごとにテーマを設け、個性を持たせている。

 ファインコートシリーズは、その商品企画策定にあたって、数多くのユーザーの声を盛り込んでいるのが特徴だが、今回もMOC(三井オープンコミュニケーション)のユーザー400人と、とくに「武蔵境」エリアのファインコートに興味を持つ「購入予備軍」50人、既存購入者などにアンケート調査を行ない、それを企画に反映させている。
 たとえば、徒歩5分以上の住まいでは、自転車保有台数が2台以上のユーザーが85%にものぼるため、通常都市型戸建てでは設置することのない「自転車置き場」を設置。セキュリティへの関心の高まりを受け、とくに要望の多かった「人感センサーつき玄関ポーチ灯」を標準化し、1階の出入り可能な窓を防犯ガラスにしたほか、ホームセキュリティ用に先行配管を済ませている。
 また、想定家族数に合わせた大型の下足入れ(40足以上収納)、限られた広さのLDKに広がりを持たせるオープン式・対面カウンターキッチンの採用、LAN・光ファイバーの想定配管などがある。各戸ごとのテーマでは、リビングとキッチンの間にウッドデッキ・植栽を施したパティオを挟みこんだプラン、玉川上水を臨む大型のルーフバルコニーのあるプラン、サービスヤードやワイドテラスのあるプランなど、多彩な演出がなされている。

 気になる価格は、6,840万円~8,650万円まで。最多価格帯は6,800万円台。一連の武蔵境シリーズとほぼ同等の価格ラインをキープしている。その人気もこれまで同様で、4月の告知から、これまでに500組が来場。すでに8割以上の住戸に「購入希望」の申し込みが入っている。最終的には抽選販売となるが、全戸即日完売は間違いなさそうだ。
 「なかなか仕入れは厳しくなってきているが、今回の『七番街』のように、われわれの街づくりを評価してくれる地主さんが優先的にお売りいただけるケースもある。無理に数だけを追わず、一定レベルの商品を年間700戸程度コンスタントに供給していきたい」(荒井氏)。

 このファインコートシリーズの成功を受け、数多くのディベロッパーや地場工務店が「都市型戸建」市場になだれを打って参入した。だが、「ファインコートシリーズ」ほどの成功を収めたケースはほとんどない。その要因は、そうした企業に「街づくり」の視点が欠けていたからだ。さまざまな制約が課せられる都市型戸建。その制約のなかでどれだけ知恵を絞って、彩りある「街」に仕上げていくか、ディベロッパーの力量が試される。ほとんどのディベロッパーは「都市型戸建だから」と逃げを打った。「手数の割には儲からない」と撤退する会社も多かった。
 だが、三井不動産は逃げなかった。手を抜けば、都市型戸建ては、ただの「狭小戸建」に成り下がる。他社がおろそかにしがちなランドプランや外構の充実を図り、MOCを核にしてユーザーニーズの反映に務めた。だからこそ、ファインコートは「経年優化」の街に成長したのだ、と記者は思う。お疑いの読者は、ぜひ「武蔵境」の街並みを歩いてみてほしい。(J)

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年5月号
住宅確保要配慮者を支援しつつオーナーにも配慮するには?
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/4/5

「月刊不動産流通2024年5月号」発売開始!

月刊不動産流通2024年5月号」の発売を開始しました。

さまざまな事情を抱える人々が、安定的な生活を送るために、不動産事業者ができることとはなんでしょうか?今回の特集「『賃貸仲介・管理業の未来』Part 7 住宅弱者を支える 」では、部屋探しのみならず、日々の暮らしの支援まで取り組む事業者を紹介します。