記者の目 / リフォーム

2005/8/24

「こだわりの住まい」生み出すマジック随所に

リビタ、“一棟丸ごとリノベーション”物件を竣工

 リビタ(株)(代表取締役:内山博文氏)が一棟丸ごとリノベーションしたマンション「桜アパートメント」が完成。このほど、報道陣に公開された。同社は、コンバージョンで数多くの実績を持つコンサルティング会社・都市デザインシステムと、オール電化を軸にした住宅供給を進めている(株)東京電力が対等出資して設立した、リノベーション事業を主業とする会社。「桜アパートメント」は、社宅として使われていた建物躯体をうまくいかしながら、設備機器等を新築並みにブラッシュアップ。居住者の「こだわり」を全面的に反映させた自由度の高い住戸プランを実現している。「こだわり」の住まいを実現するための、さまざまな「マジック」を紹介しよう。

築20年とは思えない、スタイリッシュなたたずまいの「桜アパートメント」外観
築20年とは思えない、スタイリッシュなたたずまいの「桜アパートメント」外観
構造強化のために使用されている「押さえ梁」
構造強化のために使用されている「押さえ梁」
グリルシャッターを採用し、セキュリティ機能を強化
グリルシャッターを採用し、セキュリティ機能を強化
エントランス側窓には、黒格子状のルーバーを設置。見た目もモダンに
エントランス側窓には、黒格子状のルーバーを設置。見た目もモダンに
リノベーション前・後。まったく別の物件であるかのように変化を遂げている
リノベーション前・後。まったく別の物件であるかのように変化を遂げている
決められた間取り・設備機器などは存在しない。各自好きなものを選べる(キッチンも部屋によってご覧のとおり)
決められた間取り・設備機器などは存在しない。各自好きなものを選べる(キッチンも部屋によってご覧のとおり)

 「桜アパートメント」は、東京都三鷹市牟礼4丁目(京王井の頭線「井の頭公園」駅徒歩13分、JR中央線「吉祥寺」駅徒歩17分)に位置する、3階建て、総戸数12戸の借地権マンション。
 周囲は、近くに玉川上水が流れる静かな住宅街。もともとは、寺院が所有していた物件で、三井鉱産(株)が社宅として一棟借り上げしていたもの。その建物をリビタが購入し、建物全体をリノベーションした。

 建物は、1986年築。住戸はすべて専有面積75平方メートルの3LDK。建物躯体は堅牢で問題は無かったが、外観・間取りは平凡。さらに、室内建具や水周りは完全に時代遅れだったため、躯体とサッシを除いたすべての箇所に手を入れた。この建物は壁式工法だったため、耐力壁はすべて残した上でスケルトン化。構造強化のための押さえ梁を入れた。また、スラブ厚はわずか120mmだったため、湿式2重床工法を用いて、スラブ厚を240mmまで増し、防音性能を強化。さらに排水管路を追加することで、設計の自由度を増している。

 基本的な劣化補修に加え、屋上防水と給排水管の全交換を実施したほか、増圧直結給水方式を導入。ほぼ新築並みの水準に近づけた。実は、給排水設備の更新というのは非常に重要なファクター。いくらキッチンやバス・トイレが綺麗になっていても、老朽化した配管からの「異臭」は防げないからだ。見えない所に気を配る良心は評価できる。
 設備機器については、当然最新鋭のものが導入されている。幹線改修を行ないオール電化(IHクッキングヒータ標準、エコキュート・電気温水器・電気床暖房はセレクト)とし、来客情報チェックやエアコン・お風呂の給湯等の操作を携帯電話でできる「エミット・マンションシステム」を導入。光ファイバーインターネットやエネルギーアドバイスサービスなども装備する。
 外観・外構デザインは完全に一新されている。北向きのファサードには新たにエントランスを新設。駐車場のグリルシャッターと植栽・照明によりセキュリティラインを構成し、オートロック・宅配ロッカーを配した。エントランス側窓には、エアコン室外機置き場を兼ねた黒格子状のルーバーを設置。モダンな外観イメージを醸し出している。一見しただけで、この住宅が「中古」だとわかる人はまずいないだろう。

●オーダーメイド感覚あふれる住戸

 リノベーション前の住戸は、いわゆる「階段室タイプ」と呼ばれる1フロア2戸、中入り玄関のPP分離プランだ。玄関を挟んで北側に2室。南側にLDKと1室。居室は全て6畳。洗面所・浴室・トイレも含めたあらゆる部分に開口部を持ち、通風採光に優れたプランで、設備機器の陳腐化は別とすれば基本性能は高く、「平均点的」使いやすさがある。しかし、そうした「平々凡々」とした間取りは、およそリノベーション物件を求めるユーザーに合うわけもない。

 今回同社は、購入希望者に、3つの選択肢を提示しながら施工・販売を進めることにした。
 1つ目は、フルスケルトンの状態から購入者と設計者が間取りをプランニングしていく「自由設計」。記者が見学したある住戸では、耐力壁以外の仕切りは極力廃し、壁・天井はコンクリートの打ち放しに断熱材を張っただけ。無垢材のフローリングや鋼板を多用。素材の質感や手触り感を生かして、モノトーンの空間を構成していた。
 2つ目は、デザイナーによる「モデルルーム仕様」。南側の和室をキッチンスペースに改変。大きなステンレス製ダイニングを挟んだリビングダイニングと一体化した22畳の大スペースとした。浴室・パウダールーム・トイレは一体スペースとし、総ガラス張りに。1階住戸のメリットを生かし、風呂は現場施工で白いモザイクタイルを敷き詰めている。使用していないときはブラインドを解き放てば、視覚的な広がりも出る。2部屋を1つにしたベッドルームは11畳の余裕。間取り・デザインとも、いかにもシングル・DINKS好みだ。

 そして3つ目が、モデルルーム仕様をベースにしたセミオーダーメイド。モデルルームプランをすべて導入すると、改装費に約1,300万円かかる。そこで、モデルルームのコンセプトをヒントにしながら、購入者の希望やこだわりをできるだけ反映させ、改装費を抑えたプランだ。

 いずれについても、決められた間取り、設備機器、家具、部材というものは存在せず、感覚的には「SI(スケルトン・インフィル)」のオーダーメイドマンションに限りなく近い。リノベーションのメリットとして、購入から、プラン策定、改装工事完了まで9ヵ月弱という短期間で入居までこぎつけている。

●供給増やすには課題も

 「桜アパートメント」は、年初に販売開始。同社は、会員組織等でリノベーションに興味のあるユーザーを把握しており、こうしたユーザー中心に紹介を行なったところ、発表会に250組が殺到。平均10倍で苦も無く即日完売してしまった。
 販売価格は、スケルトンユニット価格が2,200万円~2,400万円。基本改修費が738万円。デザイナー仕様でも、3,600万円で収まっている。同社は「中古マンションの価格は、おおむね新築価格の7割程度。そこにリノベーションによるプレミアムを5~10%程度のせさせてもらった」というが、周辺の新築マンション価格は5,000万円台、平均坪単価で250万円程度であることを考えれば、借地権とはいえかなりお買い得に感じる。

 「購入者は、30代から50代までまんべんなく。新築でも充分購入できる取得のある方々が多かった。ローンを組まずに現金で買える価格で、自由設計が可能な点が評価されたようです。無駄を嫌う、という点でオール電化もフィットしました」(同社)。

 こうして、リノベーション新会社としての試金石的プロジェクトを無事成功させた同社だが、さらにリノベーションマーケットを拡大するためには、課題も少なくないようだ。
 それは、既存建物を使う上で避けては通れない弱点。「今回でいえば、サッシ、梁、段差」(同社)だ。
 「桜アパートメント」では、従前建物のサッシをそのまま使っている。サッシの高さは1,700mm。今のマンションでは考えられない低さだ。当然、ハイサッシへの入れ替えも考えたが、躯体を削ることによる防水性悪化への不安から見送られた。天井高が2,400mmと低いため(こればかりは本当にどうしようもない)、できることならハイサッシで開放感を出したかっただろう。
 住戸を縦断する「梁」も、リノベーションでは天敵だ。構造体だけに削るわけにはいかず、梁の位置をうまくいかしながらプランニングに頭を使うしかない。水周りの段差も然り。ユニットバスの進化である程度は解消できるが、新築マンションのように「フルフラット」とすることはまず無理。バリアフリーの水準を新築並みに近づけることが、まだまだ「ニッチ」であるリノベーションを「メジャー」にするための大きな課題だ。

 こうした課題を限られたコストの中で実現できれば、リノベーションは、「新築」「中古」に次ぐ、第三のマーケットとして認知されるに違いない。(J)

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