記者の目

2006/6/7

賃貸マンション業界の「ヒーロー」になれるか?

高断熱、ローコストが売りの「ヒーローマンション」をみる

 最近、「ヒーローマンション」という名前をよく聞くようになった。なんでも、木質系アパートとほぼ同コストでRC造のマンションを提供し、しかもそのマンションが他社商品と比べても気密・断熱・遮音性能に勝るという。何しろ、名前が「ヒーロー(英雄)」というのだから、よほど自信もあるのだろう。記者は運良く、同社・栃木工場を見学する機会を得た。本当に、その名前に恥じない商品なのか、じっくり取材してきた。

独自の工法により、高断熱・高遮音・高気密を実現する「ヒーローマンション」。写真は、同工法を応用した両断熱住宅モデル
独自の工法により、高断熱・高遮音・高気密を実現する「ヒーローマンション」。写真は、同工法を応用した両断熱住宅モデル
栃木工場内部。流れ作業により水周りユニットが次々と組み立てられていく。組み立てられたユニットは、工場に横付けされたトラックで建設現場に運び込まれる
栃木工場内部。流れ作業により水周りユニットが次々と組み立てられていく。組み立てられたユニットは、工場に横付けされたトラックで建設現場に運び込まれる
断熱材であり、構造材ともなる、同社の「ワッフルスラブ」。梁や構造壁なしに55平方メートルの大空間を実現
断熱材であり、構造材ともなる、同社の「ワッフルスラブ」。梁や構造壁なしに55平方メートルの大空間を実現
「建物については、絶対の自信がある。あとはブランディングと売る仕組みづくり」と語る、ヒーローライフカンパニー・日崎哲二社長
「建物については、絶対の自信がある。あとはブランディングと売る仕組みづくり」と語る、ヒーローライフカンパニー・日崎哲二社長

北海道の厳しい気候が育てた独自工法

 「ヒーローマンション」とは、北海道帯広市に本拠を置くゼネコン、日崎建設(株)が開発した高気密・高断熱・高遮音・ローコストを売りにした鉄筋コンクリート造の賃貸向けマンション。1997年、フランチャイズ会社「(株)ヒーローライフカンパニー」を立ち上げ、中小ゼネコン・工務店向けに、同社オリジナルの建設用部材の供給と工法ノウハウの提供を開始。「ヒーローマンション」ブランドの賃貸マンションを送り出している。現在、加盟店は全国105店。年間施工戸数は約3,000戸で、賃貸マンション供給戸数ではトップ10前後だが、RC造の賃貸マンション供給戸数では、第1位のFCグループとなっている。
 「ヒーローマンション」FCは、各加盟店に独自工法とそれに係る部材だけを供給する「ボランタリーチェーンに近い存在」(ヒーローライフカンパニー代表取締役・日崎哲二氏)で、加盟店は同社の工法を用いて自分たちでマンションを建設。地域の実情に合った「ヒーローマンション」を供給していくというスタンスだ。

 同マンションのウリは、「AE2」と呼ばれる、独特の工法にある。Aはアメニティ(快適)、Eはエコロジー(環境)とエコノミー(経済的)を指す。年間の寒暖の差が50度以上になることも珍しくない北海道の厳しい気候に耐え、なおかつ快適で経済的な住まいを追求した結果、たどり着いた工法だ。
 室内を取り巻いている型枠を兼ねた断熱材「スタットボード」は、南極昭和基地に使われた長期にわたり高い断熱性能を発揮するもの。また、スラブ床には、同様の高い断熱性と遮音性を両立する「ワッフルスラブ」「ワッフルワイドスラブ」工法が使われる。この工法は、お菓子のワッフルのような凹凸を持つ断熱材と型枠材を兼ねた「ワッフルパネル」に配筋し、コンクリートを流し込んでそのままスラブにするもの。型枠の解体作業が不要になるほか、パネルには下地材と電気配線用のスキマが設けられ、施工にかかる時間を短縮。コストダウンを図れる。また、軽量で耐力性能も高いことから、梁配筋の必要なしに100平方メートルの空間を実現。耐力壁のない可変空間により、SI対応商品の提案が可能となるメリットもある。

 これらオリジナルの部材を加盟店でシェアすることでコストダウンをはかり、かつ施工性を高めることで工期短縮によりさらなるコストダウンをする。材・工分離と業界では呼ぶらしいのだが、材料のコストダウンよりも、実は建築工程でのコストダウンのほうが、その効果が高いという。ヒーローマンションは、そこに着目し、高性能の部材を施工性が高まるよう、工場で加工し、加盟店へと送り出している。
 逆に、入居者の快適性を引き上げるための投資は惜しまない。二重サッシュ、24時間換気システム、マイナスイオン発生器、浴室テレビ、インターネット対応など快適性を高める部分にコストをかけ、商品性をアップ。それでも「大手プレハブメーカーの木質系アパートより価格を抑えることができるので、競合になった場合、うちの商品を選んでいただけることが多い」(日崎代表)という。
 この「ヒーローマンション」の競争力の核となっているのが、栃木県那須塩原市にある自社工場だ。

水周りすべてをユニット化し工場生産

 2001年から稼動している同社の栃木工場は、那須市上郷屋工業団地内にあり、敷地面積6,800坪・工場面積1,000坪という規模。「ヒーローマンション」に用いられる「スタットボード」「ワッフルパネル」の製造と、「水周りユニット」の生産を一手に引き受けており、断熱・型枠(スタットボードやワッフルパネル)関係で14名、水周りユニット作業に31名があたっている。

 この工場から送り出される材料は、いずれも1棟・1戸レベルでオーダーメイドしており、これにより無駄な現場での工数削減、施工の合理化をはかり、大領購入によるコストダウンに加え、工期短縮による建設コストダウンを可能としている。現在のスタッフ数と規模で、1日10戸分の水周りユニット生産と、12室分の断熱・型枠工作を行なうことができ、現状のまま年間6,000戸(2005年の2倍増)までの増産にも耐えられるシステムだ。

 なかでも注目は、水周りユニットの一体生産システムだ。他社の多くはユニットバスやトイレを現地まで運んでいくが、これだと据付から組み立て、配管作業などに数日を要してしまう。「ヒーローマンション」では、トイレと浴室、洗面所まで含めた水周りを、全て工場内でユニットとして製作。そのユニットを現地まで運び、吊り込んで設置するだけなので、工期が大幅に短縮される。
 水周りユニットは、数種類よく使われるパターンはあるものの、基本的に1戸1戸カスタムメイドとなる。配管ベースの組み立てから浴室、トイレの設置、電気配線、防水試験、断熱材張り込み、化粧板設置など10工程が、流れ作業で次々と行なわれていく。また、「スタットボード」や「ワッフルパネル」も、指示された大きさにカットされ、どんどんと加工されていく。加工が終わった水周りユニットやボード類は、トラックに積み込まれ、建築現場に運び込まれるのを待つだけだ。

 また、同工場には、「ヒーローマンション」のノウハウをいかして作った両断熱RC戸建住宅のモデルルームも常設してある。同商品は、グループ企業の(株)スターハウスが販売しているもの。通常の木質系、プレハブ戸建にはない高い断熱性・遮音性を持つのは「ヒーローマンション」と同様。さらに、両断熱施工によって生まれる地下スペースをそのまま収納として活用するといったアイディアや、ワッフルワイドスラブによる大空間を可動収納で間仕切るといった提案など、他社とは一味違う商品に仕上がっている。
 
「ヒーロー」になるための課題は「ブランド」

 工場見学や商品取材を通じ、記者は「ヒーローマンション」に大きなポテンシャルを感じた。ただ、いかんせん、同社のシェアは住宅建設業界においてはごくわずか。同社は、自分の弱みをどう見ているのだろうか?

 日崎社長は、こう分析している。
 「まず、“売るという仕組みづくり”。つまりは、ブランディングですね。加盟店の多くは公共事業などを手がけながら、ヒーローマンションも建設しているという会社が多く、積極的に売る体制がまだまだ構築できていません。また、建設業者である彼らのほとんどが、管理業務を全く手がけていないのです。ヒーローマンションにとってのお客さまは、オーナーである以上に入居者であることを考えれば、入居者満足の高い商品の提供と同時に、入居者サービスを充実させた賃貸管理業務への取り組みは絶対に必要です」。
 ブランド戦略については、昨年から俳優の藤岡弘、氏(初代仮面ライダー役で有名な、“ヒーロー”を体現しているような人)をイメージキャラクターに、プロモーションを展開。「ヒーローマンション」持つ優れた居住性能の「見える化」(ユーザーに理解できるようデータを可視化する)にも取り組んでいる。

 幸い、建物の構造面については、耐震強度偽装問題を機に、ユーザーの支持が集まりつつある。環境問題の高まりも、高気密・高断熱住宅には追い風だ。あとは、この事業環境を生かす「売り方」。それさえ揃えば、「ヒーローマンション」が本当の「ヒーロー」になる日も近いだろう。(J)

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