記者の目

2024/3/29

物流2024年問題を数字で読み解く(後編)

“物流の2024年問題”をデータから読み解く回の後編です。月刊不動産流通で「不動産事業者と地域金融機関のWin-Winな関係に向けて」を連載中で、データアナリスト肩書も持つ佐々木城夛氏に、解説していただきます。

◆法律を守ると労働力が不足する…

 ‐‐“物流の2024年問題”ですが、現状でもドライバー不足が叫ばれています。もともと時間外労働の多い業界なんでしょうか?

 「個別事業者、ドライバー個人によって実情は異なりますが、業界全体の動向としては、かなりの時間外労働実態があるようです。データを見てみましょう。
 道路貨物運送業の所定内労働時間は1年当たり1,750時間です。それに4月1日以降の上限時間である年960時間を加えると2,710時間。これが『法律で許される1年間に運転できる時間』となります。この時間を1ヵ月当たりで見ると、約225時間。仮に週休二日として22日勤務したとすると、1日当り約10時間15分となります」

Q 毎日2時間15分の残業まではOK、となりますね。

 「そうです。つまり、現在はそれ以上に働いている運転者が多くて、法律を守ると労働力が不足すると言われている、というわけです。
 上限となる年960時間を『どのくらい超えて働いているのか?』については、これまでもさまざまな調査がなされています。『比較的実情に近い』と言われている、厚生労働省の報告書を参照してみましょう。
 この調査は、4月1日以降に上限となる年960時間よりも590時間多い「時間外勤務年1,550時間/総労働時間年3,300時間」を基準としたようです。年590時間ならば1ヵ月約49時間、月22日勤務として、単純計算で1日当たり2時間14分さらにオーバーとなります。先ほどの2時間15分の残業をした後にさらに同じだけ残業をするというような感じになります。それを出勤日に漏れなく行なうと年3,300時間に到達します。

 ‐‐毎日5時間の残業は、いくらなんでも長過ぎますね。

物流業界は、超過勤務が常態化している(写真はイメージ)

 「はい。健康に影響を及ぼすレベルだと思います。そしてさらに問題なのは、その3,300時間を超える勤務実態が、調査対象先の2割以上に認められたことでしょう。グラフをご覧ください」

図表1 トラック運送事業者年間拘束時間比率

 ‐‐棒グラフのオレンジを除いた部分ですね。

 「そうです。調査は全国トータルのほか、各地方別の切り口でも掘り下げられていますが、その結果からは、中国・近畿・関東地方で全体平均以上の勤務時間が認められました。このデータから、『4月1日以降に不足する労働力』を大まかに試算してみます。色を塗らなかった「3,300時間未満」の中には、4月1日以降に適用される『時間外勤務960時間・年間2,710時間ルール』の範囲内の運転者もいらっしゃるでしょうし、合計すればほぼ3,300時間の方もいらっしゃるでしょう。その一方で、全体の傾向としてこれだけ長時間勤務が認められる以上、極端に短い勤務実態は例外的と考え、推測数字も含めて推計してみると、その合計値は、395.20時間となりました。
 この時間が、2,710時間を超えて働いている平均時間となります。1ヵ月平均では約33時間、月22日勤務とすると約1時間半になる計算です。少なく見積もっても、運転者全員に、だいたい15%くらいの勤務時間の短縮が求められることになります」

◆危惧される運送事業者の倒産

 ‐‐それだけの人手が不足する、ということなんですね。

 「はい。もちろん、人材を採用できれば補えるわけですが、短期の解決は難しいでしょう。運転業務の有効求人倍率は全職業平均の2倍程度の数値となっています。これは人手が集まっていない、ということです」

 ‐‐4月1日以降は、どうなっていくのでしょうか。時間外勤務時間を計上しない“闇残業”が増えるのでしょうか。

 「局所的にはそうした事象も発生してしまうのかもしれません。しかしながら、昨今の中堅以上の事業者の車両には、運行記録計(タコグラフ)やドライブレコーダーが装着されていることも多く、簡易GPSなどを貸与して車両に搭載するよう義務付けている事業者も見られます。こうした機器から運転実態が簡単に解析されますし、違反や事故などを引き起こせば路上の防犯カメラも活用されることになります」

 ‐‐つまり、闇残業にも限界がある、と。

 「トラックを使用した自動車運送業の行政処分は、23年の1年間だけで836事業者に及びます。“運輸業の2024年問題”は社会的に注目を集めている事象ですので、業界団体からも注意喚起が出され続けるでしょうし、4月1日の適用後には、法令遵守状況の実態解明のための立入調査などが行政により行なわれる可能性もあるでしょう。つまり、不法行為を続けることは困難であると思われます」

 ‐‐いよいよ運転者が不足することになりますね。

 「そうなった結果、予測されるのが事業者の倒産です。金融機関は融資の際に拝借した決算書などを元に経営効率を定量的に分析しますが、自動車運送業における利益率などの経営指標と保有する車両の規模には強い相関が認められ、スケールメリットが働きやすい業界であることが裏付けられています。よって数値の上では、相対的に規模の小さな事業者に、相当数の倒産事象がもたらされることになると考えられます」

倒産する事業者が出てくる可能性も…

◆不動産業界への影響は?

 ‐‐景気にも大きく影響しそうです。

 「不動産業界にも影響はあるでしょう。間接的な影響としては、大手が宅配便などを受け取ったり荷造りしたりするために賃借していた事業者が減ることが見込まれます。運転者の労働時間は車を運転している時間だけでなく、待機・積載・荷降ろしなども含まれるため、拠点を絞った方が効率化できるからです。
 効率化のためには、一度に運ぶ貨物の量を増やすことも当然に有効です。従って、車両が大型化し、道路などの損傷が進むことも見込まれます。また、車両が大型化すれば駐車可能な場所も絞られるため、結果として、運転間隔を開けるために立ち寄れていた飲食店や休憩施設にも立ち寄れなくなる事象も見込まれます。ファミリーレストランなどの駐車場では、大型トラックが停車できないことが多いからです。結果として、これらの飲食店や休憩施設にも逆風となるでしょう」

 ◆ ◆ ◆

 先日テレビ番組で「“物流の2024年問題”の影響で、引っ越し事業者に依頼できない」というテーマを取り上げていた。ある消費者は複数の引っ越し事業者に依頼したが、「人員を確保できない」として断られたという。
 この社会課題解決に向けては、ドローン配送や、運転手1人当たりの物流量を増やす連結トレーラー、トラック無人運転など、実用化に向けて検証・検討・実験が進められているという。早期の実装・実現を期待したい(NO)

前編はこちら)

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