記者の目

2024/3/27

物流2024年問題を数字で読み解く(前編)

物流における“2024年問題”が、しばしばマスコミで取り上げられています。ドライバーの労働時間上限規制によりさまざまな問題が生じ、「荷物を届けられなくなる」「これまでのように時間帯指定で荷物を届けてもらえなくなる」「引っ越しに支障が出る」…といった内容が多く、不安を募らせている方も多いでしょう。

月刊不動産流通で「不動産事業者と地域金融機関のWin-Winな関係に向けて」を連載中の佐々木城夛氏に、物流関連のデータを分析してもらうとともに、状況を解説していただきました。

◆荷物の運び手、ドライバー不足が危惧されている!

 ‐‐“物流の2024年問題”が発生する4月が目前に迫っています。

 「この問題は、自動車を運転する労働者に向けた『自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)』に対して、2023年12月23日に厚生労働省から『自動車運転者の労働時間等の改善のための基準の一部を改正する件』が発令されたことに端を発しています。この適用日が2024年4月1日で、以降、基本的には、自動車運転者の年間時間外労働の上限が年960時間にまで規制され、運び手であるドライバーが不足する、というわけです」

時間外労働時間の上限規制により、荷物の運び手であるドライバーが不足することが懸念されている(写真はイメージ)

 ‐‐ドライバーがこれまでより短時間勤務になり、そのために「荷物に対して運転者が少なくなる」ということですね。

 「はい、そのとおりです。ただ、別の側面もあります。説明しましょう。
 まず『荷物』についてみてみます。図表1は、自動車による荷物の輸送状況の年度別データです。

図表1 年度別国内自動車輸送状況

 “荷物の輸送手段”といえば、自動車以外にも船舶や航空機もありますが、総重量ベースでは、全体の約9割を自動車が占めています。この総重量を13年度から年度別に見ると、直近の10年間は、『横ばい傾向が続き、2020年の新型コロナの感染拡大以降に縮小』ということが分かります。全体の傾向を線形近似曲線として緑の点線で示しましたが、右下がり、つまり減少傾向にあるのです。

 次に、運んだ距離を含めた目線で捉えてみましょう。『1,000㎏(1トン)を1,000m(1km)運んだ数値』を1トンキロと呼びますが、この数値を右目盛に沿って折れ線グラフで表示しています。
 こちらも、棒グラフで示した総重量と同じような推移が確認できます。つまりは減少傾向が認められる、ということです。赤の点線で示した線形近似曲線も、減少傾向を示しています」

 ‐‐えっ、運んでいる荷物の重量自体は減っているんですか?

 「そうなんです。13年度と22年度の比較では、総重量(トン)が約92.24%、距離を含めた配送実績(トンキロ)が約90.09%まで減少しています。線形近似曲線で示した2本の点線を比較しみると、点線は、緑よりも赤の方が『傾斜がきつい=落ち込みが激しい』ことを示しています」

◆“軽い荷物を近くに運ぶ”配送が増加

 ‐‐増えているとばかり思いこんでいました…。

 「次に、21年度と22年度を比較してみると、棒グラフで示した総重量は下降。しかし、折れ線グラフで示した距離を含めた配送実績は上昇しています。荷物自体は減ったり軽くなったりしている一方で、目的地までの配送距離は、荷物の減少分ほど短くなっていない、ということです」

 ‐‐これは、どういうことでしょう?

 「高齢化の進行によって食料品・日用品の自宅への配送需要などが増加したこと。さらに、2020年の新型コロナの感染拡大も個人宅配を後押ししたということがうかがえます」

 ‐‐個人向けの荷物が増えたということなんですね。

 「そのとおりです。では次に、『重量』と「距離を含めた配送実績』についてのデータも見てみましょう。図表2をご覧ください。

図表2 2022年度品目別自動車輸送実態(単位:千トン、千トンキロ)

 表では、『重量』と『距離を含めた配送実績』各々の10位までの内訳を左右に表示し、同じ品目に同じ色を着色しました。
 左側に示した重量(トン)ベースの第3位に「窯業品(その他の窯業品)」がランクインしています。内訳は、セメント製品・コンクリート製品・煉瓦・ガラス製品・陶器などです。重量で言えば、圧倒的にセメント・コンクリート・煉瓦が重く、これらが大半を占めるでしょう。
 よって、第1位から第3位まではいずれも土木・建築関係の品目で、これだけで全体の3割弱を占めます。これらに使用される車両として、大型のダンプカーやミキサー車が連想できますね。第5位の「食料工業品」は、調味料・澱粉・酵母ほか食品の原材料や飲料・煙草など。第6位の「取合せ品」は個人を荷主(発注者)とする分を含む宅配便などが該当します。

 それが、右側の「距離を含めた配送実績」になると、順位が様変わりします。重量で第1位であった「砂利・砂・石材」が4位まで下降し、「廃土砂」と「窯業品(その他の窯業品)」は第11位以下の圏外となり名前が無くなります。第1位から第3位までを相対的に軽量な品目が占めており、これらの配送距離が長い実情が窺えます。

 ミールキットは第6位の「製造食品」、飲料水は第1位の「食料工業品」に含まれますので、ご質問のとおり、そうしたものが増えていることが「距離を含めた配送実績」を底上げしている可能性は十分にあります」

個人向けの宅配が、距離を含めた配送実績を底上げしている様子がうかがえる(写真はイメージ)

 ‐‐不安が広まっている2024年問題ですが、どんな対策が考えられるのでしょうか。

 「解決策として『DX化』や『混載による物流効率の改善』を指摘する意見も見られます。しかし、デジタル化のメリットは、間接部門の作業の圧縮によるローコスト化であり、デジタル化すること自体で荷物が減ったり運転者が増えたりするわけではないですから、解決につながるとは考えづらいです。
 後者についても、図表2で示した食品関係の輸送には十分な衛生管理を行わなければ食中毒などを起こしかねませんし、宅配便ではこわれもの対応などが求められます。「荷主や配送先が近隣だから」というだけで、土木・建築関係と同一の車両を使用することは現実的に難しいと思います。
 データ上では、現在の輸送・配送業者がある程度淘汰されて相対的に競争力のある事業者が勝ち残り、結果として荷主や消費者がある程度の物流コストを負担する中で、自動車運転者に一定の賃金が支払われ、自動車運転者が増える構図が描けない限りは解決しないと考えます。そうしたものとは全く別に、交通渋滞や道路の整備といった解決も必要となるでしょう」

後編につづく)

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