記者の目

2024/9/19

新オフィス完成に向けた“トライアルオフィス”

 野村不動産(株)は現在、東京都港区の芝浦エリアで、約4.7haに及ぶ再開発事業「BLUE FRONT SHIBAURA(芝浦プロジェクト)」を推進中。オフィス、ホテル、商業施設、住宅で構成される2棟の高層複合ビルを開発するビッグプロジェクトで、2025年2月に竣工するS棟には野村不動産(株)を始めとするグループ各社の本社を集約移転する計画だ。
そんな同社グループではその移転に先立ち、建て替え予定のビルに「トライアルオフィス」を設置。各社各部署の就労者が一定期間そこで働く取り組みを実施している。取材した。

◆さまざまなトライアルを行なうために設けられたオフィス

 新オフィスの構築に向けさまざまな検証を行なう場として用意された「トライアルオフィス」。今回の再開発に伴い建て替えが決定している「浜松町ビルディング」の33階に設けられている。新オフィスに導入するかもしれないさまざまな要素を導入したワークスペースを用意。部署ごとに一定期間そこで働き、そのオフィスの効果を実感するとともに、意見や感想などを集約する、という取り組みを行なっている。25年に新設される新オフィスに反映させるための体験場であり、まさしくトライアルの場でもある、ということだ。

 また、長い間同社が拠点を置いていた新宿からの初の移転となるため、港区芝浦で働くということをグループの就労者に実感してもらうこと、固定デスクのオフィスをABW(Activity Based Working:仕事内容や気分に合わせて場所を選べる働き方)へと変えるため、その“予行練習”という意味もあるようだ。

◆雰囲気の異なる2つのワークスペースを用意

 33階のフロアの約半分弱のスペースに、オフィスを仕立てて活用を開始したのが22年11月。部署ごとに約2~3ヵ月ずつこのオフィスをメインオフィスとして就業する形で運用している。23年5月からは残りの半分弱のスペースもオフィス化。フロア全体をワークスペースとして活用している。

 フロアは、集中作業に適したデスク、会話などをしながら業務できるデスク、イベントなどもできるスペース、会議室など、色合いや風合いは異なるものもあるが、比較的共通する要素のワークスペースが設けられている。抜粋して紹介したい。

 ABWへの移行を踏まえ、さまざまなワークスペースを用意。個人単位で仕切られ、モニタが供えられた集中デスクや、ファミレスブース、カウンタータイプのデスクなど、業務内容、気分などに合わせて働ける場所が用意されている。

集中デスクエリア。パーテーションで区切られディスプレイを設置しており個人業務に適している
6人掛けのいわゆるファミレスブース。個人作業はもちろん、カジュアルな打ち合わせや複数人での作業にも使いやすい
立って執務できるカウンターデスク。通りがかった人と視線を合わせてちょっとしたおしゃべりもしやすそう
検証の場ということで、どのような業務に適しているか、活用メリット、そこで実施していいこと・してはいけないことについて案内するプレートが置かれている

 個人作業に適したスペースは、開放的な空間ながらこもり感のある集中ブースや衝立式のものなど、複数用意されている。秘匿情報の作業、集中しての作業などに重宝しそうだ。

集中ブース。こもり感があり、集中できそう
コロナ禍でよく目にした衝立式のブースも設置されている

 会議室も、4人ほどの少人数から大人数が入れるものまで複数用意。その他、雑談、リフレッシュなど多様に利用できる空間も整備されていた。

会議室も4人程度の少人数向けのものから最大14人が利用できるものまで用意されている
窓に向かって配置されているソファは、仕事にも休憩にも良い効果が得られそう
緑の多い空間に1人用ソファやテーブルセットが設けられたエリア。喫茶店かホテルのラウンジのような雰囲気で、仕事やちょっとした打ち合わせ、休憩ができる

 2回に分けて整備したことから、最初の半分のエリアで確認された課題について、後半に整備したエリアで解消策を実施する、ということも行なわれている。

 中央窓寄りにコーヒーマシンやウォーターサーバーを備え付けて用意したスペースで、人だまりが生まれ交流が促進されていることが確認できたことから、後で整備したスペースではこうしたスペースを拡大し「コミュケーションカフェ」として整備。コーヒーマシンの周りにソファやテーブルを配置。ランチタイムにはお弁当を販売するなど、さらに人がたまるように仕掛けをほどこしたところ、コミュニティ形成の場として期待した効果が生まれているという。

右のカウンター部分にコーヒーサーバーなどが配置されている。昼には弁当販売も

 また、当初整備したエリアはフローリング敷きだったが「集中作業時にはヒールのある靴の足音が気になる」との意見があったことから、後に整備したエリアはカーペット敷きにするといったことも。従業員から寄せられた意見を踏まえて新たなトライアルを実施し、ゆくゆくは、新オフィスに織り込まれるようだ。
  このトライアルオフィスの運用は2025年3月まで継続される予定。得られた効果や従業員からの意見、感想などを、新オフィス創出のために設けられた「オフィス戦略室」に集約し、検討を進め、オフィスを完成させる計画だという。
 新ビルへの移転は2025年中の予定だ。

■ ■ ■ ■ ■

 「建て替え予定のビルにトライアルオフィスを設けた」との話を聞いた時には、てっきり一部にコワーキングスペースのようなちょっとしたワークスペースを設けた、ということだと思い込んでいた。それが実は、2,500平方メートルほどあるワンフロアに、いるだけでわくわくするようなオフィスが完成していて、心底驚いた。

 これだけのオフィスを仕立てるにはそれなりの費用も投下しているのは間違いなく、新オフィスを経営陣がどれだけ重視しているかの証左であろう。
 堀氏は「ここまで力を入れて取り組むということで、会社の本気度を実感します。働く場所に対してここまで投資してくれるということに、人的資本を重視している会社の姿勢、メッセージを感じます」と語っていた。
 新本社ビルでは「これまで以上にチャレンジングな組織風土の醸成と、空・海・緑を感じながら日々の働き方をデザインする『TOKYO WORKaion』を実現する」ということを掲げている。快適に過ごしながら成果を挙げることのできるオフィスがどのように実現されるのか、完成がますます楽しみだ。(NO)

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年11月号
 “令和的”不動産店舗って?
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/10/5

「月刊不動産流通2024年11月号」発売中!

「月刊不動産流通2024年11月号」好評発売中です。

特集は、「働く、集う、楽しむ。“令和的”不動産店舗 」。コロナ禍やDXの推進等も契機となり、私達の働き方は大きく変わりました。そうした中、これまで以上に集まりたいと感じるオフィス・店舗の整備に注力する企業も見られます。今回は、外観や内装のデザインなど趣向を凝らし、ユーザーやスタッフが集いたくなる店舗運営に取り組む不動産会社を取材しました。

実務に役立つ連載コーナーも豊富に掲載しています。noteでの試し読みも♪