記者の目 / 開発・分譲

2006/9/22

「趣味」切り口にした差別化戦略

マツヤハウジング、新たなコンセプト・マンション・プロジェクト始動

 中堅ディベロッパーのマツヤハウジング(株)(代表取締役:久保棟男氏)が、「アクティブ・シニア」をコアターゲットにしたコンセプト・マンション・プロジェクトを始動した。会社生活から離れ、「趣味」や「ゆとり」を重視する世代に、物件ごとに明確なコンセプトを掲げて販売していくもの。その第1弾となる「ガーデンホーム永山」(東京都多摩市)は、「ペット共生」を商品企画の中心に据え、さまざまな工夫を凝らしている。「アクティブ・シニア」だけでなく、ペット好きユーザー必見のマンションだ。

「ガーデンホーム永山」完成予想図
「ガーデンホーム永山」完成予想図
玄関に設置された「ペット足洗」。閉じておくとスツールとしても機能する
玄関に設置された「ペット足洗」。閉じておくとスツールとしても機能する
洗面所下部にはペットトイレ用スペースを設置した
洗面所下部にはペットトイレ用スペースを設置した
住戸中央部に設けた「ペットルーム」。3方向に扉が設けられており、ペット動線をコントロールできる
住戸中央部に設けた「ペットルーム」。3方向に扉が設けられており、ペット動線をコントロールできる
共用スペースには、グルーミングが可能な大型バスやドライスペースも
共用スペースには、グルーミングが可能な大型バスやドライスペースも
モデルルーム室内。2人暮らしの「アクティブ・シニア」には充分ゆとりあるスペースを確保
モデルルーム室内。2人暮らしの「アクティブ・シニア」には充分ゆとりあるスペースを確保

コンセプト強く押し出し多世代を取り込む

 同社は、年間供給量600戸弱(2006年度見込み、ファンド棟への1棟卸し含む)という中堅ディベロッパーだが、ユニークな商品企画のマンションを分譲することで有名だ。昨冬には、業界初の「花粉症対策マンション」として「リシェ多摩川リバーサイド」(東京都大田区、総戸数24戸)を発売。エントランスに設置した「エアシャワーユニット」や業務用の除菌イオン空気清浄機など花粉症対策を徹底的に施したこのマンションは、業界内外で大きな話題となった。
 今回始動させたコンセプト・マンション・プロジェクトは、50代後半から60代半ばの元気なシニア層をアクティブ・シニアと定義。その趣味志向を「ゆとり派」を中心に、「ペット共生派」、「健康・スポーツ派」、 「インドア習い事派」、「仲間と趣味派」の5つに分類し、さらに「都会暮らし派」「田舎暮らし派」の立地エリアによる分類と複合的に組み合わせ、物件ごと にコンセプトを企画していくもの。ただ、「シニア向けマンション」とターゲットを限定するわけではなく、シニア層をコアターゲットとするものの、物件ごとにコンセプトを強く打ち出すことで同様の趣味趣向を持った若年層も呼び込み、同じ趣味を通じた多世代によるコミュニティー形成を図るのが狙い。各種プロモーションに際しても「アクティブ・シニア」というキャッチフレーズは一切使わない。

第1弾は「ペット共生」マンション

 同プロジェクトの第1弾として10月下旬から販売が開始される「ガーデンホーム永山」は、「ペット共生」と「ゆとり」を商品企画の中心に据えたマンションだ。建設地は、京王相模原線「京王永山」駅から徒歩13分。公団・公社のマンションが林立する多摩ニュータウンの中心部で、交通量の多い鎌倉街道に面してはいるものの、周囲は緑豊かな丘陵地であり、環境はいい。建物は、地上6階建て総戸数31戸。住戸は、1LDK~3LDK、専有面積56~74平方メートルと、「アクティブ・シニア向け」らしく小家族向けの広さだ。「ベッドタウン」としてファミリー向け物件ばかりが大量供給された多摩ニュータウンでは、実は小家族向けマンションはほとんど供給されておらず、タウン内からの買い替え層の注目を集めそうだ。
 販売価格は、2,600万円台から3,500万円台。坪単価にして、160万円台中盤といったところ。マンション価格はここにきて上昇基調にあるが、多摩ニュータウン相場からみても、まずまず妥当な価格といえよう。

 目玉となる「ペット共生」への対応だが、これがなかなか凝っている。まず、自社開発となるオリジナルの「ペット足洗」がおもしろい。玄関に用意されたそれは、蓋を閉めておけばスツールとして機能する。内部はステンレス張りの大型シンク(幅120センチ×奥行き56センチ)で、手前を切り欠くことでペットが無理なく入れるようにしてある。ペット用としてだけでなく、たとえば子供の靴を洗うといった応用もききそうだ。
 洗面所の下部には、ペット用トイレを設置するスペースが設けられている。ペット用物件では必需といえるスペースだが、洗面所の下部を利用するというのは面白い。
 さて、記者が一番注目したのが、全住戸の中心に設置される「ペット部屋」だ。広さは、およそ1畳大。収納の下部を利用した作りで、高さは1メートル。上部はそのまま収納となる。床は、熱をこもらせないタイル張り。壁紙も消臭機能付きとしている。面白いのが、入口がリビング側と居室側と2・3ヵ所に設置されていること。これにより、ペットの動線をコントロールできるのだ。たとえば、リビングにお客さんを招いているときはリビング側の入口を閉めておけばペットは入ってこない。逆に寝室側を閉めておけば、就寝時にはペットが入ってこないというわけだ(もちろん、全扉を閉め切っておくこともできるが、明かり取りがあるわけではないので、あまりにもペットが可哀想である)。また、オプション対応で、傷の付きにくいフローリングなども用意する。

 このほか、共用施設として薬浴もできる温水ペットバスを備えたグルーミングスペースや屋上ドックランなどを設置するほか、ペットクラブ運営会社と提携した、しつけやグルーミング教室などを行なうペットクラブも展開する。また、エントランスはペット飼育者と非飼育者との動線分離を図ったダブルエントランス。エレベータにも空気清浄機とペット同乗を知らせるインジケータを付けている。
 モデルルームは、無垢調のフローリングとベージュの建具で明るく落ち着いた雰囲気でまとめられていた。遠赤外線電気式床暖房やエコキュート採用のオール電化。伊製のシステム収納なども目を引いた。

ゴルフ練習場付きや坪庭浴室、キッチンに工夫も

 「永山」に続く新プロジェクト第2弾は、東京・新宿エリアで計画。同物件は「健康・スポーツ派」、「ゆとり派」に提案する、本格的なゴルフ練習が可能なマンション。地下にフォームチェック機能付きゴルフ練習ブース、屋上に天然芝と人口芝を敷き詰めたパターゴルフ練習場を設置。地上5階建て・販売戸数は63戸。住戸は、2LDK・50平方メートルが中心とする。販売開始は07年2月頃を予定している。
 また、第3弾として、「仲間と趣味派」、「インドア習い事派」、「ゆとり派」に提案するマンションを、神奈川県大磯町で計画中。ライトコート付き住戸、共用廊下にて近隣住民と触れ合いのできる廊下、ダンスホール、坪庭浴室などを配していくほか、将来、介護が必要になった場合に対応 できる「シニア・プランニング」の選択も可能とするという。今後は、この3物件への反響を見ながら、その供給量を決定したいとしている。
 このほか、今後の供給物件に東洋キッチン製の「3Dシンク」を採用することを決めた。同社は、日本有数の高級キッチンメーカーで、一般的な分譲マンションで標準採用されるケースは極めて珍しい(記者は、今年分譲された「THE KOSUGI TOWER」で標準採用されたものを見たが、大手マンションデベ物件でもオプション対応がほとんど。中小デベ物件では見たことが無い。某ディベロッパー担当者によると、納入価格が倍以上違うこともあるため、とても採用できないという)。「3Dシンク」とは、シンクの上部に幾層ものパネルを設置することで、シンクを調理台や水切り台、配膳台と多目的に利用できるようにしたものだ。

 今秋から、分譲マンション市場は、いわゆる「新価格物件」による激しい競争に突入している。そうしたなかで、ブランド力や資本力で大手ディベロッパーに差をつけられている中小ディベロッパーは、新たな差別化戦略を模索していかなくてはならない。そうしたなか、独創的な商品企画力を全面に出したマツヤハウジングの戦略は、他の中小ディベロッパーにも示唆するところが大きいと感じる。(J)

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