記者の目 / 開発・分譲

2008/9/8

駐車場の空がもったいない!フィル・カンパニーの空中活用術

~空中というブルーオーシャン~

 中心市街地にある商店街が、郊外の大型店舗に流れた客足を取り戻そうと、商店街に「駐車場」を新たに設けてみるだとか、はたまた、景観の美しいまちなみに駐車場が突如として出現してまちなみが途切れてしまった、だとか、良くも悪くも「駐車場」は話題になることが多い。  一方、地主にとっての「駐車場」はというと、短期・中期的な土地の有効活用のメニューの一つ。たとえば、「近々、相続があるかもしれないから、後で加工しやすいようにとりあえず今は駐車場で…」だとか、「区画をまとめる開発計画が持ち上がりそうだから…」だとか、「建築確認申請で建築着工が遅れたから、着工までの間だけ…」等々、「とりあえず駐車場」であることが少なくないのだ。  そうした需要はあるもののニッチな市場である駐車場に焦点を当て、ビジネスモデルを創出した企業がある。(株)フィル・カンパニーだ。

「フィル・パーク中目黒」。フィル・カンパニーは駐車場の空中空間活用を提案している
「フィル・パーク中目黒」。フィル・カンパニーは駐車場の空中空間活用を提案している
「フィル・パーク千駄ヶ谷」の屋上庭園。お弁当を食べたり、ほっとひと息抜きついたり、都心の貴重なオアシス空間として活躍しそう
「フィル・パーク千駄ヶ谷」の屋上庭園。お弁当を食べたり、ほっとひと息抜きついたり、都心の貴重なオアシス空間として活躍しそう
「フィル・パーク中目黒」の施工前
「フィル・パーク中目黒」の施工前
「フィル・パーク中目黒」の施工後
「フィル・パーク中目黒」の施工後
「フィル・パーク中目黒」の建物内の様子。「フィル・パーク」のテナントはおしゃれなカフェやインテリアショップなどが多い。同社が独自に築いたネットワークによる高いリーシング能力も同社のウリの一つ
「フィル・パーク中目黒」の建物内の様子。「フィル・パーク」のテナントはおしゃれなカフェやインテリアショップなどが多い。同社が独自に築いたネットワークによる高いリーシング能力も同社のウリの一つ
同社物件第1号の「フィル・パーク八重洲」。再開発を待つような車1台分しかないビルの合間の土地でも、建築が可能
同社物件第1号の「フィル・パーク八重洲」。再開発を待つような車1台分しかないビルの合間の土地でも、建築が可能

都心の残された空間、平置き駐車場の空

 同社が目をつけたのは駐車場の「空」。
 東京都内だけでも約3万ヵ所といわれる「駐車場」のなかには、平置き駐車場が少なくない。そうした平置き駐車場の未利用空間である空中を活用すべく、1階部分を駐車場に、2階以上を店舗等にできる建物を建設するというもの。そして屋上には庭園を設けることで、無機質な平置き駐車場をくつろぎの場や地域景観に貢献する空間として提供する。
 同社は建物の建築とテナントリーシング、管理を請け負う。

 運用期間が短い駐車場とあって、建築費用の投資回収期間を短く設定し、5~10年の土地活用プランおよびほぼ100%リユースできる建築資材を自社で開発した。地主にとっては建築に伴う初期投資が必要なものの、駐車場賃料に加えてテナント賃料が入ることになる。さらに場所によっては建築に伴う初期投資なくテナント賃料を得るプランも可能だ。
 すでに東京都内を中心に5ヵ所で実績を残しており、そのうち1ヵ所は投資回収を終え、リユースされた。


ブルーオーシャンな 「あったま(頭)い~」建物

 実は筆者は数年前、日本橋から八重洲界隈をぶらり歩いていた際、同社第1号物件である「フィル・パーク八重洲」に遭遇した。
 そのデザイン性、そしてなによりもその革新性に「あったま(頭)いい~」と(友人に白い眼で見られながらも)連呼し、建物の周りをぐるぐる見て回ったのを今でも覚えている。
 あまりに美しいアイデアだったため、どこかの大学と企業が産学連携で実験しているのかなあ(某大手不動産会社のお膝元だし)、くらいに思っていたが、これをビジネスとして確立した人々が実際にいたのだ。

 「大学で建築を教えている教授が話してくれたのですが、学生に建築設計の課題を出すと、数名は駐車場の空中活用を提案してくるそうです。しかし建築イメージだけでなく、ビジネスモデルも詰めて考えるように学生に伝えると、『でも先生、駐車場ってサスティナブルじゃないから、建物はやっぱり無理ですよ』って言われるそうで…(笑)」と、同社執行役員の松本理寿輝(りずき)氏は話す。そのとおり、駐車場やその空中空間は、“都心に残された数少ない余地”として、少なからぬ人々の関心を惹くが、実際に事業化するとなると、いくつものハードルがあるのだ。

 しかし同社の創立メンバーは、駐車場が駐車場として永遠にその姿をとどめない可能性が高いということを逆手にとり、建築資材をリユースする、という発想に辿り着いた。
 そして、着想の具現化のため、大手不動産会社やハウスメーカー、広告業界出身のコンサルタント等々、多くの人が知っているようなプロジェクト実績を積んだ優秀な面々が集結し、建築資材の技術・製品化をはじめ、プロジェクトファイナンスやコンセプトブランディング、テナントとのネットワークを構築した。
 メンバーに共通しているのは、全員がマーケティングやブランディング、マネージメントに明るいということ。これが同社最大の強みである。
 不動産マーケットの中では、ニッチ産業である駐車場。さらにその空中空間というニッチなマーケット、つまりブルーオーシャン(※)を彼らは見つけ出したのである。

※ブルーオーシャンとは
W・チャン・ キム氏とレネ・モボルニュ氏の著書『ブルー・オーシャン戦略』により提唱された市場の定義。市場を海に例え、競争の激しい既知の市場「レッド・オーシャン」に対し、「ブルー・オーシャン」は競争が存在しない新たな市場を指す

空中空間を活用した新しい社会基盤

 一方で、「でも、ファミレスなんかも1階が駐車場で、2階が店舗。空中利用は決して新しい考え方ではないんじゃない?」という声も聞こえてきそうだ。
 たしかに、建物としては似ている。しかし、両者はその目的やターゲットという意味において、似て非なるものなのである(ちなみに見かけも入居テナントも、フィル・パークはスタイリッシュであるという点で大きく異なる)。
 フィル・パークは「空中空間を活用した駐車場」という新しい社会基盤なのだ。

 ちなみに建築価格は1坪当たり約80万円(50~100坪の場合)。投資回収後の解体費は無料だが、リユースできる建築資材は同社が引き取る。
 少なくとも、「この駐車場をなくしてしまうと、自分のマンション・アパートに客が付きにくくなるから、収益率は低くても駐車場はつぶせないんだよなあ…」というオーナーにとっては、検討の余地大な商品なのである。(ひ)

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