土屋ツーバイホーム、自給自足のエコハウス提案
北の大地、北海道。厳しい自然環境に囲まれたその地は、住宅にも過酷な条件を突きつける。そのため、大手ハウスメーカーなどは新技術の実証実験の地としているし、環境技術や省エネ技術なども「北海道生まれ」であることが多い。 そうしたなか、北海道を地盤とする(株)土屋ホールディングス傘下の(株)土屋ツーバイホームが、驚異的な住宅を提案した。環境建築の先進国・カナダの高気密・高断熱技術をベースに、自然エネルギーと生活排熱を可能な限り使う技術をミックス。生活に係るエネルギーコストを「ゼロ」以下にした住宅だ。









カナダの省エネ・環境共生技術ベースに
同社が今回発表した「ネット・ゼロ・エネルギーハウス」は、カナダ政府と同天然資源局の全面的協力により生まれた。カナダ政府は、1999年より、省エネ・健康住宅プログラム「スーパーE」ハウスを開始。高気密・高断熱、24時間強制換気システム、省エネ設備等を導入した同住宅は、日本をはじめ、世界5ヵ国で150棟あまりが建設されている。「ネット・ゼロ・エネルギーハウス」は、この「スーパーE」ハウスの次世代バージョンという位置づけで、2007年末から開発を進めてきたもの。
「スーパーE」ハウスの持つ省エネルギー性能をさらに向上させる一方で、自然エネルギー、あるいは日常生活で排出される熱エネルギーを極限まで使うことで、生活エネルギーコストをゼロ、もしくはマイナスとすることが目標。その第1号モデルが今秋、札幌市郊外(手稲区)の山口土地区画整理事業地内に完成した。
真空断熱材などの新技術、コスト度外視で惜しげもなく導入
建物は、事業地内に流れる川を南面に建設されたツーバイフォー工法2階建て、延床面積143平方メートル・4LDKの戸建住宅。南側になだらかに傾斜した巨大な片流れ屋根が、外観の特徴だ。太陽光発電パネルをより多く設置する、屋根のひさしにより夏季の日照をコントロールし冷房コストを低減する、といった目的によるもの。単に見た目だけのデザインではないところが面白い。
ここから、この建物に導入された新技術がどれほどのものか、順次紹介していきたい。説明文のようになってしまうが、ご勘弁願いたい。
同住宅のシステムは、使うエネルギー量を極力まで抑え、そのエネルギーも自然界から得るという2段構えからなる。
まず、基礎は厚さ50mm、1階床スラブは厚さ100mmの発砲断熱材で包みこむ。床フローリングは直張りのクッションフロアだが、この断熱施工とコンクリートの蓄熱作用で、真冬でも裸足で歩けるという。
外壁には、「アイシネン」という水性発泡断熱材を吹き付けている。
「アイシネン」は、空気を包み込んだフォームを吹き付けることで、断熱性とともに気密性も高めることができるスグレモノだ。
断熱性を高める上で重要な窓は、すべて「三重サッシュ」を採用。さらに、窓枠は断熱性が高いグラスファイバーフレームとした。だが、断熱関係で最も注目されるのは、住宅への全面的採用は日本初となる「真空断熱材」だ。
真空断熱材とは、冷蔵庫のフレームなどに施される高密度の断熱材。通常のグラスウール断熱材と同じ厚さで比べた場合、約15倍もの断熱効果を発揮する脅威の素材である。既存の商品では住宅向けは用意されていないため、完全なる同社のカスタムメイド。コスト度外視で導入した。
これらの断熱施工により、「Q値」と呼ばれる熱損失係数は0.75、気密能力を示す「C値」は0.24を達成。この値は、次世代省エネルギー基準で最も高性能とされるI地域(函館を除く北海道全域が対象)の数値の半分。つまり、2倍の断熱・気密性能を持っていることになる。この脅威の省エネ性能により、まずは冷暖房に要するコストを最低限に抑えるのだ。
太陽光、地熱、生活排熱、使えるものはなんでも使う
次は、光熱費を賄うための各種技術である。
南側に向いた大屋根の上には、合計51枚の太陽光発電パネルが並んでいる。最大出力は7.8kw。100%稼働したとき、7800wの電気が使えるということだ。余談だが、記者の家には、たった2kwだが太陽光パネルが載っている。それでも普通の晴天であれば、リビングでエアコンを全開にし、大型テレビを観賞していても、電力会社に売電できる。それを考えれば、この出力がいかに巨大か理解できると思う。
家庭内で使うお湯は、太陽光で温めた水を利用するが、冬場のためにバックアップ用のヒートポンプを設置している。また、地中に長さ85mもの鉄管を張り巡らし、夏は熱気を地中に放熱、冬は地熱を暖房と駐車場のロードヒーティングに利用する「地中熱ヒートポンプ」を導入した。
家庭内で発生してしまった「熱」も、余さず利用する。浴室の排水管には、お湯の熱を回収し水道水を予熱する「排水熱回収システム」を導入。排熱の6割を回収するため、わざわざ浴室を2階に設置した(排水管が短いと意味がないため)。通風・採光は、屋根のひさしによりコントロールされるほか、北側に設けた高窓により、季節ごとの調整も図る。
雨水は、樽に貯めて庭への散水用として活用する。全熱交換式換気システムにより、排熱の7割を回収しながら空気を入れ替える。
照明はすべて蛍光管もしくはLED、節水便器、節水シャワーといった省エネツールは当然のように使っている。
これらにより、同社の試算では、一般家庭がこのクラスの家で生活した場合かかる年間光熱費30万円が「ネット・ゼロ・エネルギーハウス」では5万円程度に抑えることができ、暮らし方次第では収入も見込めるようになる。
新技術を手土産に首都圏本格進出も
同住宅は、分譲住宅として販売中。価格は、土地・建物価格合わせて5,600万円と、札幌郊外としてはかなりの高価格。それもそのはずで、建物単価は坪あたり100万円であり、通常の同レベルの住宅の約1.5倍。約2,000万円が、新技術導入コストとなっているのだ。「その半分以上が、真空断熱材のコスト。今後のコストダウン次第では安くできますが…。ただ、反響は上々で、環境や省エネ意識の高い企業経営者や医師等が多く見学に来られますね」と語るのは、同社広報企画部長の武藤博幸氏。
もとより同社も、今回の「ネット・ゼロエネルギーハウス」をそのまま拡販しようという考えはまったく無い。なぜなら、建設地の気象条件等により必要な技術と不必要な技術があり、そもそも導入した技術すべてを、ユーザーが望んでいるかという問題があるからだ。
「導入した技術1つ1つは素晴らしいもので、あとはユーザーの求めに応じて、既存の商品にどういかしていくかが課題。今回の住宅は、その手法の展示館みたいなもの」(武藤氏)。
こうした考えから、同社は今回の新技術を差別化ツールとして、首都圏への本格進出を計画中だ。道内に倍するマーケットはあるし、建築資金の豊富な団塊世代の動きも活発だ。同世代は、環境や省エネへの意識も高く、他社を圧倒する技術を得た同社にとってはアドバンテージとなる。
すでに八王子市に支店を持つなど、首都圏への足掛かりはある。住宅マーケットはこのところまったく元気がないが、同社のハイテク住宅がどのように市場から評価されるか、注目していきたい。(J)