記者の目 / ハウジング

2023/5/17

注目されるか住宅の“健康効果”

レジリエンス・環境に続く、商品テーマに

 住宅メーカー各社が、商品づくりにおいて、レジリエンス、環境の次のテーマとして掲げているのが、「健康」だ。特に、ここ数年で住宅での健康効果を高めるため、「全館空調システム」等の開発・提案に力を入れる動きが活発化している。各社の事例を紹介する。

◆ウイルスの不活性化等のブラッシュアップで受注増

 全館空調システム自体は、三菱地所ホーム(株)が1995年に全館空調システム「エアロテック」を搭載した家を販売開始。2000年代になると各社がオリジナル商品をリリースするなど、以前からある設備だ。ところが、コロナ禍で住まいの換気や空気の循環、健康維持機能等への注目度が高まり、各社で主力設備として取り扱う動きが出てきた。

「エアロテック」の構造(画像提供:三菱地所ホーム(株))

 三菱地所ホームは、20年10月から、もともと評価の高かった「エアロテック」のアップデートを短期スパンで繰り返し実施している。ウイルスの不活性化、冷房・除湿の自動切り替えや加湿といった機能を搭載したほか、省エネ性能の向上も図ってきた。21年度上半期には、同システムが評価され、受注棟数が前年同期で2ケタ増になるなど、販売状況は好調だという。自社商品での実績を踏まえ、昨年からは、同システムの外販にも力を入れている。

◆体験型ショールームに「健康」テーマの展示

 トヨタホーム(株)とトヨタホーム東京(株)が4月1日に開業した体験型ショールーム「TQ GALLERY in MAKUHARI(幕張)」(千葉市花見川区)では、同社商品紹介等を展示するコーナーで、健康効果を打ち出したパネルを用意した。同社の全館空調システム「スマート・エアーズPLUS」の採用によって、熱中症やヒートショック予防にどの程度効果があるのか等を掲載している。両社では、ZEH基準(高い断熱性能)が一般化している中、今後は住宅の保温・健康温度に注目が集まると踏んでいる。

体験型施設で、全館空調システムの健康効果について紹介した展示スペース

 トヨタホーム東京の営業担当者は「WHOが18年に示した『住宅と健康ガイドライン』では、冬の室温は冷暖房を付けずに18度以上を推奨しています。日本の住宅の多くがこれを実現できていない状況で、これを説明するとほとんどのお客さまが驚かれる。当社の全館空調システムを搭載すれば22度前後を維持できることなどを説明しています」と話す。その結果、全館空調システムについて高い関心度を得ているという。「同施設には他にもさまざまな展示コーナーがありますが、全コーナーの中で全館空調システムの健康効果について解説するパネルを解説する際に、最も質問が多いと感じています」(トヨタホーム東京)。

◆エビデンスを打ち出し、効果を発信

 「アイフルホーム」「フィアスホーム」「GLホーム」のフランチャイズ本部である(株)LIXIL住宅研究所は4月21日、同社コンセプト住宅「すごい家」のモデルハウスに搭載した光触媒の空気清浄装置を搭載した全館ダクトレス空調システムおよび24時間熱交換換気システムの換気・除菌・脱臭機能に関する実証実験結果を発表した。

 同住宅は、同社がこれからの時代に求められる家づくりを研究し、ユーザー調査や専門家の意見を踏まえ、「健康につながる暮らし」をテーマに21年9月にリリースしたものだ。その目玉となるのが、太陽や蛍光灯などの光が当たると、接触した細菌、ウイルスなどの有害物質を⽔と⼆酸化炭素に分解する光触媒を採用した同システムだ。

モデルハウスを活用した実証実験の様子(写真提供:(株)LIXIL住宅研究所)

 同システムの有効性を明確化するため、NPO法人バイオメディカルサイエンス研究会(東京都品川区、理事長:瀬島俊介氏)の協力を得て、モデルハウスの室内でCO2の発生、乳酸菌の塗布、アンモニア水の噴霧を行ない、システムの稼働の有無で変化があるかどうか検証。いずれもシステムを稼働した場合の方が、CO2であれば1時間で約3分の1にまで減少するなど、高い改善効果があることが分かった。

 今回の実証実験の結果によって、「すごい家」は、(⼀社)レジリエンスジャパン推進協議会主催の「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化⼤賞)2023」において「STOP感染症⼤賞最優秀賞」を受賞。同システムは、居住者の健康維持や改善に寄与すると評価を受けている。同商品自体はコンセプト住宅ということもあり、大々的なPRは行なっていない関係で、まだ契約数自体は多くないが、同社は今後この成果を今後の商品づくりに生かし、消費者にも訴求していく予定だ。

 パナソニック ホームズ(株)も、同社の全館空調システム「エアロハス」や換気システムの効果を慶應義塾大学理工学部の伊香賀 俊治教授との共同研究・調査を行なっている。22年12月に発表した成果報告では、高性能フィルターを搭載した「エアロハス」を採用した住宅(ZEH水準以上)への転居者は、部屋ごとの冷暖房のある住宅や床暖房のある住宅への居住時と比較して、健康症状(花粉症、アレルギー性鼻炎、手足の冷え)や生活の質(眠りの質、活動意欲)が改善しているという回答が4~6割に上った。

全館空調システム、床暖房、部屋ごとの冷暖房、それぞれの設備を備えた住宅に居住した場合の健康状態や生活の質の改善度合いを調査(画像提供:パナソニック ホームズ(株))

 23年4月に発表した創業60周年記念商品「NEW『カサートプレミアム』」では、テーマの一つとして“健康快適”を掲げ、「エアロハス」を目玉の設備の一つに設定。同月に販売を開始したところ、同商品の展示場では、顧客から好評を得ているという。

 なお、同社は5月18日に、リフォーム用の全館空調システムの販売も開始する。ストック分野においても、省エネリフォームがヒートショック防止等、健康面でも効果があること等が分かっている。今後、健康をウリにしたリフォーム・リノベーションの展開が進展しそうだ。

◆◆◆

 全館空調システムを自社の強みとして顧客獲得につなげいる事例もあるが、一方で、ある住宅メーカーの担当者は、「コスト面から注文住宅を購入するお客さまのうち、全館空調システムをプラスする人はまだ少ない」と話すなど、業界全体への浸透はまだこれからという話もある。
 建築資材の高騰や物価上昇によるマインド低下など、住宅メーカーには向かい風が続いており、各社にはさまざまな提案の工夫が求められている。全館空調システムの普及策や健康効果を打ち出した商品開発などの今後の展開に注目だ。(umi)

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全館空調

居室だけでなく廊下など建物の全てのスペースを対象とした空調のこと。全館空調は、部屋ごとに空調機器を設置せず、一つの設備で処理した空気を配管によって建物全体に循環させる方法で運用される。通常、24時間運転とされ、稼働コストが嵩むほか、原則として新築時に設置しなければならない。

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