記者の目 / 仲介・管理

2023/11/2

顧客にとことん寄り添う仲介営業

大手に負けない!

 地場不動産会社の強みとは何だろうか? 商圏やネットワークの広さ、ブランド力、プロモーション力では大手企業に軍配が上がるだろうが、一つの案件にどれだけ時間が掛けられるか、という点では地場企業も負けてはいない。売買仲介の場合、大手は営業担当者一人が抱える案件が多くノルマも厳しいため、売り主と交渉して価格を下げるなど、効率良く物件をさばくことに終始するケースも少なくない。対して地場は、案件数も限られることから、売り主の要望を「とことん聞く」ことも可能だ。これを実践する、大阪のある不動産会社を取材した。

大手不動産会社で売買仲介の研鑽積む

あすなろマイホームセンター代表取締役の篠原徳哉氏<提供:(株)あすなろマイホームセンター>

 京阪電鉄交野線「宮之阪」駅徒歩3分に店舗を構える(株)あすなろマイホームセンター(大阪府枚方市、代表取締役:篠原徳哉氏)は、枚方市・交野市・八幡市で売買仲介事業などを手掛ける不動産会社だ。篠原社長は大阪府高槻市生まれ。2016年に同社に入社し、代表取締役に就任した。

 「親戚が不動産会社を経営していたことから、もともと不動産業界に興味があった」という篠原氏。大学在学時に宅建資格を取得し、卒業後の1992年に東急リバブル(株)に入社。寝屋川営業所で売買仲介業務に携わった。2000年に退職し、東急リバブル時代の先輩が立ち上げたセンチュリー21 リッツハウジング(株)(大阪府枚方市)に入社した。

 あすなろマイホームセンターの店舗はリッツハウジングの向かいに立地していた。2社は03年頃から、不動産を仕入れ再販するビジネスを手掛けるなど、協力関係を築いてきた。16年にあすなろマイホームセンターの前社長が引退。付き合いにあった篠原氏に会社の舵取りを託した。

一括査定サイトで地道にアプローチ

「宮之阪」駅ほど近くに立地する同社店舗<提供:(株)あすなろマイホームセンター>

 同氏が社長に就任した当時、会社にはある課題があった。「前社長時代は不動産仲介、売買など幅広く事業を手掛けていましたが、これという強みはない状態でした。買取再販事業も、不動産の仕入れから売買まで、リッツハウジングのノウハウに頼っている部分が大きかった。会社のさらなる成長のためには、軸となる事業が必要だと考えました」(篠原氏)。

 そこで、同氏が得意とする売買仲介を主業としていくことを決意。不動産一括査定サイトを活用し、顧客にアプローチを図っていくことにした。不動産一括査定サイトとは、売り主がインターネット上で査定したい不動産の情報を入力し、複数の不動産会社が一斉に査定を行なうもの。不動産会社は、査定額のほか売却実績や販売戦略、店舗や営業社員の紹介文などを売り主に送りアピールを行なう。

 「6社程度での競争となるため、案件を獲得するのはなかなか難しいですが、地道にアプローチを行ない、少しずつ件数を伸ばしていきました」(同氏)。その結果、同氏の入社前は年間片手で数えられるほどだったという売買仲介件数は、現在、年間30~40件ほどまで増えているという。

ホームページに好評レビューがずらり

 同社が売買仲介時に最も意識していることが「顧客が何を望んでいるか」。その人が売り急いでいるのか、それとも時間が掛かっても良いから高値で売りだがっているのか。個々の要望を丁寧にヒアリングした上で売却活動を行なっている。「大手企業は1ヵ月単位でノルマが決まっており、時間をかけて売却先を探すのは難しい場合もあります。その中で、当社のこのスタイルは差別化につながっていると思います」(同氏)。

 顧客からの好評ぶりは、同社のホームページを見ても分かる。「お客さまの声一覧」には、成約した顧客の許可を得た上で、顔写真とレビューを掲載している。「悪かったことも気にせず書いてください」と同氏は伝えるらしいが、レビューは同氏への感謝で埋め尽くされている。

同社ホームページ内の「お客さまの声一覧」には、数々の顧客からの感謝の声が綴られている

 「他社に自宅の売却をお願いしたが1年半動きがなく、あすなろマイホームセンターに。こちらの意見を尊重してくれて、売却のためのアドバイスもたくさんしてくれて、安心して任せられた」(大阪府枚方市、30代女性)

 「6社に査定してもらったが、多少なりとも愛着のある家。大雑把にしか見ないで査定する人には任せられないので、丁寧に見てくれた篠原さんにお願いした」(大阪市城東区、60代男性)

 「自宅の売却で他社と契約をしていたが、担当者の適当な態度や自分たちの利益しか考えていない態度に不安を感じ、顔面痙攣まで発症したため、藁にもすがる思いで篠原さんに相談した。こちらの気持ちにしっかりと向き合い、1番合った方法を提示してくれた。篠原さんに出会えていなければ、今頃、売却も上手くいかないどころか借金を抱えて人生転がり落ちていたと思う」(大阪府交野市、40代女性)

 顧客にとことん寄り添う姿勢が、満足度の向上につながっているようだ。

篠原氏は、不動産売却のプロを紹介するサイト「おうち売却の達人」を運営する全国不動産売却安心取引協会による「達人」認定を受けているほか、23年度5月度の「Thanks Voice獲得達人」全国1位にも選ばれた

新たな営業社員を入れ、会社をより強固に

 プロモーションの強化を目的に、数年前から注力しているのがSNSをはじめとしたメディアの活用だ。Instagramでは、売買物件の情報や成約状況のほか、オーナーや顧客から貰ったプレゼント、篠原氏が食べたランチの内容など、親しみを持てるような情報も発信している。

同社のInstagram公式アカウント

 一方、YouTubeでは、売買物件のルームツアーや最寄り駅からの道のり等を数分程度の動画で紹介している。

同社がYouTubeに投稿しているルームツアー動画の模様。篠原氏がカメラを持って住戸内を巡る

 「撮影・編集作業に時間が掛かるため高頻度で更新するのは難しいですが、お客さまへの分かりやすい情報提供を図るべく、今後も引き続き取り組んでいきたい。現状、インスタやYouTubeを見て来店した、というお客さまはごくわずかですが、記事・動画を積み上げていけば、いずれ成果が出ると思っています」(同氏)。

 また、23年5月には、同氏の不動産売却に係る知識を詰め込んだ書籍「不動産売却を考えた時に、一番はじめに読む本」を発行。「家を売却する基本のステップ」「不動産会社を選ぶポイント」「相続した不動産の売却について」「空き家の売却について」などポイントごとに解説。ECサイト等で販売しているほか、来店客には無償で配布している。「若い頃は利益に走ったこともありましたが、今はお客さまにいかに喜んでもらえるかを最も大事にしています。後悔がないように売却を進めてほしいとの気持ちから、本書を作成しました」(同氏)。

篠原氏の著書「不動産売却を考えた時に、一番はじめに読む本」<提供:(株)あすなろマイホームセンター>

 同社では現在、営業社員を募集中。「今は私を含めて2人で売買仲介の営業を行なっています。新たに入ったスタッフに私のノウハウをしっかりと伝え、一人前の営業社員に仕上げることで、会社をより強固なものにしていきたいです」(同氏)。

◇ ◇ ◇

 同社が商圏とする枚方市は近年、「枚方市」駅前の再開発への期待もあってか、駅周辺を中心に不動産価格が上昇しつつあるという。資材価格の高騰がそれをさらに後押ししている状況だ。一方で、周辺相場と乖離した高額な値付けを行なった結果、売れ残っている物件もちらほら見られるという。そんな時、地域の市況感を知り尽くした同社のような地場の不動産会社であれば、売り主に売却に向けた適切なアドバイスを行なえるはずだ。不動産価格の上昇が叫ばれる中、いま最も求められるのは、そうした地域密着の視点とノウハウかもしれない。(丈)

記事のキーワード 一覧

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年5月号
住宅確保要配慮者を支援しつつオーナーにも配慮するには?
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/4/5

「月刊不動産流通2024年5月号」発売開始!

月刊不動産流通2024年5月号」の発売を開始しました。

さまざまな事情を抱える人々が、安定的な生活を送るために、不動産事業者ができることとはなんでしょうか?今回の特集「『賃貸仲介・管理業の未来』Part 7 住宅弱者を支える 」では、部屋探しのみならず、日々の暮らしの支援まで取り組む事業者を紹介します。