記者の目 / ハウジング

2020/10/14

「顧客目線」のリノベーション(後編)

家族の絆を深めるリノベ

 前回に引き続き、リノベーションで新たに魅力ある空間に再生した事例を紹介したい。

◆公社賃貸住宅を「家族が集う仲良しキッチン」に

 公社賃貸住宅の管理、県民の住まいに関する疑問に答える「ぐんま住まいの相談センター」の運営などを行なっている群馬県住宅供給公社(群馬県前橋市)。現在、県内の13団地で681戸の公社賃貸住宅を管理しているが、昭和40~50年代に建てられ老朽化が顕著になってきた物件で空室が出るようになった。

 「長期間にわたって公社賃貸に住まう入居者が多かったため、生活をする上で不便のない設備を備えるにとどまり、現在のニーズに合ったデザインや仕様に変更するといったことまでは行なってきませんでした。今のところ空室は全体の15%程度ですが、これから築年数を重ねるにつれ、何もしないままでは空室が増えていくという危機感を持つようになったのが2017年頃からです」と話すのは、同公社事業部の担当者。そこで、昨年9月にリノベーションプロジェクトを立ち上げた。住む人のライフステージに合わせた暮らしを真に楽しめる“プランニング”と、手づくり感があり快適な空間づくりができる“DIY”を組み合わせた手法としている。

洋室・和室+LDKの間取り〈Produced by:One's work〉

 比較的、立地条件が良いにもかかわらず空室がある、1993年築の公社賃貸住宅「レスポワール錦」(群馬県桐生市、総戸数20戸)の空き住戸(403号室)をリノベーションすることに。小さな子供を抱える子育て世帯にやさしい住まいの提案として、低コストかつ、ちょっとした工夫で住み心地がアップするリノベーションプランを考えた。

リノベーション前のキッチン。ダイニングに背を向ける仕様のため、家族とのコミュニケーションが取りにくかった
リノベーション後のキッチン。対面カウンターを設けたことで、家族のコミュニケーションが生まれやすくなる。有孔ボードでキッチン雑貨も「見せる収納」に〈Photographer 宮澤朋依〉

 間取り変更はなし(65平方メートル、洋室・和室+LDK)。壁と天井を塗り替える程度にとどめ、水回りも従前のまま。ただし、キッチンには対面カウンターを設置し、家族が自然と集まりコミュニケーションが生まれる場所を目指した。
 玄関には大きな黒板を塗装し、「ただいまー」と帰る子供をメッセージでお出迎え。黒板横に設置した有孔ボードには、子供のランドセルや帽子などを吊るせるように。洋室にはデスクを備え付け、親子で会話をしながら子供のやる気を育む学習スペースとした。
 キッチン、玄関、洋室のいずれにも有孔ボードを活用。好みのインテリアや目的に合わせて色を選べるようにし、飾る楽しみに加え「見せる収納」となるよう工夫している。

リノベーション前の玄関
黒板と有孔ボードを設置。子供のバッグや小物を吊るせるスペースに変わった

 リノベーションした住戸をモデルルームとし、お披露目会を実施しようということになった。モデルルームが完成したのが今年2月。ところが、新型コロナウイルスの感染が広がりつつある頃だったため延期に。
 9月5・6日にようやくお披露目会が実現。想定ターゲットとする小さな子供を持つファミリー層を中心に、2日間で27組が訪れた。来場者からは、「(キッチンや玄関脇などに)フックがあったら便利だけど、賃貸だから無理だと思っていた。有孔ボードを使えば飾る楽しみもある」「玄関に有孔ボードがあると、バッグや帽子を置きっぱなしにせずすぐに引っ掛けてくれそう」といった感想が寄せられた。今後は希望者に対して引き続き内覧を実施していく予定だという。

洋室に備え付けたデスク。子供のやる気を育む学習スペースとなっている

 「同物件は駐車場代が別となりますが、賃料は従前と変えていません。十数万円でできるちょっとしたリノベーションとはいえ、印象がガラリと変わった部屋を見て驚く方も多かったですね。初めてのお披露目会でしたが、お客さまの反応を見て手応えを感じており、現在空室の2戸がショールーム効果で埋まることを期待しています」(同担当者)。

 今回の反響を踏まえ、同公社が所有する他の賃貸住宅にも広げていく方針。地元・建築関係の大学と協力し、学生のアイディアを取り入れたコラボリノベプロジェクトも検討していくという。

◆◆◆◆◆

 前編・後編と、リノベーションの事例を紹介してきた。今や多くの事業者が手掛けるリノベーション。競争激化が予想されるリノベ業界で、選ばれる事業者として生き残るためには、やはり“顧客目線”“ブレないコンセプトづくり”が重要となるのではないだろうか。
 ただきれいにするだけでなく、ターゲットとなる住まい手の立場になり、どうしたら快適で暮らしやすくなるのかを考えて取り組んでいる姿勢は、必ずや顧客に伝わるものだと思いたい。(I)

【関連記事】
「顧客目線」のリノベーション(前編)(2020/10/7)

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