“ママ”に嬉しい団地リノベ
「子供が成長して部屋が手狭になった」「収納スペースがもっと欲しい」「親子でのコミュニケーションが足りない」など、子育て世代の住まいに関する悩みは多い。しかし、広い家に住み替えるにはコストがかかるし、物件によっては大幅なリノベーションが難しいケースもある。今回は、そうした悩みを解消しつつ、「ママ目線」でのリノベーションで新たに魅力ある空間に再生した事例を紹介したい。
◆ユーザーの生の声を生かした「ママの好きないい団地」
横浜市を中心に、不動産の売買・賃貸仲介、建築・飲食事業等を全55拠点で展開する(株)三春情報センター(横浜市港南区、代表取締役社長:春木 磨碑露氏)。10年ほど前から団地リノベーションに注力するようになり、2015年9月、リノベプロジェクト「野庭団地 ママの好きないい団地プロジェクト」を立ち上げた。
野庭団地(横浜市港南区)は、約2,500世帯が住まう築40年超の大型分譲団地。同社の19年の実績として、同団地での不動産取引が40件、リフォーム・リノベーション施工件数が77件、合計117件の取り扱いがあり、同団地は主要な商圏エリアの一つに挙げられる。敷地内には、公園や銀行、ショッピングセンター、保育園・小学校などがあり、子育てをするには良好な環境。近隣には、賃貸の市営住宅(約1,500戸)もあることから、団地への住み替えを検討している世帯が「団地購入+リノベーション」を希望するケースも少なくないという。
「近年のリノベーションは、機能面の充実やおしゃれな空間、暮らしに合った自由設計などの提案が当たり前になりつつあります。プロジェクトでは、家の中に長くいて家事や子育てで一番家を活用する“ママ”に焦点を当て、子育て中の女性にとっての暮らしやすい家とは何かを考えることとしました」(同社執行役員建築事業部統括・斎藤 真氏)。
プロジェクトのテーマは、「ママの好きないい団地“3つのいい”(いい環境×いいデザイン×いい機能)」に決定。団地住まいをしている子育て世代(30~50歳代)4組に、住まいに対する不満や悩み、要望についてヒアリングし、リノベプランに反映させることにした。
ヒアリングでは、「湿気やカビの発生、結露を何とかしたい」「収納をもっと増やしたい」「子育て中は和室があると便利」「家事動線を良くしたい」といった意見が集まった。それらを踏まえ、風通しの良い間取りとし、キッチンと洗面室の回遊性を高めて移動距離を短く、家事動線の効率化を目指した。また、収納不足を解消するために、キッチン・リビング・洗面室にそれぞれ収納スペースを用意。デザインについては3パターンのスタイルを作成、社員や顧客に投票してもらい、獲得数の1番多かった「ブルックリン・カフェ」スタイルを採用した。
団地の空室1戸を(専有面積67平方メートル)をショールームとして施工。現場に定点カメラを設置し、3DKから2LDKに間取り変更・リノベーションする過程を同社ホームページやFacebookで随時発信することで、古い団地がどのように生まれ変わるのかを見ることができるようにした。
16年2月に開催したショールーム見学会には、約150人が来場。「洗面所、キッチンへの家事動線が楽で、忙しい朝に便利」「採光の取りづらい和室が明るい」「リビングに大容量の収納は助かる」「ここまで変わるなんて驚いた」などの反響があったという。
「団地リノベーションの費用は、内容によって多少異なりますが、1住戸当たりおよそ500万~1,000万円程度。物件価格が1,000万円前後として、合計で約1,500万~2,000万円になります。団地周辺の新築一戸建てだと4,000万円前後、分譲マンションで3,000万円程度の価格ですから、団地リノベーションを“お得”と考える方も多かったようです」(同氏)。
1ヵ月間で3件の契約を受注。ショールーム戦略は好評を得た。以降、17・18・19年と異なるリノベプランでショールームを展開。今年は、リノベプランと家具をセットにした「オーシャン・ヴィンテージ」をパッケージプランとして商品化した。
「過去のリノベーション事例を基に社内で検討し、海辺を思わせる西海岸スタイルのプランとしました。さまざまな団地でリノベーションを実施し、“オーシャン・ヴィンテージ=三春のリノベ”と認識されるよう、ブランディング戦略を推進していきたいと考えています」(同氏)。
後編では、家族のために低コストでリノベーションした事例を紹介したい(後編に続く)。