記者の目 / 開発・分譲

2008/11/18

マンション不況こそ“追い風”

野村不アーバン、マンション買取再販事業を加速

 分譲マンション市場の低迷が続いている。供給戸数は激減し、契約率は60%台を行き来する。  一方、投資家向けマンションの販売も、景気の低迷と優良物件の減少により、これまた元気がない。だが、こうした「不況風」を「追い風」にしている企業が、野村不動産アーバンネット(株)だ。ファンド向けに開発され、行き場を失ったマンションを1棟買いし、一般ユーザーと個人投資家向けに1戸単位で販売する買取再販事業がそれである。  同事業第1弾となる「アーバンファースト錦糸町」(東京都墨田区、総戸数48戸)から、好調の秘密を探ってみた。

「アーバンファースト錦糸町」。外観はコンクリート打ち放しとタイル貼りを組み合わせたモダンなデザイン
「アーバンファースト錦糸町」。外観はコンクリート打ち放しとタイル貼りを組み合わせたモダンなデザイン
R形状にガラスブロックがあしらわれたロビー。ファンド向け物件だが、デザインは凝っている
R形状にガラスブロックがあしらわれたロビー。ファンド向け物件だが、デザインは凝っている
エレベーターホールも凝った意匠
エレベーターホールも凝った意匠
主として投資家向けに販売される1Kタイプの室内。平均22平方メートルで、1人暮らしなら十分な広さ
主として投資家向けに販売される1Kタイプの室内。平均22平方メートルで、1人暮らしなら十分な広さ
ワンルームだけあって水回りはコンパクトだが、パントリーとしても使える収納付き
ワンルームだけあって水回りはコンパクトだが、パントリーとしても使える収納付き
専有面積50平方メートルを超える2LDKの室内。ワンルーム2スパン分を使った間取りで、LDKは約11畳を確保
専有面積50平方メートルを超える2LDKの室内。ワンルーム2スパン分を使った間取りで、LDKは約11畳を確保
主寝室も8畳大を確保し、ダブルベッドでも十分な広さ
主寝室も8畳大を確保し、ダブルベッドでも十分な広さ
実需用としての販売と、投資家向け販売・賃貸客付けが並行して進む。案内看板も仲良く並ぶ
実需用としての販売と、投資家向け販売・賃貸客付けが並行して進む。案内看板も仲良く並ぶ

ファンド向け物件を取得、1戸ごとに販売

 マンションが売れなくなる度に浮上してくるのが、「買取再販ビジネス」である。売れ残ったマンションを格安で仕入れ、利益を上乗せしユーザーに転売するこのビジネス。最近では「アウトレットマンション」なる呼び方まで登場し、(良いか悪いかは別として)市場での存在感を増している。

 だが、同社のビジネスモデルは、これら一般的な買取り業者とは、多少異なる。

 まず、買取り対象をディベロッパーがファンド向けに開発した物件、それも一棟買いに限定していること。サブプライムローン問題によって、ファンド事業者の多くが撤退、もしくは物件取得を手控えているなか、ファンド向けに開発されたマンションの完成在庫は急増しており、ディベロッパーにとっては頭の痛い問題。体力的問題から処分を急ぎたいディベロッパー側の事情と、一棟買いにより仕入れ値を抑え、確実に売れる商品を求める販売会社側の狙いがマッチした。

 そして、販売のターゲットを自己使用が目的の一般ユーザーと、運用目的の個人投資家という2本立てとしたことだ。
 土地取得費と建築費の高騰が販売価格に乗せられた「新価格」の登場で、都心部の分譲マンションは価格が3割近く上がったうえ、供給戸数も減っている。つまりは、一般的な会社員は、都心部でマンションを取得することが難しい状況だ。
 一方、投資用ワンルームマンションも、分譲マンションと同じ理由から供給戸数は激減。さらに販売価格が上昇したことで、利回りは低くなり、魅力的な物件が出回らない状況だ。

 つまり、販売価格と商品企画がユーザーニーズにさえマッチさえすれば、実需ユーザーからも、投資家からも“引く手あまた”となることが保証されているというわけだ。

物件仕様は標準的 投資家向け住戸にはサブリースも

 第1弾となる「アーバンファースト錦糸町」は、JR総武線「錦糸町」駅徒歩8分に立地する、地上8階建て・総戸数48戸のマンション。某上場ディベロッパーから9月末に取得した。取得価格は伏せておくが、当初価格から相当のディスカウントが行なわれたようだ。同社は、登記を区分所有用に分割。11月から販売を行なっている。

 建設地は、駅北口の再開発ゾーンを抜けた、賃貸マンションや小さな工場が林立するエリアで、雑然とした雰囲気はあるものの、広い歩道を介し駅へのアクセスは良好。総武線のガードからも距離があり、比較的静かだ。

 外観は、都心型のコンパクトマンションによく見られる、コンクリート打ち放しとタイルによるもの。バルコニーは、パンチングメタルと曇りガラスにより、デザイン性とプライバシーを両立している。
 また、エントランスロビーも、モザイクタイルやガラスブロックを使ったデザイン性の高い空間としており、20~30代のユーザーにウケそうだ。再販にあたっては、外観・住戸の設備機器等とも一切手を加えていない。

 住戸は、2~5階が、専有面積22~23平方メートルのワンルーム・1K、6~8階が同51~59平方メートルの1LDK~2LDKで、5階以下のワンルーム36戸を投資家向け物件として、残りを実需向けとして一般ユーザーに販売していく。

 投資家向け住戸の販売価格は、1,750万円~1,950万円。坪単価で260万円。想定賃料は9万6,000円~10万4,000円としており、そこからはじき出される表面利回りは6.5%といったところ。都内の新築ワンルームマンションの多くが、販売価格の上昇で表面利回り4%台に低迷していることから考えると、この利回りは魅力だ。しかも、想定賃料は、近隣の新築ワンルーム家賃と比べ、1万円以上安い(これら競合物件も、この賃料では客がつかないようで、募集広告にはフリーレントや礼金免除が謳われている…)。

 なお、きちんと運用できるかどうか心配な投資家も多いことから、賃貸管理会社大手の(株)タイセイ・ハウジーと業務提携。購入時に、一括借り上げシステム、業務管理システム、入居募集システムをパッケージで提案する。サブリース手数料は10%に設定。その分利回りは下がるが、それでも周辺物件より1ポイント以上高い利回りを実現している。

 一方、実需向けの住戸は、販売価格3,490万円~3,810万円。坪単価は210万円に抑えられている。同じ錦糸町駅圏で某大手ディベロッパーが分譲する「ブランド」マンションは、坪単価260万円。ブランド力があるとはいえ20%以上も高いのだから、まず価格競争力はある。

 住戸・設備面でも、ワンルーム2戸分のワイドスパンで、廊下の少ないスクエアな間取りが使いやすく、設備機器の仕様も、さすがに最新の分譲マンションと比べると見劣りするものの、タイル貼りの玄関、浴室乾燥機、ウォシュレット、カラーモニターのインターフォンなどまずまずの水準だ。

混迷するマンション市場の「調整弁」となるか

 では、反響はどうか。販売を手がける同社プロジェクト営業本部住宅販売部の山口正彦氏はこう語る。
 「11月1日の販売開始から2週間で、来場者は100組を超えました。投資向けを前面に出しているので、お客様の6割が投資目的の方。すでに、ワンルームが3分の1の12戸、実需用が5戸販売済みです」。
 記者が現地を取材したのは、平日の夕方。にもかかわらず、来場者が何組も訪れていたことからも注目度の高さがうかがえる。

 一部の業界関係者は、こうしたファンド向け物件が分譲市場に流れてくることを、警戒する向きがある。価格競争力のある物件が大量に供給されれば、ダンピング合戦となり、市場が崩壊するという論理だ。
 だが記者は、むしろ、こうした物件が市場の調整弁になることを期待している。商品企画とユーザーが望む価格がマッチングして初めて売れるのだから、売れないマンションは損切りしてでも価格を下げるか、さもなくば価格に見合った商品企画で勝負するしかないからだ。

 こうした買取再販マンションは、ドラスティックに商品特性をリサーチし、それに見合った適正価格をはじき出す。だから売れる。この現実を無視していては、いつまで経ってもマンション市場の正常化はありえない。ディベロッパーは、それを理解すべき時がきている。(J)

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