記者の目 / 開発・分譲

2009/2/26

新しい「社員寮」のカタチ

リビタがリノベーションで提案

 企業の福利厚生に対する考えの変化で、いわゆる「社員寮」は激減してきた。しかし、この社員寮を新たな社員コミュニティの手段として見直す動きが出てきている。もちろん、そのためには「帰って、食事して、寝るだけ」の機能しか持たない、かつての社員寮では意味を成さない。いま企業が求めているのは、社員同士の“コミュニティの場”としての寮である。その新たな寮のカタチをリノベーションで提案したのが、(株)リビタ。第1号物件を見学してきた。

「川崎リノベーションプロジェクト」外観。エントランス周りを改修したほかは、再塗装を施した程度
「川崎リノベーションプロジェクト」外観。エントランス周りを改修したほかは、再塗装を施した程度
リノベーション前の建物外観。直近は老人ホームとして利用されていた
リノベーション前の建物外観。直近は老人ホームとして利用されていた
かつての食堂を改修したカフェラウンジ。食事時だけでなく、日常的に居住者同士がコミュニケーションできるスペースとして提案している
かつての食堂を改修したカフェラウンジ。食事時だけでなく、日常的に居住者同士がコミュニケーションできるスペースとして提案している
オール電化となった厨房。対面式のカウンターは、テーブルと椅子が設置され、調理人と居住者がコミュニケーションしながら食事を採れる
オール電化となった厨房。対面式のカウンターは、テーブルと椅子が設置され、調理人と居住者がコミュニケーションしながら食事を採れる
カフェラウンジに隣接する「ライブラリー」コーナー。LANを引きこんだカウンターや書棚を設置
カフェラウンジに隣接する「ライブラリー」コーナー。LANを引きこんだカウンターや書棚を設置
ワーキングスペースは、仕事場というより、居住者同士がワイワイガヤガヤしながらブレインストーミングする場として提供。マーカーで直に自由に書きこめるデスクを設置
ワーキングスペースは、仕事場というより、居住者同士がワイワイガヤガヤしながらブレインストーミングする場として提供。マーカーで直に自由に書きこめるデスクを設置
各階に設置されるミニキッチンとランドリー、シャワーブース。ここにもカウンターが設置されており、調理・洗濯の合間におしゃべりができるよう配慮
各階に設置されるミニキッチンとランドリー、シャワーブース。ここにもカウンターが設置されており、調理・洗濯の合間におしゃべりができるよう配慮
居室内部。建具や収納は塗り直ししているものの、従前のものをほぼそのまま使用している
居室内部。建具や収納は塗り直ししているものの、従前のものをほぼそのまま使用している

集合賃貸住宅のノウハウをいかして改修

 リビタは、これまでにリノベーションによる新しい価値観を持った住まいの提案、そして投資家に対する新たな収益物件の提案を展開。分譲物件1棟まるごとをリノベーションした10棟をはじめ、賃貸住戸をあわせて約700戸のリノベーションを手がけてきた。

 同社はその形態の1つとして、独身寮や中古マンションを集合賃貸住宅にリノベーションした「シェアプレイス」を提案している。
 シェアプレイスとは、「他人と共存する家」をテーマに、コミュニティスペースを広く取り、「国籍、文化、世代、性別の枠を超えたボーダレスコミュニティのある暮らし」をめざしたもの。今回発表した「川崎リノベーションプロジェクト」(川崎市幸区)でも、そのノウハウをいかしている。

 物件所在地は、JR「川崎」駅から徒歩8分の住宅街。もともと企業の社員寮として1992年に建設されたもので、2007年の取得時点では老人ホームとして使用されていた、鉄筋コンクリート造、地上5階建て・延床面積約1,700平方メートルの建物だ。
 「取得当初から、シェアプレイスへのリノベーション、新しい社員寮としての提案の両面で検討してきましたが、大手メーカーの会社が多い川崎というロケーションであることから、1社で使用する寄宿舎タイプでの提案としました」とは、同社ストラテジック・ソリューションチーム・シニアコンサルタントの藤原恭宏氏の弁。

 なお現在、建物は同社が保有し企業に賃貸し、運営は企業自体に行なってもらう。最終的には、ハードは投資家に売却する予定だという。

建物内の至る所にコミュニティスペースを

 リビタは東京電力グループ傘下の企業であり、リノベーションにあたっても、オール電化の導入を基本としている。
 今回のプロジェクトも、住人に料理を作るための厨房はオール電化(ただし、IHヒータではなく、従来型のラジエントヒータ)。大浴場その他への給湯設備はエコキュートを使用している。これらにより、従来の厨房に比べてランニングコストは年間で約46万円、給湯費も約121万円ダウンさせることができ、賃借する企業の運営コスト抑制につなげている。もちろん、LED照明等も含めた総合的な環境対策にも寄与する(そもそも、既存建物をそのまま使うリノベーション自体、環境にやさしい)。
 
 最大の特徴は、建物内の至るところに設置された、コミュニティスペースの数々である。これらのスペースは、住民同士のコミュニティ醸成の場として機能するのはもちろんだが、広さに限りのある居室を補うための、憩いの空間としても考えられている。

 まず、従来の食堂室は、カフェラウンジとして改修。単に食事を採るためのスペースでなく、日常的なコミュニティスペースとして提案している。そのカフェラウンジには、パソコン用のLAN配線を引き込んだデスクが設置されたライブラリーが隣接。居住者同士がコミュニケーションを図ったり、ときには1人で仕事をしたりと自由に使えるようにしている。

 また、厨房の目前にもカウンターが設けられており、少人数であれば、調理風景を見ながら、調理者と語らいながら食事が楽しめる。各階には、共用の冷蔵庫・洗濯機・ミニキッチンが設置されたスペースがあるが、ここにもちょっとしたカウンターが設けてある。洗濯や料理をしながら、住人同士が「ながらコミュニケーション」をとることを想定してのものだ。

 居室は全55室。専有部の建具や扉は、ほぼ従前のものを再利用。色づかいやカーペット・クロスを今風に整えているだけで、シンプルそのものだ。ちなみに、各居室の面積は12~14平方メートルと狭い。
 もっとも、トイレ・浴室は共用で、地下のトランクルーム、下駄箱、ロッカーなども1人1スペースが提供されるため、実質的な居住スペースは、ワンルームマンション並みといえる。共用スペースの充実を考えれば、ワンルームを上回るゆとりは感じられるはずだ。

「ヨコのつながり」を見直す企業

 なお、想定賃料は非開示だったが、周辺エリアのワンルームマンションより若干高めの設定だという。今回の改修費のうち約6割は、オール電化等の設備導入と更新に費やされており、最終的にはランニングコストの削減として企業に還ってくる。同社も「オペレーションコストが下がることで、トータルで見ると企業側にコストメリットが出る」としている。

 以前記者は、ある寮を運営する会社の役員から「いま、社員寮が見直されている」という話を聞いたことがある。
 「当社に運営をお願いにいらっしゃる会社の役員の方は、こう言っていました。『今の若い社員は、同じ部署内の社員同志はかろうじて交流があるけれど、違う部署の社員や先輩・後輩の交流は全くないので、社内が活性化しないし、新たなビジネスやアイディアも出てこない。われわれの時代は、社員寮で一緒だった仲間同士でいろんなことを話し合い、そこからいろんなアイディアが出てきたものだ』と―」。

 確かに、今の若い人達は、インターネット等を通じたバーチャルのコミュニケーション能力には長けているが、社内でのコミュニケーションにはあまり積極的ではない。「仕事は仕事、遊びは遊び」はいいけれども、「仕事が遊びのように楽しければ」それにこしたことはないだろう。何せ、起きている時間の半分以上は、仕事に費やしているのだから。

 そういった意味で、同社の「同じ釜の飯を食わせる」仕掛けは、企業ニーズにもマッチするはずだ。果たしてこの提案、イマドキの若い社員たちにどう受け入れられるだろうか。(J)

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