「環境価値」「環境不動産」とは
以前、本コーナーでは、「超長期のマンションってどんなマンション???」(2009年5月8日配信)と題し、「ザ・ライオンズたまプラーザ美しが丘」(横浜市青葉区、総戸数39戸、売主:(株)大京)を紹介した。 当時、まだ同物件は販売開始前。そのため、記事はモデルルームを見学した体験レポートとして書かれた。そして記事中には、「かなり強気の値付け。売行きに注目したい(一部中略)」といった取材記者のコメントも見られる。同物件は価格設定も含め、業界や業界紙記者の間で当時大いに話題になったのだ。 はたしてその後、同物件の売行きはどうだったのか、また、実際にどのような試みがされているのか、竣工した建物をご紹介することで、改めて報告させていただきたい。
坪300万。それでも約3ヵ月で完売
「200年住宅」をコンセプトに、開発が進められた「ザ・ライオンズたまプラーザ美しが丘」。
国土交通省が建設工事費等の一部を補助する「超長期住宅先導的モデル事業」に採択され、話題となった物件だ。
同物件の概要については、本記事文末のリンクからご覧いただきたいが、簡単に説明すると、「学校や警察署並みの頑丈なハードに加え、最新技術により自然を上手に取り入れて、快適に暮らす古来からの知恵をより採り入れた住まい」といえるのではないだろうか。
田園都市線「たまプラーザ」駅・「あざみ野」駅徒歩圏という立地の希少性もあって、モデルルームオープンを記念した記者会見の時点(2009年5月開催)では、発売前にもかかわらず、39戸の販売に対し1,000件の反響を獲得していた。
ちなみに、同駅周辺の新築マンションの平均坪単価は200万円前後。それが売出価格で同物件は300万円を超えていたため、「強気」とささやかれたわけだが、それが販売開始後はあれよあれよと売れ続け、39戸すべてがわずか数ヵ月で完売。
結局、すべての住戸がフリープラン対応となったという。そのため、当初販売価格は5,000万~1億2,000万円だったが、実際の契約価格はそれより大きくアップすることになった。
あるとやっぱりいい、水と緑、光と風
同物件ではマンション業界で初となる試みが多く見られる。
右の写真にあるように、打ち水代わりの「ミスト散布」、各住戸の玄関前に備え付けられたグリーンカーテン、風を通す玄関ドア、余計な光を遮断する外付けブラインドや遮射ガラス等々である。
自然の力を採り入れた快適な暮らしの提案は、マンション開発においては(株)リブラン(東京都板橋区、代表取締役:鈴木雄二氏)がパイオニアだ。
リブランも常々、こうした水や緑、風といった自然の良さは、実際に住んでみて体感しないとなかなか理解してもらえないといっているが、まさにそのとおり。
同物件も、緑はまだこれから成長する段階であったが、散布されるミストや、廊下などの共用部に流れる風を肌で感じて、改めてそう実感した。
ちなみに同物件には、各家庭の家電ごとの電力使用量やCO2排出量を見える化する「電力計モニター」のほか、機械式駐車場の全33区画分に電気自動車充電用コンセントなども設置されている。
もちろん建物そのものが長期使用に耐えうるよう、高強度コンクリートの非破壊検査を実施。極めて稀(数百年に1度程度)に発生する地震による力の1.25倍に対して、倒壊・崩壊しない構造であることが確認された。
なお、専有部、共用部とも5年毎に定期点検を実施。居住者と大京グループの間で、維持管理に関する履歴情報を引き継いでいくという。
まさにハード・ソフトともに、モデル事業に選ばれるにふさわしい磐石なマンションができあがった。
環境に関心の高い入居者が集合
計画にあたっては、日本大学理工学部環境・情報研究室の協力のもと、住戸内の風の流れや、建物周辺での温度分布など、温熱環境や通風環境を予測した。
入居後も、引き続き、同研究室の気流解析ソフトを用いて測定等が行なわれる予定だそうだが、そのモニター募集に、なんと購入者の半数以上が応募したそうだ。
なお、大手不動産会社8社(MAJOR7)が本年3月に共同実施した意識調査結果によると、エンドユーザーがマンションの施設・設備で希望するものとして、上位10位以内に、「長寿命・高耐久住宅」「外断熱住宅」「太陽光発電システム」「全館省エネ空調」「屋上緑化」「LED屋外照明」がランクインしている。
三井不動産レジデンシャル(株)が2009年10月に発表した住宅購入検討者に実施したアンケート調査結果でも、住まいに「環境対応型設備機器を導入したい」との回答が97%、住宅購入時に「環境性の高さは検討ポイントとなる」「環境性の高い住宅に魅力を感じる」との回答はいずれも8割超となった。なお、多少価格がプラスになっても環境性の高い住宅を選ぶ」との回答は約20%。「価格がそれほど変わらなければ選ぶ」を含めると、約98%が環境性の高い住宅を選ぶと回答している
いまや、ユーザーへの訴求効果という意味でも、環境対応は必須、ということができそうだ。
環境価値、環境不動産ってなに?
現在、国土交通省は、「環境価値を重視した不動産市場のあり方研究会」を平成20年12月より開催。環境不動産の価値を評価・分析する方策の検討等を進めている。
一口に「環境価値」「環境不動産」といっても、それが高耐久性や省エネ性能といったことを指すのか、また、公園・緑地、景観などの広範な環境も入るのかなど、現状では、その定義、評価軸がない。
また、例えば「南ひな段の開発分譲地」を、ユーザーは日当たりがよくていい土地だ、と感じるかもしれないが、建築する側としては、地盤に不安があったり、擁壁工事を行なわなければならなかったりと、もろもろと心配の種が多いように、環境価値、環境不動産に対しても、ユーザーサイド、開発サイド、投資家サイドでは、それぞれ評価が異なる。
そのため、同研究会では、まずは「環境価値」の評価軸を整理するとともに、環境価値を評価する手法や市場における経済評価およびその手法、各評価の根拠となるデータの整備などについて検討中だ。
同研究会のとりまとめは2010年3月中に発表される予定だが、今後、同物件のような環境不動産といえるものが、どのように評価され普及するのか、また、流通時にはどのような価格となるのか、同研究会のとりまとめや提言とともに、注目したい。(ひ)
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