記者の目 / 開発・分譲

2010/4/22

「ブランド立地」をどう料理するか?(8)

総合地所「ルネヴィレッジ成城」の場合

 首都圏有数の高級住宅街である「成城」。なかでも、番地に「成城」と入る立地は、希少価値が高い。そんな「成城アドレス」が生きる住宅として計画されたのが、総合地所(株)の「ルネヴィレッジ成城」(東京都世田谷区、総戸数9戸)だ。厳しい建築規制と立地条件をクリアし、立地イメージを最大限高める目的で計画されたその建物は、「マンション」というイメージとは大いに異なる、個性的な建物だ。

「ルネヴィレッジ成城」住戸の1つ。建物高さ一杯にとられたガラスウォールが特徴的だ。敷地と建物の形状から、全景を写真に収めるのは不可能なのでご勘弁願いたい
「ルネヴィレッジ成城」住戸の1つ。建物高さ一杯にとられたガラスウォールが特徴的だ。敷地と建物の形状から、全景を写真に収めるのは不可能なのでご勘弁願いたい
同物件の平面図。前面道路から奥まり、周囲を戸建住宅に囲まれている。住戸それぞれが壁を共有している形状は「タウンハウス」だが、その並びは不規則。いわゆる「長屋」のイメージは全くない
同物件の平面図。前面道路から奥まり、周囲を戸建住宅に囲まれている。住戸それぞれが壁を共有している形状は「タウンハウス」だが、その並びは不規則。いわゆる「長屋」のイメージは全くない
現地は旗竿地で、前面道路からエントランスまでは約20mほどある。手前のフェンス部分にオートロックが設けられ、建物全体がセキュリティエリアとなる
現地は旗竿地で、前面道路からエントランスまでは約20mほどある。手前のフェンス部分にオートロックが設けられ、建物全体がセキュリティエリアとなる
住戸の地下部分は、浴室・洗面を設置。ドライエリアを通じて吹き抜けから光が差し込んでくる
住戸の地下部分は、浴室・洗面を設置。ドライエリアを通じて吹き抜けから光が差し込んでくる
室内は、いたってプレーン。壁は塗装仕上げ、1階の床はモルタルだ。玄関を入るといきなり居室であり、スケルトン階段のため圧迫感はあまり感じない
室内は、いたってプレーン。壁は塗装仕上げ、1階の床はモルタルだ。玄関を入るといきなり居室であり、スケルトン階段のため圧迫感はあまり感じない
屋上部のペントハウス。その配置から、複雑な住戸配置がわかる
屋上部のペントハウス。その配置から、複雑な住戸配置がわかる
ガラスエリアが多く、室内は明るい。外部の風景に視線が抜けるため、狭さを感じない
ガラスエリアが多く、室内は明るい。外部の風景に視線が抜けるため、狭さを感じない
同社ソリューション事業部・井上理晴氏が「一番好き」と推薦してくれた窓。まるで、庭木を眺めるためにだけ作られたかのような窓である
同社ソリューション事業部・井上理晴氏が「一番好き」と推薦してくれた窓。まるで、庭木を眺めるためにだけ作られたかのような窓である

希少価値高い「成城アドレス」

 同物件は、小田急線「成城学園前」駅徒歩5分、閑静な住宅街の一角にある、広さ約150坪の敷地に建つ。元々個人住宅が建っていたもので、同駅北口に広がるいわゆる「成城の高級住宅街」からは若干外れはするが、希少価値の高い「成城アドレス」。周辺も、200坪クラスの敷地を持つ邸宅が立ち並ぶ。かつては、小田急線が近くを通過していたが、地下化されたことで、より静かなまちとなっている。

 ただ、マンション用地としては、なかなか難しい一面も抱えている。第1種低層住居専用地域のため、建ぺい率40%、容積率80%、高さ10m以下に制限され、周辺の住宅への影響を考慮すれば、威圧感を与えるような建物は建てづらい。また、建設地は、周辺を戸建住宅に囲まれ、前面道路とは幅3メートル弱、長さ20mほどの通路で結ばれる、俗に言う「旗竿地」だ。

 このような条件下で、同社はどのようなマンションを建てたのか?

パズルのように並ぶ「タウンハウス」

 同社が提案した建物、それは「タウン(テラス)ハウス」だ。タウンハウスは、戸建てとほぼ同じスタイルの多層型の建物を連ねた「現代版長屋」で、マンションと戸建ての合いの子のようなものだ。
 だが、実際現地で目にした建物は、記者の頭にある「タウンハウス」とは、似ても似つかないデザインをしていた。
 純白の外壁と大きなガラスウォールを持った9つの住戸は、確かに住戸同士が「つながって」はいる。しかし、一般的なタウンハウスのようにストレート(あるいは雁行)にはつながっていない。形が微妙に違う住戸が、不規則に、まるでパズルのように並んでいる。その「どこか」は、必ず隣り合う住戸とつながってはいるが、住戸それぞれの独立性は驚くほど高い。

 「不規則に」と書いたが、実はデザイナーは計算づくだ。通常のタウンハウスでは、中住戸で3面採光以上を確保することは不可能だ。だが、住戸同士が巧妙にオフセットされていることで、すべての住戸が角住戸となり、3面採光以上を確保し、さらに住戸と住戸のズレから生まれる緩衝空間を「庭」と定義し、植栽を施すことで室内の借景ともしている。

ガラスウォール多用し、圧迫感を解消

 住戸は、3層(地下、1階、2階)がスケルトン階段で結ばれ、別にペントハウスを持つ屋上テラスが備わる。間取りは、すべて2LDK、専有面積は約65~70平方メートル。多くの住戸は、地階が浴室・洗面・ベッドルームとしているが、地上に吹き抜けたドライエリアを設け、きちんと日差しが差し込んでくる。室内はいたってプレーンで、壁は塗装仕上げ、1階床はモルタル仕上げ、バスルームはタイル仕上げと手が込んでいるが、水回りの設備機器は一般的なマンションのそれだった。

 ただし、天井一杯取られたガラスウォールをはじめ、室内各所に設けられた明かり採り窓や掃き出しサッシュのおかげで、室内は非常に明るい。「1層1室」と決して広くない室内がそれほど圧迫感を感じないのは、ガラスを通じて視線が抜けているからだ。逆にいえば、(カーテン等で隠さなければ)居室内はほとんど「丸見え」なのだが、袖壁を延長するなどして、最低限のプライバシーは確保している。ともあれ、室内に腰を据えて見える光景は、普通のマンションのそれではない。

セキュリティに関しては、「旗竿」の付け根にオートロックを設けることで、敷地全体をセキュリティエリアとしている。一般的には不利な敷地形状が、うまく生きた形だ。
 
 なお、1つだけ注釈を。この企画は、正確には100%同社のものではない。実は、某更生会社が進めてきた企画を、同社が継承したものだ。しかし、推進にあたっては承継後もデザイナーとディスカッションを繰り返し、その考えが忠実に反映されるよう、建物を作り上げてきた経緯がある。

デザイナーズ賃貸ユーザーに高評価

 価格はどうか。

 「この物件は、実際に目にしていただかないと、魅力が伝わらない」(同社ソリューション事業本部ソリューション事業部・井上理晴氏)ということで、2月末の竣工を待って販売を開始。その販売価格は5,960万円~6,580万円。坪単価にして、315万円といったところ。「マンション」と考えれば格安、「ミニ戸建て」と考えれば妥当な値付けである。

 コンセプトがかなり「尖っている」こと、駐車場が一切ないなど一般的な共同住宅とは比較にならない魅力(や欠点)があるため、「当社が得意としているファミリーマンションを求めるユーザーではなく、デザイナーズ賃貸マンションを渡り歩いてきたような、シングル・DINKSユーザーの反響が多い」(同氏)という。すでに、3戸が販売済みだ。

 「大人のまち」である成城が、この物件をどう評価するか、興味は尽きない。(J)

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【関連ニュース】
東京・成城で「全戸角住戸」のタウンハウス9戸発売/総合地所(2010/3/5)

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「ブランド立地」をどう料理するか?(2)
「ブランド立地」をどう料理するか?(3)
「ブランド立地」をどう料理するか?(4)
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