記者の目

2010/11/24

「情報のオープン化」は、中古住宅流通活性化のキーワード

 不動産流通が活発なアメリカ。  物件にかかわる情報が透明かつオープンであることがその根底にあると言えるだろう。  インターネットや新聞媒体などを通じて、エージェントもエンドユーザーもほとんど同程度の情報を得ることができる。  メディアの発達と多様化で、ユーザーの意識が高まっているなか、これからの不動産情報はどうあればいいか、アメリカの現状を垣間見つつ考えてみたい。

アメリカの不動産情報サイト「Zillow.com」。物件情報には、過去の売買履歴やサイト独自の査定(見積)価格も掲載されている。不動産エージェントの利用度も高く、顧客とこのサイトを見ながら商談することもあるという
アメリカの不動産情報サイト「Zillow.com」。物件情報には、過去の売買履歴やサイト独自の査定(見積)価格も掲載されている。不動産エージェントの利用度も高く、顧客とこのサイトを見ながら商談することもあるという
アメリカの新聞には週末になると、不動産の別刷りが挟み込まれる。紙面には、売買が成立した物件の情報がエリアごとに掲載されており、売主、買主の名前、物件の住所、成約価格が一覧となっている(コロラド州「デンバーポスト」紙より)
アメリカの新聞には週末になると、不動産の別刷りが挟み込まれる。紙面には、売買が成立した物件の情報がエリアごとに掲載されており、売主、買主の名前、物件の住所、成約価格が一覧となっている(コロラド州「デンバーポスト」紙より)

128億円の豪邸に、思わず目が釘付け

 先日、アメリカの不動産情報サイト「Zillow.com」を見ていたら、「最も高額な売り家トップ10」というコラムが掲載されており、その第1位にあげられていたのが1億5,000万ドル(1ドル85円として約128億円)の住宅だったので、思わず目が釘付けになった。  「Spelling Manor」と名付けられたその物件はカリフォルニア州ロサンゼルスにあり、部屋数が123(うちベッドルームが14部屋、バスルームが27ヵ所)ある。4.7エーカー(約2ヘクタール)の土地に建つ5万6,500スクエアフット(約5,250平方メートル)の大豪邸だ。  持ち主は、スペリング夫人で、彼女の夫は「チャーリーズエンジェル」「ビバリーヒルズ青春白書」等人気テレビドラマのプロデューサーとして有名なアーロン・スペリング氏。昨年から同額で売り出されているが、買い手がつかないにもかかわらず、いまだに価格はそのままだという。かつてのアメリカの有名な歌手・俳優のビング・クロスビーが残したその豪邸をスペリング夫妻が購入したのは1984年。物件データによれば、そこにあった建物を取り壊して、90年に新築したらしい。

過去の売り出し価格が一目瞭然

 物件情報には、過去のリスティング(売主と不動産エージェント間で媒介契約が結ばれ、エージェントが情報を登録)履歴が掲載されているため、この物件がこれまでどのような経緯をたどってきたかが垣間見える。それによると、スペリング氏はすでに2007年5月からこの家を売りに出していることがわかった。  07年といえば、まさにあの「サブプライムローン問題」がアメリカ社会にさまざまな波紋を広げていた時期だ。その時の売り出し価格は現在と同じ150億円だが、買い手がつかず同年9月に売却を中止、世情を反映してか、何と11月には6,000万ドル(約51億円)に下げてリスティングしたが、それでも買い手がつかず、翌年1月に売却を取りやめた。      しかし、ここにきてまた1億5000万ドルで売り出した、…ということは、景気が上向き住宅マーケットが堅調になってきたと考えてのことか、それともいよいよ切羽詰まって、最後の賭けに出たか…、等々といろいろ想像をめぐらしつつみていたら、もうひとつ興味深いデータを見つけた。

売却希望額とはかけ離れた独自の評価額も掲載

 「Zestimate?」というもので、これは「Zillow」サイト独自の物件見積(査定)額とでもいおうか…。  それによると、同物件の価格は6,313万3,000ドル(約53億6,600万円。数日後には6,311万7,000ドル(53億6,500万円)に下方修正)。  この見積価格については、注意書きで「これは正式な評価ではないので、これを参考にして、不動産エージェント等のプロは、独自の判断をするうえでの材料として活用してほしい」と記されている。リスティング価格(1億5,000万ドル)との乖離はものすごいが、それでも買いたいという人が出てくればそれで取引は成立するのだから、エージェントしては強気な売り手の意思を尊重した数字なのだろうか。

顧客とエージェントがサイトを見ながら商談

 「Zillow.com」は、ご存知の方も多いだろうが、06年に設立されたサイトで、全米の不動産物件情報、ローン金利情報など住宅・不動産等にかかわるさまざまな情報を提供しており、掲載物件数は約1億件、物件情報には、同サイト独自の物件価格見積、物件取引履歴等も記載されているため、今では不動産の売り手、買い手、貸し手、借り手に限らず、不動産エージェント、モーゲージブローカー等も営業ツールとして利用していると聞く。スマートフォンでも見られるため、エンドユーザーと不動産エージェントが離れた場所でともに同サイトを参考にしながら商談を進めていくということも珍しくないようだ。

 それにしても、過去のリスティング履歴といい、売り主(エージェント)の意向とはかけ離れたあくまで客観的な価格見積といい、一般ユーザーからプロまでが閲覧するインターネットサイトにここまでの情報がオープンになっているというのは、日本では考えられないことだ。

週末の新聞には、地域の物件成約情報が掲載

 不動産情報公開に関して日米の違いの大きさを感じることはほかにもある。  アメリカに行くと、週末の新聞に「不動産(REAL ESTATE)」の別刷りが挟み込まれてくるのをみたことがある方が多いだろう。 その紙面には、その前の週にその地域で取引が成立した住宅の住所、売り手・買い手の氏名、制約価格が一覧表になって掲載されている。住所も番地まで記載されているから、近くに住んでいる人がみれば物件は特定できる。  だから、読者は自分の近隣の住宅が、いくらで、誰から誰に売れたかを知ることができるし、これから家を売ろうと考えている人には値付けの参考になる。  日本では考えられないことなので、初めて見たときには驚愕し、こんな記事が掲載されたら嫌がる人もいるのでは?とエージェントに聞いたら、逆に「なぜ?」と問い返されたことがある。アメリカでは当たり前のことなのだ。

 この売買情報を新聞社はどうやって手に入れるのか。
 これも聞いてみたら、簡単なことであった。
 アメリカのエージェントは、自分がリスティングエージェント(元付け)となった物件の交渉が成立すると、契約書と買主から預かった頭金(小切手)をタイトルカンパニーに渡す。小切手の宛名(受取人)はタイトルカンパニーになっており、その頭金はエスクロウ(第3者預託機関)に振り込まれ、銀行ローンの審査等が通ると正式に契約成立となって、そこからエージェントに手数料が支払われ、売主に代金が支払われるという手順だ。
 タイトルカンパニーは民間会社だが州の免許制で、エージェントから報告を受けた成約情報はカウンティ(郡)の役所にすべて届けなければならない。
 よってカウンティにはその地域の取引情報がすべて集積され、その情報は役所の窓口で申請すれば誰でも見ることができる。
 新聞社はその情報を入手して紙面に掲載しているわけだ。

 さらにいえば、そこから各エージェントの手数料収入、仲介取扱高もわかるわけで、NAR(全米リアルター協会)の会員誌「REALTOR」には毎年、全米売上トップ100のエージェント名やオフィス名、金額が掲載されている。

情報がオープンだからこそ、ユーザーの判断もスピーディに

 アメリカの住宅売買は圧倒的に既存(中古)住宅の流通が占めており、アメリカ人は一生に7~8回住み替えるといわれる。その根底にあるのは、住宅売買に関する情報がこのように誰にでもオープンになっているからといえる。  家を買う場合、売る場合、ユーザーは不動産会社などの専門家に頼む前に、自分でもいろいろと調べたり知識を習得したりしたいものだ。  自分と同程度の収入の○○さんが買ったあの家はいくらだったのか、隣の人は家をいくらで売って出て行ったのか、近所で目をつけている家は過去いくらで取引されたのか…などなど。これらを自分で手軽に調べることができれば、住宅の売買を決断するまでの過程が労力的にも時間的にも短縮されると言えよう。

変わる不動産の価値観。情報のあり方も…

 日本でも、第2次大戦後長く続いた「土地神話」という呪縛がなくなり、今、不動産は所有から利用の時代に確実に移行してきている。  若年層は、住まいに関して多様な考え方、価値観を持ち、世の中にあふれる情報の中から必要なものを選別し、さまざまな形で情報をやり取りしながら、自分のライフスタイル、好みに合った住宅を探すようになってきた。  そういう人々を「ユーザー」「お客さま」として迎えていく不動産マーケット、そして不動産業界は、これまでのような閉鎖的な情報流通を続けていって、果たして世の中に受け入れられるのであろうか。  アメリカの方式がすべて日本にとってベストなあり方かどうかは残念ながら確信できないが、プロである業者と、いわば素人とも言える消費者が向かい合うとき、消費者の持つ「不公平感」「不安感」「不信感」を取り除く、あるいは弱めるためにも、「オープンである」ということは不可欠な要素ではないだろうか。  フローからストック重視の時代と言われ、供給者は住宅の質向上への取組みを活発化している。合わせて、既存住宅市場を活性化するために、不動産流通業界も「情報のオープン化」を重要テーマととらえ、早急に取り組むべきではないかと考える。(yn)

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