「横プリ」跡地の巨大マンション「ブリリアシティ横浜磯子」
2012年が明け、マンション戦線も再び動き出した。昨年は、東日本大震災に翻弄され続けたマンション市場だが、今年は年明けから注目物件が続々と販売開始となる。その中のひとつ、東京建物(株)など5社JVによる「ブリリアシティ横浜磯子」(横浜市磯子区、総戸数1,230戸)を紹介したい。老舗ホテル跡地の再開発である同物件は、その歴史と遺産を最大限活用するだけでなく、震災後の「売れるマンション」の要件を、可能な限り盛り込んだ意欲作。今年上半期の市場を占ううえでも、見逃せない物件だ。







過去たったの6例、「都市計画提案制度」で成功
簡単に、同物件の概要をお伝えしたい。最寄りは、JR根岸線「磯子」駅。そこから徒歩4分ほど、小高い丘の上に建設される、全13棟・総戸数1,230戸のマンションだ。横浜市内の民間分譲マンションとしては、日本綜合地所(株)が04年に供給した「レイディアントシティ横濱」(横浜市金沢区)の1,805戸には及ばないが、リーマンショック後では圧倒的な規模だ。それを実現できたのは、約11万平方メートルにも及ぶ広大な建設地のおかげだ。
かつてここには、プリンスグループの基幹ホテルのひとつ、「横浜プリンスホテル」が建っていた。同ホテルは1953年、東伏見邦英伯爵邸(別荘)を買収して開業。90年に、綺麗な円弧を描く総客室数441の巨大ホテルに生まれ変わった。客室からは、横浜港やみなとみらいだけでなく、三浦半島や房総半島、富士山まで眺望が楽しめた。海抜66mの丘の上の姿は、遠く横浜中心部からも見通せ、市民から「横プリ」と呼ばれ、愛された(横浜市在住の記者も毎年泊まりに行っていた)。
敷地内は、「プリンス坂」と呼ばれた桜の並木道など、宮家時代から継承される豊かな緑にあふれ、東伏見邦英伯爵別邸も「貴賓館」として、2006年の営業終了まで利用されていた。この歴史や緑こそ、最大の財産であり、06年同地を取得した東京建物も、これらを承継したマンション計画でなければ、周辺住民にも、市民にも、そして入居者にも受入れられないと考えた。
そこで同社は、03年にスタートした、行政が担う地区計画を事業者側から提案する「都市計画提案制度」を採用した。「自ら提案できる」というと随分事業者に有利に聞こえるが、実際はその逆。ただでさえ、周辺住民の反感を買いやすいマンション開発、しかも住民の思い入れが強いこの地で、住民も市民も行政も納得する計画を練り上げるのは、まさしく“茨の道”である。周辺住民や市民と開発計画について5年余にわたり協議、ようやく計画が認可され本体着工にこぎつけたのは、11年末のことだ。
「横浜市への都市計画提案は、累計6件しか採用されていない。しかも、過去5年間に限れば、この開発だけだ。それだけ大変難しく、我々にとっては大変な価値のあるものだ」――同開発を手掛けた東京建物住宅事業第二部長の菊池 隆氏は、こう自負する。
土地の歴史や緑を“紡ぐ”
同社が掲げた開発コンセプトは、『紡ぐ』。開発地の持つ歴史や緑、眺望といった財産をマンションへ継承するという想いと、入居者同士、入居者と地域住民とのコミュニティを作り上げるという想いを込めた。敷地内は、プリンス桜をはじめ、従前の緑を極力保全。電線と駐車場を地下に埋設し、さらに植樹することで、緑地率は75%に達する。
敷地のほぼ中央には、街のシンボルとして保存・活用される「貴賓館」。その北側にスーパーマーケットなどの商業施設を集積。丘の縁に沿って、ぐるりとマンション13棟を配置、各棟が眺望が楽しめる。建物は、周囲への圧迫感をなくすため、高さ30メートルに抑え(それでも、最上階であれば、タワーマンション中層部以上の高さ)、かつてホテルが建っていた場所には、ホテルの形を模した2棟を配置。住戸グレードも高めた「プレミアム棟」となる。
前述のとおり、低層階でも素晴らしい眺望が期待できるが、その反面、最寄駅との高低差は60mにもおよぶ。敷地の周回路からのアプローチは、急坂のうえ距離も長い。そこで同社は、敷地を縦に貫くエレベーターを設置する。駅から最も近い敷地入口から、水平に80m。そこから垂直に60m上がるこのエレベーターにより、ほとんどの住戸が、駅から徒歩10分圏内となる。もちろん、急坂を登る必要もない。
大震災経て防災対策強化、過去最高の反響得る
建物は、(株)長谷工コーポレーション施工。東日本大震災を踏まえ防災対策を大幅に強化。年間最大32万kWを発電する太陽光発電システムを屋上に搭載し、各住戸に供給。1住戸あたり5%の電気代を削減する。そのほか、風力ソーラーハイブリッド外構照明、備蓄倉庫、防災井戸、防災風呂、非常用発電機などを採用している。低層棟を屋上緑化するなど環境負荷も小さくしており、CASBEE「S」ランクも申請している。
住戸は、スケールメリットを活かし、2LDK~4LDK、専有面積56~145平方メートルの全134プランを用意。メインレンジは80平方メートル台となる。各住戸には、奥行き3mのスカイリビングプランや親子のコミュニケーションを重視したコミュニケーションライブラリープラン、メーターモジュールや引き戸を採用したユニバーサルプランなど、350種類以上のセレクトプランが用意される。
設備機器グレードは、長谷工マンションのほぼ標準仕様だが、ブリリアのルールに基づき二重床となる。また、旧ホテルの外観を継承した2棟はプレミアム住戸となり、設備仕様が高級化、天井高も2,600mm(通常2,400mm)に引き上げられる。
さて、価格である。現在発表されている予定価格は、メインとなる専有面積80平方メートル台の3LDKが、4,000万~5,000万円台。ホテルを模したプレミアム棟の住戸は、同じ広さで7,000万~8,000万円台となる。坪単価は、230万円台あたりに落ち着きそうだ。
この価格をどう見るか?横浜市のマンションでいえば、みなとみらい地区や東急沿線北部のマンションとほぼ同等だ。根岸線最寄りと考えるとやや高い気もするが、垂涎の立地や豊富な共用施設のプレミアムを考えれば、まずまず妥当と言うべきか。
事実、ユーザーの注目度は高い。11年10月のプレセールス開始から、年明けまでの反響数(資料請求件数)は6,000件を突破。同社販売のマンションでは過去最高のすべりだし反響を得ている。横プリ跡地というブランド立地が市民にアピールしているのは間違いないが、震災以後のトレンドである「高台、堅地盤」(宮様の住居が建っていたくらいだから、災害に弱い立地のわけはない)も高い評価がなされたようだ。
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東京建物は、昨年末、ビル事業用地を中心に多額の評価損失を計上、苦しい立場にあるが、マンション事業については注目物件が目白押しだ。今回の「横浜磯子」と並行して、多摩ニュータウンの巨大建替えプロジェクト「ブリリア多摩ニュータウン」の販売も始まる。こちらも、きちんと紹介したい。(J)
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