記者の目 / 開発・分譲

2013/9/19

生まれ変わる「地上げの象徴」

新宿・富久町、住民主導のまちづくりが進行

 「バブル」を知らない世代が社会の中枢を占めるようになったいま、「地上げ」という言葉も懐かしい響きがある。その地上げに翻弄され、20年余にわたり存亡の危機に立たされていたあるまちが、再生に向け動き出している。東京都新宿区富久町一帯の約2.5haに及ぶ再開発「トミヒサクロス」がそれ。再開発にあたっては住民の想いが反映され、52階建て超高層マンションと低層住宅、旧住民と新住民とが共存する意欲的なまちとして生まれ変わる。その象徴である超高層マンション「コンフォートタワー」がいよいよ販売をスタートする。

大規模再開発「トミヒサクロス」の完成予想図。山手線内では最高層となる地上52階建ての超高層マンションを中心に、低層商業施設、7階建ての賃貸住宅、商業施設上には低層のペントハウス(地権者住戸)が並ぶ。賃貸住宅は地権者に割り当てられ、転貸することで生活資金にしてもらう
大規模再開発「トミヒサクロス」の完成予想図。山手線内では最高層となる地上52階建ての超高層マンションを中心に、低層商業施設、7階建ての賃貸住宅、商業施設上には低層のペントハウス(地権者住戸)が並ぶ。賃貸住宅は地権者に割り当てられ、転貸することで生活資金にしてもらう
まちの入口に設置される、約800平方メートルの大広場。地元の祭り等のイベント会場として開放するなどして周辺地域とのコミュニティの舞台とする
まちの入口に設置される、約800平方メートルの大広場。地元の祭り等のイベント会場として開放するなどして周辺地域とのコミュニティの舞台とする
「コンフォートタワー」は、ウェブアンケートや座談会を通じユーザーの声を10万件以上集め、そのうち1
「コンフォートタワー」は、ウェブアンケートや座談会を通じユーザーの声を10万件以上集め、そのうち1
000のアイディアを共用空間やサービスに反映させ、「イゴゴチのいい空間」づくりを目指した。たとえば、敷地内の樹木と連動し、エントランスホール内にも植樹や壁面緑化がなされている
000のアイディアを共用空間やサービスに反映させ、「イゴゴチのいい空間」づくりを目指した。たとえば、敷地内の樹木と連動し、エントランスホール内にも植樹や壁面緑化がなされている
オーダーメイドマンションを得意とする野村不動産が「コンフォートタワー」の商品企画を主導。43階以上は水回り以外のフルオーダー、49階以上は水回り移動も含めたフルオーダーに対応する。施工期間とコストの制約はあるが、ユーザーの思い通りの間取りが実現する
オーダーメイドマンションを得意とする野村不動産が「コンフォートタワー」の商品企画を主導。43階以上は水回り以外のフルオーダー、49階以上は水回り移動も含めたフルオーダーに対応する。施工期間とコストの制約はあるが、ユーザーの思い通りの間取りが実現する
フルオーダー対応にならない住戸に導入されたのが、「ゾーンオーダーメイド」という仕組み。写真のモデルでは、LDKに隣接する右半分がオーダーメイド可能な「ゾーン」に設定され、ユーザーが自由に間取りをアレンジできる
フルオーダー対応にならない住戸に導入されたのが、「ゾーンオーダーメイド」という仕組み。写真のモデルでは、LDKに隣接する右半分がオーダーメイド可能な「ゾーン」に設定され、ユーザーが自由に間取りをアレンジできる
ゾーンオーダーメイドのモデル近くに設置しているボード。ゾーンオーダーメイドのゾーンが囲まれた間取りの上に、同社が推奨するプランがマグネットで貼り付けられるようになっており、間取りのイメージができる。また、サインペンで自分の要望を自由に書き込むことができ、イメージ通りの間取り作成に向け、担当者とセッションができる
ゾーンオーダーメイドのモデル近くに設置しているボード。ゾーンオーダーメイドのゾーンが囲まれた間取りの上に、同社が推奨するプランがマグネットで貼り付けられるようになっており、間取りのイメージができる。また、サインペンで自分の要望を自由に書き込むことができ、イメージ通りの間取り作成に向け、担当者とセッションができる
ゾーンオーダーメイドで実現できる、使用目的に合わせたさまざまなプランを並べているコーナー。間取りは広さを1cmピッチで変えることができる。使用部材やプランニングも含め、水回りが動かせない以外は、フルオーダーとほぼ同じ対応が可能
ゾーンオーダーメイドで実現できる、使用目的に合わせたさまざまなプランを並べているコーナー。間取りは広さを1cmピッチで変えることができる。使用部材やプランニングも含め、水回りが動かせない以外は、フルオーダーとほぼ同じ対応が可能

産官学が協力。20年かけ再開発にこぎつける

 個人地主(権利者)から小さな土地を買い集め、大きな整形地にして開発業者に転売する「地上げ」は、その後の不動産業のイメージを決定づけた。地価が右肩上がりだった時代は、手数料に地価の高騰も加わり莫大な利益が出た。そのため、ひとたび地上げの対象地となると、有象無象の不動産会社が土地を買い漁り、それらの土地は利活用もほとんどされず、バブル崩壊後も権利者を変えながらそのまま放置され続けていた。そうしたバブルに翻弄されたまちの1つが、新宿区富久町だ。

 新宿の繁華街にも近く、それでいて低層住宅街が広がっていた同エリアは、地上げの格好の餌食となった。バブル期には無秩序な土地売買が相次ぎ、バブル崩壊により、まちは空き地が点在する「虫食い」状態となり、治安も悪化した。再開発の話も何度か持ち上がるものの、権利関係の複雑さや資金不足等がハードルとなり、なかなか前に進まなかった。

 そうした中で、危機感を持った地元住民が、1990年から再開発に向けた勉強会を開始。社会的問題として研究テーマにしていた早稲田大学関係者の協力も得て、住民主導の「まちづくり組合」を立ち上げ、再開発計画を練り上げた。2002年、「都市再生緊急整備地域」に指定されたことで、容積率アップと高さ制限の緩和の追い風も受けた。09年に再開発組合が設立され、野村不動産(株)、三井不動産レジデンシャル(株)、積水ハウス(株)、阪急不動産(株)の4社が組合員として参画。構想から20年かけて着工にこぎつけた。

山手線内最高層マンションがシンボル

 再開発の対象地は、東京メトロ丸の内線「新宿御苑前」駅徒歩5分圏に拡がる、総面積約2.5ha。幅員の狭い道路により細分化され、木造住宅が密集したエリア内の道路を廃道し、外周道路を拡幅。エリア内には、鉄筋コンクリート造一部鉄骨造地上55階地下2階建ての山手線環内で最高層となる地上180mの「コンフォートタワー」のほか、7階建ての賃貸住宅、大型スーパー・認可こども園、商業店舗、防災倉庫などを整備。商業施設等の屋上に配置されるペントハウスは、地権者住戸。賃貸住宅は地権者に割り当てられ、転貸することで生活を保証する。

 低層住宅と高層住宅のミックスとなったのは、長年馴染んだ低層住宅を自宅として残したいという住民の強い要望。また、約800平方メートルの大広場を設置。地元の祭り等のイベント会場として開放するなど周辺地域とのコミュニティの舞台とする。住宅の総数は、約1,230戸だ。

 再開発のハイライトは、超高層マンション「コンフォートタワー」だ。建物は、デュアル制震構造を採用。72時間稼働の非常用発電設備、3日間の非常食を備えた大型備蓄倉庫の設置のほか、早稲田大学名誉教授の尾島俊雄氏が監修した災害時の生活継続と日常生活への早期復帰プログラムも策定する等、防災面に配慮した。

 また、商品企画策定に際し、13年2月からウェブアンケートや座談会を通じユーザーの声を10万件以上集め、そのうち1,000のアイディアを共用空間やサービスに反映させ、「イゴゴチのいい空間」づくりを目指したのだという。
 その中身は、マンションの共用空間から専有部にまで及び、視点が細かい。「エントランスホールの床タイルのパターンを工夫して、通路と人の溜まる場所を分ける」「不要なDMをその場で捨てられるよう、メールコーナーにゴミ箱を設置」「車寄せの隣にベンチを置く」などがいい例。共用部も、スケールメリットを生かし、大胆な緑化が施されたエントランスホールをはじめ、10つのラウンジやゲストルーム、カフェ、キッズルーム、フィットネスルーム等が設置される。

多彩なオーダーメイドでニーズに応える

 住戸は、1LDK~3LDK、専有面積36~120平方メートル。商品企画を主導した野村不動産によれば、最大の特長は、多世代入居を前提とした多様な住戸プランの実現だという。

 同社は、オーダーメイドマンションの企画・開発で定評がある。しかし、水回り位置の変更も可能なフルオーダーメイドは施工スケジュールに制約があり、コストも高くつく。逆に、無償で対応できる決められた間取りからのプランオーダーでは、購入者の細かいニーズには対応できない。そこで、その折衷案とも言うべき新しいオーダーメイドプランが、このマンションには導入される。それが「ゾーンオーダーメイド」だ。

 同システムは、間取りの一部範囲を、自由に可変できる「ゾーン」とし、有償とはなるが、所定の期間内であればまったく自由に間取りを変えられる。水回り位置は変更できないが、I型キッチンをL型に変更するといった対応は可能。また、間取りピッチは「1cm」から可能というから驚きだ。通常5回はかかるオーダーメイドの打ち合わせも、ゾーンオーダーでは2回で済む。モデルルームには、ゾーンオーダーの事例を集めた専門コーナーも設けており、ユーザーニーズを細かく聞き取ったうえで提案を行なっている。

 施工期間の制約から、22階以下ではベースプランのみの対応となるが、22階以上は無償のプランセレクト、27階以上はゾーンオーダーメイド、43階以上は水回り位置変更を除いたオーダーメイド、49階以上はフルオーダーメイドに対応。ゾーンオーダーは、最大600戸で実施する方針。その他、2世帯近居・同居に応えるため、隣り合った2つの住戸を連結するプランも、46階以上で対応する。

 同物件は、7月からプレセールスを開始。モデルルームオープン前までの資料請求は1万件を突破、モデルルームへの事前来場者数も3500組を超えた。好反響を得ていることから、1期販売戸数は、2013年分譲された首都圏マンションでは最大となる482戸。販売予定価格は、3,197万~1億7,056万円、最多価格帯は6,500万円台。坪単価は約330万円。ロケーションと再開発のポテンシャル、オーダーメイドの魅力などを総合すると、まずまずの販売価格ではないだろうか?

 何より、20年余という時間こそかかったが、半ばゴーストタウンと化し、女性が夜一人歩きするのが危ないとまで言われたまちが、地元住民だけでなく新たな住民を呼び込んで生まれ変わるのが嬉しいことだ。このまちは、不動産業の持ついい面と悪い面を見せてくれた。できることなら、人々の記憶には「いい面」だけ残ってほしい。(J)

***
【関連ニュース】
新宿・富久町で山手線内最高層の分譲マンション発売/野村不動産他(2013/09/05)

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年5月号
住宅確保要配慮者を支援しつつオーナーにも配慮するには?
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/4/5

「月刊不動産流通2024年5月号」発売開始!

月刊不動産流通2024年5月号」の発売を開始しました。

さまざまな事情を抱える人々が、安定的な生活を送るために、不動産事業者ができることとはなんでしょうか?今回の特集「『賃貸仲介・管理業の未来』Part 7 住宅弱者を支える 」では、部屋探しのみならず、日々の暮らしの支援まで取り組む事業者を紹介します。