記者の目

次世代の管理システムとなるか

 積水ハウス(株)は4月、ブロックチェーン技術を利用した不動産情報管理システムを構築すると発表した。
 ブロックチェーン技術は、ビットコインなどの仮想通貨で用いられている技術で、今回のシステム構築は、ビットコイン取引所国内最大手でブロックチェーンの開発を手掛ける(株)bitFlyerと共同で実施。bitFlyerが開発した次世代ブロックチェーンの「miyabi」、および「スマートコントラクト」の仕組みを利用する。
 ブロックチェーンはどういう仕組みでどんなメリットがるのか、同社はブロックチェーンを用いてどういうシステムをつくろうとしているのか、その概要を説明しよう。

◆改ざんしにくいオンライン上の取引記録「ブロックチェーン」

 ブロックチェーンとは、いわば金融関係で用いる元帳のように、オンライン上で実施した取引の履歴(「AがBに●万円支払った」というような)を逐一記録・公開する技術。「ブロック」と呼ばれる取引データが記録された塊が鎖のように連続的につながりながら増加し、そのすべての記録データを、ネットワークでつながった複数のコンピューターで共有する仕組みを持つ。

 ホストサーバーにデータを蓄積する従来の中央管理型のデータベースと違い、分散した複数のコンピューターで定期的に同期し履歴の整合性を取りながらデータを共有、データの記録には電子署名(なりすましの防止や情報の改ざんを防止する技術)を用いることから、全データへのアクセス・書き換え・削除権限を持つ中央管理者を設定する必要がなく、改ざんが極めて困難、かつデータの保全性も高いというメリットを持つ。

経済産業省「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査 報告書」(2016年4月28日)より

 「例えるなら、皆で相互に監視し合う透明性の高い公共の取引記録のようなもの」(積水ハウス(株)IT業務部部長の上田和巳氏)だという。ちなみにこの全権限を持つ管理者がいないということは、今回の例でいえば、システムを構築する積水ハウス内でも一切、一度記録した取引データを書き換えることはできないということだ。

 今回のシステムでは、このブロックチェーンの取引記録に、プログラム化して自動的に実行できる契約機能「スマートコントラクト」を組み合わせる。簡単に言えば「AがBに●万円支払った」という取引記録に、「●●●が行なわれたとき、この支払いが実施される」といった実行条件を設定して、その条件下になれば取引が自動的に実行される仕組みを使う。これにより、ブロックチェーン上で「Aさんが●月の家賃として7万5千円をBに支払った」といった取引記録が書き込まれる仕組みが構築できるようになる。

 同社では、2017年度内をめどに、賃貸住宅における入居契約等の情報管理システムをブロックチェーン上で構築。東京都と神奈川県を主な営業地域とする積和不動産(株)より運用を始める予定だ。

◆管理システムと連動した入居者サービスの提供を見込む

 以後の展開では、2020年を目途に、賃貸住宅の市場供給(賃貸住宅オーナーおよび積水ハウス)、物件管理(積和不動産)、募集・案内(提携不動産事業者)、入居顧客管理(入居者)等の事業を、ブロックチェーン技術をベースにした管理システムにつなげ、同社グループにおける賃貸住宅のサービス提供をブロックチェーン上で行なうことを目指す。

 こうしたブロックチェーン上でつなげた管理システムを作るメリットの一つとして、改ざんが極めて難しい点はもちろんだが、前述の上田氏は、入居(賃貸希望)者サービスの向上を目的とした「管理システムと連動させた入居(賃貸希望)者が利用できる仕組みが構築しやすい」点を挙げる。

 これまでの一般的な管理システムは、ネットを通じてクラウドで利用していたとしても、あくまでも自社専用の閉じたシステム。そもそもが公開するという概念でつくられるものではなく、セキュリティ上の問題等もあり、入居者サービスは会員サイト等、別途システムを構築するものだった。

 一方、ブロックチェーンは仕組み上、改ざんが難しいという特性を持ちながら、ネット上のオープンな場所に公開される形で構築するため、いわば一般的なクラウドサービスのように、“許可”を与えてアクセスできるようにすることが比較的容易だ。同社では、入居(賃貸希望)者に、本人認証として電子署名を組み込んだスマートフォンの専用アプリをダウンロードしてもらい、管理システムとつなげ、物件見学~入居申込み~入居契約までの一連の流れ、入金管理等がアプリを通じてオンラインでできる仕組みを構築したい考えだ。

 この電子署名用にアプリを確実にダウンロードしてもらえる点も大きいという。「アプリを通じた入居者さま向けサービスの話は、これまでにも幾度となく出ていますが、まずアプリをダウンロードしてもらうことのハードルが高く、実現には至っていません。今回のシステムの場合、本人認証に必ずアプリが必要ですから、アプリを通じて、契約内容・入金記録の確認ができるサービスに加えて、例えば近所の商店街とタイアップしてクーポン提供するなど、入居者さま向けサービスにおいて、さまざまな展開の可能性が広がります」(同氏)。

◆他事業者の相乗りが容易な共通プラットフォームになり得るか

 また、ブロックチェーン技術の大きな特徴の一つとして、今回、bitFlyerのパッケージを積水ハウス用にカスタマイズしたものを構築するが、このような自社オリジナルのシステムであっても、情報管理フォーマットが共通化し易く、他社(他者)の相乗りが容易な点が挙げられる。さらにブロックチェーンを使ったシステムは、クラウドサービスを利用するのに近いため、現行の設備が利用でき初期投資がそれほどかからないというメリットもある。利用料の支払いは想定されるが、自社で管理システムを構築するのが難しい中小事業者でも、相乗りがしやすい。こうした特性を生かし、将来的に描いているのは、複数事業者で共用する共通プラットフォームとしての不動産物件情報ポータルだ。

 なお、今回のブロックチェーン上の共用を想定しているデータは、物件ID、入居者ID、契約IDなど基本的な情報およびそれにひもづく取引記録といったイメージだ。例えば「あるID保持者があるIDの物件の契約の申し込みをした」「(あるID保持者が申し込みしたあるIDの物件の)契約が成立した」。「(同)入居開始した」「(同)契約更新した」といった契約の流れと、「(同)1ヵ月目の家賃を●万円支払った」「(同)2ヵ月目の…」といった支払い履歴。物件詳細、契約者詳細情報などは、ブロックチェーンにひもづけられた非公開のデータベースで管理する(つまり複数事業者で共用した場合、自社管理物件でない限りブロックチェーン上からは物件や入居者の詳細情報までは直接見れない)。エリア、物件間取り、あるいは契約者の性別等、基本的な情報にどの程度の情報まで含めるかは現在検討段階だという。

 つまり、この想定しているシステムを利用すれば、人物や物件の詳細までは分からなくとも、あるIDの入居者の過去の賃貸履歴、支払い履歴(滞納情報)も各社で共有できるようになるというわけだ。入居希望者の過去の履歴が参照できれば、入居審査の基準になり得る、場合によっては過去何年かの支払い状況が良好であれば、敷金礼金なしにするなど、個々の入居希望者に合わせたサービスなども可能になる。

 こうした意味で、今回のシステムは、同社が1社で使っていてもメリットは少ない。システムの構築後、どのように他事業者との共用を進めていくかが、大きな課題になると思われる。

 なお、同社ではさらに、「夢半分」と前置きしながらも将来的には、今後期待されている他業種分野のブロックチェーン技術を活用したコンソーシアム(保険・銀行・不動産登記・マイナンバーなど)との融合を図ることを目指していくという。

◆◆◆

 ブロックチェーンは今後、産業界の新たなインフラになり得るのではないかと注目されている技術だ。IoT、ロボット、AIといった技術が普及してきているが、現時点ではまださほど馴染みのないブロックチェーンも、今後さまざまな分野で急速に浸透する可能性はある。今回のシステムはまだ未知数とはいえ、不動産分野にブロックチェーンがどう生かされるのか、とても興味深い。ただ、今回の取材で感じたことだが、どんなに最新のシステムでも、例えば電子署名を組み込んだスマートフォンを落とす、なんらかの入力ミスをしてしまうなどの人為的ミスの可能性はある。今後の技術進歩でこういった人為的ミスの可能性をどれくらい低くできるか、そこも気になるところだ。(meo)

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