記者の目 / 開発・分譲

2018/4/3

「近隣住民一体型」の分譲地開発(2)

 ポラスグループ・中央グリーン開発(株)が、近隣自治会と意見交換しながら進めていった分譲地開発。条例で設置が義務付けられている集会所の整備方針について、地元自治会と意見交換を重ねた。2月、中央グリーン開発から整備方針が出され、秋口をめどに自治会が運用を開始する。

(1回目はこちら

公開
近隣住民向け見学会では、人口の1割超となる約80組が訪れ、まちに対する期待感をにじませた

◆地域住民と意見交換

 同社は、企業研修所跡地での戸建分譲「パレットコート北越谷 フロードヴィレッジ」(埼玉県越谷市、総戸数64戸)の開発に当たり、越谷市の条例で設置が義務付けられている集会所の整備することになった。しかし、すでに徒歩圏内に既存の集会所があり、活用頻度も高かった。そこで、開発地に隣接し開発後に新住民が所属することになる出津(でづ)自治会と協力し、近隣住民と同社、行政と意見交換する「南荻島未来会議」を立ち上げた。

 漠然と「やりたいこと」を挙げていった1回目、アイディアを具体的にし、用途と課題を話し合った2回目、より深掘りした議論を進め、使用ルールや管理コスト等にまで踏み込んで意見交換した3回目。これらの「南荻島未来会議」を通じて出た意見を参考に、中央グリーン開発が具体的な整備方針や運営について検討した。

 年が明けて2月17日には、近隣住民向けのモデルハウス見学会を開催し、約80組が来場。出津自治会の世帯数が約700組であり、1割を超える集客となった。モデルハウスの玄関が住民の靴で埋まるほどで、モデルハウスの脇では井戸端会議が自然に発生していた。営業現場の担当者は「地域住民の皆さんの期待値が非常に高いことをひしひしと感じる」と話した。

◆「まちのリビング」として運営

 見学会の後に行なった4回目の「南荻島未来会議」で、設計図とコンセプトを披露。新たな集会所に隣接して公園を整備し、集会所と公園、そして元荒川の河川敷を合わせて“まちのリビング”として活用していく計画とした。集会所にはキッチンを設けて料理教室や臨時のカフェなどとして分譲地の購入者だけでなく近隣の住民が利用したり、公園ではBBQやヨガ教室などのイベント開催、河川敷ではお花見や釣り、カヌー体験など、近隣住民も含めたまち全体が生活を楽しめるような施設としていくといった内容が盛り込まれた。

 しかしこれはあくまでも、中央グリーン開発が考えた「案」。実際の運営は住民の手にに委ねられる。コンセプト発表をした後は、この案を題材に、住民が具体的に「この集会所で何をしたいか」を意見交換し、元荒川の河川敷も含めた安全対策や整備方針等についても意見があった。「住民の皆さんも、自分たちが考え、話し合ってきたことが案に盛り込まれていると評価してくれました」(同社CSV推進室コミュニケーション係係長・横谷 薫氏)。

1
4回目の未来会議では、参加者それぞれが思い描いた未来図を披露した
2
住民だけでなく、中央グリーン開発の社員も参加してアイディアを発表した

◆「既存住民、新住民と今後の方針考えたい」

大熊さん
「みんなで今後の方針を練っていきたい」と語る自治会長の大熊氏

 出津自治会会長の大熊久夫氏は、「いきなり建物ができるよりも、南荻島未来会議を通じて建物ができるプロセスに参加できたのは良かった。参加していた人たちには、この集会所が地域のもの・自治会のものだという意識が芽生え始めています。今後の方針を練っていくのに、何人かキーパーソンとなる人の目途もついています」と語る。

 集会所の建物は、これから設計や運用方法などを煮詰めていく。今後、中央グリーン開発では、4月中に行なわれる自治会総会までに規約案の作成や利用を促す仕組みを作り込む。自治会でも、有志を募って具体的にどう運営していくのかを考える。水辺の利用方針を考えるチームと、建物の利用を考えるチームの2チームを既存・新住民で構成し、施設をどう使っていくか、どう管理していくかを練っていく方針。「かつての企業研修所時代に行なわれていた地域イベントに参加していた60~70歳代、未来会議に参加していた30~40歳代、そして新しくこの地域に引っ越してくる新住民、みんなで考えていきたいです。大変なのはこれからですね」(大熊氏)。

 建物の完成は今年の秋口を計画。「オープン後1年を目途に、当社の関与度を薄めていこうと思っています。もちろん何らかの形でお手伝いはしますが、自治会の皆さん自身で集会所を上手く運営できるように、調整していきたい」(横谷氏)。

集会所の建設予定地
集会所の建設予定地。ここが地域コミュニティの拠点となる

◆◆◆

 まちに住む人たちを巻き込んでまちづくりを進めていく動きの萌芽を感じるプロジェクトだった。棟下式、集会所の使い方を話し合った「南荻島未来会議」を通じて、新しくできるまちへの期待感が高まった。2月17日に行なった地域住民向けのモデルハウス事前内覧会に、自治会の1割超にあたる約80組が参加したことが地域からの期待の大きさを物語る。

 開発段階から事業者と自治会がタッグを組んで施設計画を練り上げてきた分譲地。自治会には今後もさまざまな角度から中央グリーン開発が関わっていくだろう。開発事業者が分譲後に「つくりっぱなし」と揶揄された時代は終わった。地域住民も巻き込んで、継続的にケアしていくことが、不動産事業者には求められる。短期的なコスト回収が難しい事業ではあるが、長期的な視野でいかに地域の価値を上げていくか、それをどうやって収益に結びつけていくかという視点に切り替えることが、これからの不動産事業者には必要となる。(晋)

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