記者の目 / 開発・分譲

2018/4/2

「近隣住民一体型」の分譲地開発(1)

 埼玉県越谷市で、住民参加による分譲地開発が行なわれている。「住民参加」と言っても、分譲住宅を購入した顧客でも、かつてその会社で住宅を購入したOB顧客でもない。開発地の隣の地域に住む人たちだ。舵を取ったのは、越谷市を本拠に事業展開するディベロッパー・ポラスグループの中央グリーン開発(株)。64戸の分譲住宅開発に当たり、設置が同市の条例で義務付けられている集会所の整備方針について、地元自治会のメンバーを集めて3回にわたって会合を開いて話し合った。昨年10月よりおおむね月に1回行なわれ、この2月には整備方針が固まった。

パース
「パレットコート北越谷 フロードヴィレッジ」の全体完成予想パース。カーブを描く元荒川沿いに半島のような形の地形。この地域は昔からコミュニティが活発だったという

◆条例で集会所の設置義務、しかし既存施設あり

 この分譲地は「パレットコート北越谷 フロードヴィレッジ」(総戸数64戸)。信用金庫の研修所跡地を中央グリーン開発が取得し、開発することにしたのが昨春のこと。研修所は、宿泊棟と大きなグラウンドで構成しており、宿泊棟は解体前に「棟下式(むねおろしき)」と称して近隣住民を招いた建物のお別れ会を開いて話題となった(2017年4月17日のニュース参照)。また、近隣には文教大学の越谷キャンパスがあり、同キャンパスでは地元の出津(でづ)自治会との交流会も行なっている。

棟下式
昨年4月に行なった「棟下式」の様子

 越谷市の条例で50区画以上の宅地開発の場合は地域活動の拠点となる集会所の設置が義務付けられている。ただし、この条例は「越谷レイクタウン」など、新規の大規模開発を想定したもので、既存住宅地の中での開発は想定外。「しかも既存の集会所が徒歩10分圏内にあり、稼働率も高く、まったく同じ用途のハコをつくっても意味が薄れてしまいます」(同社CSV推進室コミュニティ企画係係長・横谷 薫氏)。開発地に隣接し、同分譲地に住む人たちが所属することになる出津自治会にヒアリングしたところ、「自治会館が増えるのはいいが、維持管理費がかさむのが問題」という声が多かったという。

◆地域の未来を検討する会議を設置

 そこで、近隣住民を集め、ざっくばらんに話し合いながら「この地域にないもの・ほしい施設」を探っていき、整備方針を定めることに決め、同社と近隣の出津自治会を中心に住民参加型ワークショップ「南荻島未来会議」を設置。月に1度、地域の集会所に集まって話し合った。

 同社は、こうした住民参加型のまちづくり活動として、「パレットコート七光台(ななこうだい)」(千葉県野田市、総戸数1,035戸)で同社の旧千葉支店建物を生かしたコミュニティカフェづくりを行なった実績がある(16年9月「記者の目」参照。前編後編)。その際は、同社とOB顧客である住民との間での話し合いだったが、今回はOB顧客ではない開発地周辺の住民と越谷市など行政も参加した。

 会議は七光台と同様、「ワールドカフェ方式」で進めた。いくつかのテーブルに参加者が数人ずつ座り、お茶やお菓子を食べながら提示されたテーマについて十数分自由に意見交換。その後、テーブルに1人が残り、席替え後に次のテーマで再度意見交換する。最終的にテーブルごとに意見を発表、ファシリテーター(全体の進行・調整役)がそれぞれのテーブルから出た意見をまとめ上げるというものだ。

 ファシリテーターは、(有)トータル・アジアン・オーガナイゼーション代表取締役で、現在は総務省の地域資源・事業化支援アドバイザーを務める林田暢明氏。七光台でもファシリテーターを務めた人物だ。

◆自治会の魅力を確かめた1回目

1回目
約50人が参加して自由闊達な意見が交わされた1回目の未来会議(2017年10月)

 17年10月7日に行なった1回目の会合のテーマは「出津自治会の魅力は?新しい集会所で何がしたい?」。参加人数は約50人、内訳は20~30歳代15%、40~50歳代20%、60~70歳代65%。
 高齢世代が多かったものの、若い世代の参加もみられるなど幅広い年代が集まった。会合では、「カヌーに乗れる場所」「キャンプもできる」敷地に隣接する川の土手を生かした意見や、「運動場」「マルシェがしたい」といった声など、自由闊達な意見交換がなされた。

◆若い世代も参加した2回目

2回目
2回目の参加者には若い世代が増えた(2017年11月)

 2回目の会合は約1ヵ月後の11月18日。テーマは「前回のアイディアをベースに『やりたいこと』を考えよう」。
 この回には、自治会に配布した1回目の南荻島未来会議のレポートを見た中学生が「(レポートに掲載されている)写真に写っているのが高齢者ばかり。これからの地域を担っていくのは若い世代」と参加。0歳児を連れた家族も参加するなど、若い住民が増え、より多世代によるまちづくりの様相が濃くなった。1回目の内容を踏まえて、新たな集会所でやりたいことを考え、より具体的な集会所の用途と課題について意見を交わした。

◆3回目はテーマごとに「分科会」

3回目
4つの「分科会」を結成して意見を出し合った(2017年12月)

 3回目の会合は12月16日。前2回の会合をさらに深掘りした議論が行なわれ、管理運営やそのための収入源などについて話し合われた。参加者が4つの「分科会」に分かれ、自らの話し合いで導き出した「使用ルールなど管理運営」「収入源」「隣接する土手の有効活用」「運営主体」といった課題について意見を出し合った。

出された意見は以下の通り
(収入源)
・「ギャラリーのような貸しスペースや有料のBBQスペースをつくってその賃料収入を充てる」
・「定期的にマルシェを開く」
(管理運営)
・「自治会が管理協力員を募集し、カギ管理や清掃、利用受付などを行なう」
(土手の有効利用)
「整地して自由に使えるスペースに」
「地域にある文教大学との共同利用」
(運営主体)
「まずは自治会でトライアルし、NPO法人格の取得も検討していく」
「企業の寄付もあれば」
「自治会だけでは難しい。市の協力を取り付ける」

 親の代から40年ほどこの地域に住んでいる自治会長の大熊久夫氏は、「こうした、まちづくりについて住民同士、住民とディベロッパーの間で意見を交わせる機会をつくってくれた中央グリーン開発に感謝したい。新しい集会所ができたらきちんと管理しなければならない。(施設を)つくることが目的ではなく、その先が重要だ」などと話した。林田氏は、「七光台もそうだが、こうしたまちづくりに関して住民の意見を取り入れようとするのを民間のディベロッパーが行なう例は全国でも極めて少ない」という。

続く

◆◆◆

 分譲地の開発に際して、ここまで近隣住民を参加させるプロジェクトはほとんどないだろう。むしろ、閑静な住宅街での大規模な開発だ。反対運動が巻き起こってもおかしくない。「本当にまちになにが求められているか」を地域住民から直接聞き取ることで、地域との一体感のある開発事業に結びついたのではないだろうか。

 地域住民は、まちに対して何らかの意見は持っているが、「言う機会がない」というのが実情。これからその地域を開発する・これまで開発してきた不動産会社がその機会をつくることは、新たな住民がその地域に溶け込めるようにしていくためにも非常に価値がある。この分譲地のパンフレットには南荻島未来会議の様子や近隣住民インタビューなども掲載されるなど、販売活動にも良い影響を与えている。

 次回は、プランの発表とこれからの動きに注目する。(晋)

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