記者の目 / その他

2022/3/30

11年後の閖上

  2022年3月11日で「東日本大震災」から11年が経過した。ここでは、JR「仙台」駅から車で約30分、仙台空港にほど近い宮城県名取市閖上の今を紹介する。

 震災1年後の12年にも弊社の別の記者がまちの様子をレポートしているので、見比べて復興の様子を感じてほしい。

8.4mの津波で全部なくなったように見えたまち

 

 JR「仙台」駅から車で30分程度の「閖上」は、江戸時代以前から港町として栄えており、震災前には農業エリアも広がっていた。ここで採れる「赤貝」は肉厚でうまみが強いため日本一として名高く、市場では高値で取引されるブランド品。「笹かまぼこ」も、この地が発祥だ。

Googleマップより

 震災で、このエリア一帯は津波被害を受けた。約2,500軒の家が流され、多くの死者が出た。観測された津波の高さは8.4m。田んぼは湖のようになり、木々も流され土地はのっぺりとして、まちのあらゆるものがなくなったように感じられた。

閖上の「震災メモリアル公園」にある震災前後の同エリアの写真。上が震災前、下が震災後。震災後は樹木や建物がなくなり、全体が真っ白くなった(掲示写真の
提供元は社団法人東北建設協会)

震災前は朝市めがけて観光客も多数来訪

 震災の約30年前から日曜祝日に開催されていた「ゆりあげ港朝市」は、この地の名物だった。地元の商店が敷地内にぎゅうぎゅう詰めに出店し、海産物、野菜、肉、総菜、花、なんでも売っていた。確か市場の中央当たりにいつも人が並んでいるテントがあった。そこでは地域の方々が大きな鍋でさんまのつみれ汁を煮て、来場者に無料でふるまっていた。市場は冷えるので、みんなそれを食べて暖まってから市場を回った。

 来場者は大勢いて活気が凄かったが、市場が公表する来場者数を確認して見ると、以前はいつも5,000人~1万人の人出があったらしい。近隣住民だけでなく、県内の各所から朝市めがけてたくさんの人が訪れていたのだろう。

 漁港は市場から車を少し走らせたところにある。市場のように有名ではないが、その漁港の真ん前にあった中華そばの「春美食堂」は、記者がラーメン一杯を一人で食べられないくらい幼いときから何度も何度も行っていた思い出の店だ。
 昔ながらの家の一角を店にした小さい店舗で、駐車場も無く、車で行ったら路駐するしかない。店内は、4人がけのテーブルが4つ並んでいた。厨房と客席は小さなすりガラスの窓とラーメンが運ばれてくるときだけに開くドアで区切られていて飾り気は無く、店というより田舎の親戚の家という雰囲気だ。メニューは普通のしょうゆラーメンか、冬限定の塩ラーメンか、それに海老の天ぷらを載せた「中華天ぷら」か。他にうどんや蕎麦もあった気はするが、ほとんどの客は「中華天1つ」と注文していたと思う。店の真ん前が海なので、店外に出るとラーメンを食べて温まった身体が一気に冷え、爽快だった。

 個人的な思い出はこのくらいにしておいて、一般的に著名なスポットでいうと、他には宮城県唯一のサイクリング施設「名取サイクルスポーツセンター」があった。走路や宿泊所、レストランで構成された施設で、年間5万人が利用していた。

 以上書いたものは、全部津波で無くなってしまった。ただ、朝市はすぐに復活して同じ地で営業を始めたし、この数年で新サイクルスポーツセンターを始め、さまざまな新施設が立ち上がり、まちは再生した。

災害時でも動きを止めず、2年後には再建した朝市

 市場については震災直後からメディアでも注目されていたため、ご存じのかたも多いのではないだろうか。

市場の入り口

 市場の組合は震災後数日で地域住民への無料配給を開始。3週間後には市内の大規模商業施設の駐車場を借りて営業するなど、組合事務所を含め、すべての店舗や施設が流されたにも関わらず、被災後一度も動きを止めずに地域住民の生活を支えた。

 そうした姿が報道されたことも影響してか、震災直後から国内外から多くの支援を獲得。特にカナダのブリティッシュコロンビア州とカナダの木材メーカーからは多くの支援を受け、震災から2年後の2013年5月には震災前と同じ場所で営業を再開した。

魚が干されている市場の店先
買ったものを焼いて食べられるスペースもできた

 市場の出店店舗は約50店舗。誰でも自由に参加できる競りや、海産物を自分で焼いて食べられるサービスが話題になり、多い時には2万人の来場があるという。震災前を超える盛況ぶりだ。

 市場に隣接して、「メイプル館」も誕生した。カナダ連邦政府の支援を受け、カナダ産の木材を使用して建てられた施設で、こちらは平日も営業している。飲食店の営業の他、特産品や復興グッズの販売、震災に関する展示も行なわれている。

かさあげされた堤防に、新たな商店街

 国土交通省が推進する「かわまちづくり事業」に参画し、19年に名取川河口付近で開業したのは、「かわまちてらす閖上」。かさあげされた堤防と同じ高さに整備した側帯に、木造平屋建て3棟からなる商店街とオープンテラスが開かれた。震災後に設けられた名取市復興仮設商店街「閖上さいかい市場」の出店者など約25店舗が出店しており、食べ歩きや買い物ができる。美容室や物販店もあり、地域住民も日常使いする施設だ。

早朝、オープン前に訪れたため、人はいなかった。ランチ時にもなると、地域住民も多く訪れにぎわう
商店街の案内ボード。飲食店やレンタルスペースなどが出店する

 事業主体は被災事業者が中心となったまちづくり会社。開業後もエリアのにぎわい向上のため、No1の芋煮を決める「IMONI1グランプリ」などさまざまなイベントを実施。観光客の獲得に奮闘している。

防波堤の上に設けられたオープンテラス。目の前に流れるのは名取川
「『かわまち大賞』を受賞しました!」という幕が掲示されていた

 「かわまちてらす閖上」は、21年には、国土交通省「かわまち大賞2021」を受賞。「河川とまち・運河・港が連携し、復興事業の中で拠点整備と河川整備を上手く組み合わせている」「震災で甚大な被害を受けたにもかかわらず、かわまちづくりの取り組みなどにより居住人口が増えるとともに、商業施設の建設・運営により被災事業者自らが主体的に地域を盛り上げている」と評された。

サイクルスポーツセンターには露天風呂も

 サイクルスポーツセンターは9年半の準備期間を経て、20年10月3日、温泉付き宿泊施設も併合した「NATORI CYCLE SPORTS CENTER/輸りんの宿 名取ゆりあげ温泉」として復活した。

外観
自転車のモニュメントがおかれている

 1周4kmのサイクリングロードに加え、動物の形をしたものや二人乗り用など23種類の多様な自転車を試せる「おもしろ自転車広場」も設置。自転車やセグウェイを借りて、閖上のまちを走ることもできる。

「NATORI CYCLE SPORTS CENTER/輸りんの宿 名取ゆりあげ温泉」公式HPより

 さらに、スケートボード場やフットサルコート、バスケットコート、遊具広場、巨大なトランポリン遊具など…小さな子供を含め全ての年齢層が好きなスポーツを楽しむことが出来る環境が整っている。

 目玉は温泉だ。地下1,200mから湧き出る温泉は、宿泊客だけでなく、日帰り利用も可能。浴場からは蔵王連峰を見渡すことができ、海風を感じながら露天風呂でスポーツの疲れを癒せる。

客室には自転車を持ち込むことが出来る。同公式HPより

 地元で創業し40年以上の歴史を持つ洋食店「HACHI」も施設内に誘致。クレソンやしらす、笹かまぼこなど、名産品を使ったメニューを豊富に提供している。

この4月にも新たな施設が誕生。温泉×食

 今年の4月21日には複合施設「アクアイグニス仙台」がオープンする。住所としては、閖上から名取川を挟んだ仙台市若林区。防災集団移転促進事業による集団移転跡地での開発であり、仙台市集団移転跡地利活用事業・宮城県沿岸部交流人口拡大モデル施設整備事業に位置付けられている。

開発中、現地の様子。工事車両以外は近づくことが出来なかったので遠くから…

 観光・交流の起点となる東北復興のシンボル施設を目指し、「治する・食する・育む」をコンセプトに、施設は温泉棟・マルシェ棟・ベーカリー棟・レストラン棟・スイーツ棟で構成。地下1,000mから湧き出る湯を使用した温泉からは仙台市内が一望できるという。また、日髙良実氏、辻口博啓氏、笠原将弘氏と全国的に著名な3人のシェフがそれぞれ開くレストランも、地域に新たなにぎわいをもたらすことだろう。詳細は、「R.E.port」3月1日付のニュース参照。

にぎわいの中心にある鎮魂神社と芽生えの塔

 ここまで紹介したさまざまな施設の中央にあるのが、「日和山」だ。

 閖上地域を一望できる標高6.3メートルのこの地は、昔からあるランドマーク。震災後にはこの日和山を中心に、「名取市震災メモリアル公園」がつくられた。

 日和山には、津波により流失した「閖上港神社」もおかれた。同神社は応永年間(1394~1427年)に春日大社から春日の神を勧請。奈良時代の頃から「ゆりあげ五大明王神堂(ゆりあげ水門明神)」として祀られ、海上安全・大魚満足の守護として地域に親しまれてきた。津波により境内の建物が全て流出したことから、日和山に仮殿を設けている状況だ。

 日和山の前には、東日本大震災以前の津波(1933年の三陸津波)の教えを伝える石碑もあり、この地が何度も津波に合いながらもそのたびに復興してきたことを感じられる。

 公園内の「祈りの広場」。犠牲者の魂がまっすぐと天に上るようにという願いと、復興を決意する人々のまっすぐな心を表す慰霊碑「芽生えの塔」がそびえたっている。てっぺんの高さは、この地に押し寄せた津波と同じ8.4m。

17年11月1日に当時皇太子・皇太子妃であった現天皇陛下・皇后陛下が閖上を訪れ、その後18年の歌会始でその時のことをお詠みになられたことから設けられた歌碑
多くの犠牲者の名前が記されている

◆◆◆

 記者は名取市出身。震災もこの地で経験した。これまでは閖上の復興を感じつつも、身近過ぎてその道のりをわざわざ振り返ることは無かった。しかし、今年2月にアクアイグニスの記者会見の知らせを受け、帰省のタイミングも重なったため開発地を見に行くことに。合わせて復興施設を巡ると、改めてこのエリアの魅力と復興の勢いを感じ、この記事を書くことにした。

 

 これは震災直後の日和山と、そこからの景色だ。この惨状の中からこの地の人々は立ちあがり、また海と共に生きることを決めた。人が住めなくなってしまったエリアも、さまざまな整備を施し、施設を作り、人々が楽しめる土地にした。各施設では地域住民自ら震災を伝える展示やイベントを実施し、後世に記憶をつなぐ努力も続けている。

かわまちテラスにあるマップ。ここに名前がある建物がすべて震災後11年で作られるものだと思うと感慨深い(クリックして拡大可能です)
新設された建物と日和山の位置関係

 そうした努力の甲斐あり、閖上は、高校時代まで周辺に住んでいた記者でもワクワクする魅力的な土地になった。初めて訪れる人はもっと新鮮にこの地を楽しめるだろうから、コロナ禍が収まったらもっとたくさんの人に閖上を訪れてほしいと思う。(清)

水産加工品の工場も立て直された
復興メモリアル公園の近くにはクラフトビールの店(宮城ゆりあげ麦酒醸造所)が出来ていた

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