記者の目 / その他

2022/8/1

「感性を開く」オフィス

各所で社員の“気付き”につながる場を設置

 働き方改革の推進、リモートワークの増加で、職場のレイアウト等を見直す動きが各社で進んでいる。最近では、生産性の向上を目指したフリーアドレスの導入、イノベーション創出を図るための交流スペースの設置などの事例をよく目にするようになった。今回は、6月のオフィス移転を機に、社員の「感性を開く」ための仕掛けを多く採用した三菱地所ホーム(株)の事例を紹介する。

◆企業の成長のために必要なことを模索

 同社は本社移転を機に、オフィスの在り方を抜本的に見直した。企業の成長において「社員の成長」が最重要であると捉え、それを促すような空間づくりを目指すことに。「VUCA時代において、ロジックの活用だけで、社会の期待に応え事業成長を図っていくことは困難。市場の変化や社会課題の本質をしっかり捉える感度・感覚機能がビジネスの起点になると考えました」(同社ワーク・イノベーション推進部長・中村和博氏)。また、住宅事業を展開する同社において顧客もまだ気付いていない「自分らしい生き方」を体現する住まいづくりが同社の存続理由であることから、その前段である顧客の意を汲み取り、寄り添う感覚機能が重要であると考えた。「社員の成長を促す上で、今後は『感性を開くこと』が一つのキーになると捉えました。社員の感性を豊かにすることで、主体的に動けるようになり、ワクワクする商品やサービス提供、ブランド価値や長期利益の拡大、ひいては社会課題の解決にもつながると考えます」(同氏)。

 同社は、感性を開くためには、「本物を見る・聞く」「創作する」「自然に触れる」等が必要であると考え、そういったアクションが叶う“気付きにつながる場”を社内に多く設けることとした。また、同社では、事業で国産の木材を多く使用しており、それが強みであると改めて捉え、各所に国産材を用いたインテリア等を配置。社員が国産材に触れる機会を多く設けた。

執務空間(写真はデュアルモニターのある席)
接客スペース。苗木の育成等も行なっている

 なお、新オフィスは、執務空間と接客スペースで構成され、執務空間は、三菱地所グループでは初となる「ABW(Activity Based Working)」を採用。固定席を廃止し、「超集中」「ウェブ会議」「2人作業」といった業務内容に合わせて席を移動できるよう、10タイプの席を用意している。

◆リラックスに特化した空間を創出

原木4本を立てた「リチャージスペース」。自然音のBGMを流しているほか、さまざまな本を用意

 「感性を開く場」の一つが、執務空間内にある「リチャージスペース」だ。社員が知識や知見のアップデートを図る場として、リラックスに特化した空間に仕上げている。構造材に用いられている原木4本を設置し、柱として立てた。床を人工芝で仕上げ、自然音のBGMも流すことで、森にいるかのような空間に仕立てている。木造・木質化の推進に向けたプラットフォーム「KIDZUKI(キヅキ)」のプロジェクトでできた、国産材の端材等を活用したプロダクトを本棚に見立て、さまざまなジャンルの雑誌や書籍を用意(「KIDZUKI」については過去のニュース記事を参照)。ビジネス誌だけでなくファッション誌や絵本等も揃えた。超薄型のデジタルピアノも置いている。

 また、「LABO」と称した空間は、構造材で作ったフレームで囲い、CLTを使用した大型テーブルや構造材を用いた本棚を設置。こちらではビジネスに関連する本を用意した。同社の主力商品である全館空調システム「エアロテック」の現物も展示するなど、同社の住宅事業等で使用している部材や商品を集約している。

◆国産材の会社からのメッセージも掲示

オフィス内で乾燥させる原木と育成する苗木
オフィスの壁面には国産材生産者等からのメッセージが

 接客スペースでは、造林会社の協力を得て、将来的に構造材になる原木の展示(乾燥)や苗木の育成を行なう。数年後に、乾燥させた原木や成長した苗木は造林会社へ戻す予定だ。そのほか、造林会社や木の加工会社の社長等から得たメッセージを壁に記載した。これらは、社員自身の気付きだけでなく、来客に対して同社事業等を紹介する際にも役立ててほしいという狙いもあるという。

 同社は、これらの場や体験をきっかけに社員からユニークなアイディアや企画が生まれることに期待している。「社員一人ひとりが成長することで、イノベーションの創出につながればと考えています」(同氏)。

◆◆◆

 集中して目の前のことをこなすだけでなく、さまざまなヒト・コト・モノに触れることで、感性を磨き、商品企画や社内改革等のアイディアにつなげる。仕事を進める上で、こういった取り組みは非常に重要だが、従来は社員個人の行動に任せるケースがほとんどだった。同社では、そういった取り組みを全面的にサポートしている点が非常に興味深い。

 今後、オフィス改革を進める上では、ペーパーレス化の大きな波に乗じて、収納スペースを思い切って減らし、社員向けのミニ図書スペースやリラックスルームなどを備えるのもいいのかもしれない。また、既存ビルを活用したシェアオフィスの開発等においても有効な提案になりそうだ。(umi)

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ABW

雇用されている人が自分自身で働く時間と場所を決定する働き方。英語のActivity Based Workingの略語。

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