記者の目 / 政策・制度

2023/9/5

「次の関東大震災」に立ち向かうために

 関東大震災から100年の節目である今年は巨大災害、とくに「次の関東大震災」ともいうべき首都直下地震への備えに注目が集まっている。そうした中、内閣府(防災担当)総括参事官として2011年3月11日に発生した東日本大震災の緊急対応に当たった小滝 晃氏が、新刊「次の関東大震災までに何をなすべきか 『3・11』からの教訓」(中央公論新社)を上梓した。現在、国士舘大学 防災・救急救助総合研究所の客員教授を務める小滝氏に、今後の首都防災のあり方について伺った。

◆「最大級の巨大災害」を直視せよ!―『減災』努力の積み重ねを

 東日本大震災で発生した地震・津波災害に対する国や政府の初動対応について、対処に当たった小滝氏は、そこからどのような教訓を得たのか。「一言でいえば、『最大級の巨大災害を直視せよ!』ということです。東日本大震災は日本の社会に対して、近い将来発生するであろう首都直下型地震や南海トラフ地震に対する備えが待ったなし、との事実を突き付けました。今後30年で首都直下型地震等が発生する確率は70%と言われています」(小滝氏)と、巨大災害対策の推進が急務の課題であると語る。

 そして、「今後想定されている巨大な災害に対しては、被害ゼロは不可能という視点に立ち、『減災』の取り組みをいくつも積み重ねていくことが大切」と話す。

◆首都・東京の防災が最大の課題―司令塔はどこに?

 小滝氏は、特に首都・東京の防災まちづくりの重要性を強調する。「東日本大震災でも、阪神・淡路大震災でも、新潟中越地震でも、東京にある政治・経済の中枢機能が司令塔となって被災地を支援してきました。ところが、首都直下地震で東京が大きなダメージを負って、さまざまな機能不全を起こしてしまったら、一体どういうことになってしまうのか。東京の災害に強いまちづくりは、一地方の問題ではなく、日本の災害対策の最大の急所と言えるものなのです」。

◆木密地域での大火災の発生を防げ

 東京での『最大級の巨大災害』を想定する際に、同氏が特に注目するのが木造住宅密集市街地、いわゆる「木密地域」だ【図1】。

【図1】東京都の木造密集市街地・不燃化特区の分布(2021年、東京都ホームページより)

 木造住宅が密集していることから、地震によって火災が発生した際に、最初はボヤ程度でも大規模な延焼火災に拡大する可能性が高い。「阪神・淡路大震災でも、小さな発火が消火できず、次第に大火災となり、多くの命が失われたが、地震によって老朽化した木造住宅が倒壊し、道路が閉塞してしまうと、『あそこで燃えている』と見えていても、消防車などが侵入困難となり、ほどなくして一帯が火の海と化してしまう可能性が今でも十分にある」と語る。

 そこで小滝氏は、「延焼ネットワーク図」を活用した延焼火災対策を提案する。「延焼ネットワーク図」とは、最新の科学的知見に基づき、お互いに延焼する可能性のある建物の中心点同士を線で結んでいくことで、延焼火災が燃え広がる経路を可視化したものだ。木密地域でこの図を作成すると、巨大地震の際の延焼経路が一目瞭然となる【図2】。

【図2】荒川区町屋4丁目の延焼ネットワーク

◆延焼ネットワークのハブの「選択的不燃化」が東京を救う

 小滝氏は、「延焼ネットワーク図を見ると、ところどころに、多くの線が集中している建物があります。これは、延焼ネットワークのハブ(結節点)に他なりません。そうした建物を「集中的に不燃化」(選択的不燃化)すれば、延焼ネットワークをバラバラに分解することができます【図3】。木造密集市街地の全域を不燃化しなくても、そうした建物を選んで不燃化することで、まちが大きく安全になるのです」と語る。

【図3】延焼ネットワークのハブの選択的不燃化の効果(左:選択的不燃化前、右:選択的不燃化後)

◆多様な主体の連携・協力による「マイクロ再開発」がカギに

 そしてそのための「マイクロ再開発」がカギになると話す。「こうした建物を不燃化建て替えするためには、接道条件等の関係から、隣接地との敷地統合が必要になる場合が多い。そのため、そうした数棟の建物群を敷地統合し、ピンポイントで不燃化建替えする事業ができれば、防災上非常に意味があります。市街地全体を全身マッサージするのではなく、ツボ押しする感じの、いうなれば『マイクロ再開発』です」(小滝氏)。

 そうした取り組みを進めていくためには、ハブの認定や建替え円滑化等の行政の取り組みが前提になるほか、地権者をはじめ地域住民の理解協力、民間企業の連携協力の輪を育てることが必要になる。小滝氏は、「カギは、地域密着の不動産会社が握っているかもしれない」とも話す。

◆創エネ・蓄エネで発災直後の負担を軽減

 さらに、小滝氏は、住宅に関係する減災対策として、建築の耐震化・不燃化を進めながら、太陽光発電システムや家庭用燃料電池による「創エネ」、蓄電池や電気自動車のバッテリーを活用した「蓄エネ」の整備を進めることが理想だという。「巨大地震が発生しても建物が無事であれば、そこで『在宅避難』が可能となります。しかし、エネルギーがなければそこで生活することはできず、避難所生活を強いられる。停電しても、自立的な電気を使えれば、食料の保存やスマートフォン等による情報収集などが可能になる。防災行政にかかる負担もグッと楽になり、その分、被災者支援を手厚く展開できることになる」(小滝氏)。

 「それが、なつかしいけど安全な『災害に強い未来都市・東京』のイメージです」と、小滝氏は、燃えないまちづくりへの燃えるような思いを語った。

「東京の木密地域の不燃化を進めてもらいたい」と語る小滝氏
中央公論新社刊、四六版192頁、定価:2,200円(税込み)

◇◇◇

 言うまでもなく、防災は喫緊の課題だ。小滝氏の話を聞く中で、以前東京郊外の不動産会社社長と話した際、「いまの木密地域は、道路が狭く消防車が通れない道が多いし、そもそも消火栓が整備されていない地域も少なくない。一度根本から見直さないといけない」と話していたことを思い出した。

 そうした都市の防災まちづくりは行政だけの仕事ではなく、地域に存在する住民・企業・行政が連携して取り組まなくてはならない。そこで最もまちに精通している、地域密着の不動産会社の力が必要になってくるのではないだろうか。(晋)

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