「8つの提言」まとめた自民・井上信治議員に聞く
今や社会的問題にまでなっている「空き家・空き地問題」。2015年施行された「空き家対策特別措置法(空き家特措法)」を機に特定空き家の除却や「空き家バンク」による空き家流通などが全国で進んでいるものの、社会的問題を抱える空き家数は340万戸ともいわれ、その除却や有効活用加速は喫緊の課題だ。そうした中で、自由民主党政務調査会 住宅土地・都市政策調査会の中古住宅市場活性化小委員会(委員長:井上信治衆議院議員)が今年5月、空き家・空き地問題解決に向けた「中間とりまとめ」を発表した。同とりまとめに盛り込まれた「8つの提言」の意義や今後の空き家政策について、井上委員長に話を聞いた(聞き手:「月刊不動産流通」編集部)。
増え続ける空き家の「抑制」に重点
――今回の中間とりまとめに至る経緯を。
「当委員会では、2015年5月、中古住宅市場活性化に向けた8つの提言を発表し、その中に空き家対策も盛り込んだ。この提言をまとめた時私は事務局長だったが、かなり意欲的な内容で、盛り込んだ内容を関係省庁とともに実践してきた。その後、私は委員長としてさらなる政策検討を進める立場になったが、単純に2年前のフォローアップをするのでは意味がないと考え、前の提言の中で最も重要度の高い『空き家問題』に焦点を当てることにした。
空き家問題はすでに全国どこでも深刻であり、今なおその数が増え続けている。仲間の国会議員達からも、この問題にしっかり取り組んでほしいという要望も多かった。また、空き家だけでなく空き地についても取り組んでほしい、という要望もあり、両方含めた形で議論を重ね、関係者からのヒアリングなども参考に8つの提言(別掲)としてまとめた。
実は、委員会内で空き家・空き地政策に係る課題をピックアップしたところ、20を超えた。そんなに総花的に提案しても、成果が上がらなければ意味がない。そこで、重要性の高いもの8つに集約した」
――提言の中で、最も重要と考えているものは?
「空き家・空き地対策は、大きく3つに分類できる。まず『発生の抑制』、次に『利活用』、そして『除却』。この中で、最も重要なのが『発生の抑制』だと考えている。空き家は既に、利活用できるものも含めれば820万戸を超えており、このまま放置すれば10年で倍になるという予測まである。その意味で、今回の提言では『抑制』に一番力を入れている」
――具体的には?
「提言1の『所有者情報の開示』については、数年前から多くの不動産流通事業者から地方自治体の固定資産税課税情報を活用できれば、空き家対策にさまざまな協力ができるという要望を受けていた。すでに空き家特措法によって行政内部では活用できるため、外部の事業者に提示してもらえるよう、総務省に掛け合った。
当初同省は、個人情報の第三者開示などを理由に強硬に難色を示していたが、粘り強く議論を重ね、さらに開示に関するさまざまな条件を設けたうえで開示を認めてもらい、国土交通省からガイドラインを出すことができた。ただ、ガイドラインは出せたものの、自治体の多くがトラブルを恐れてまだ様子見の段階。今後は、優良事例をどんどん集め、自治体に活用を促していく」
――情報開示に関しては、空き家・空き地の所有者など、国民の理解も重要では?
「個人情報の開示について不安を抱く消費者がいるのは当然であり、だからこそ利用できる団体を決めるなど、二重三重の条件を付けている。また、情報開示にあたっては、固定資産税だけでなく、相続の情報なども活用できないか、提言に盛り込んでいる。空き家発生と相続は密接な関係があり、両者がリンクできれば空き家発生抑制に相当の効果が期待できる」
実費ぐらいはペイできる仲介手数料に
――空き家・空き地の「利活用」については?
「提言2に盛り込んだように、空き家・空き地バンクや不動産総合データベースの整備などで、空き家・空き地に係る情報整備をしっかり進めていく必要がある。空き家バンク事業に取り組む自治体は増えてきたが、まだまだ数が少ないし、自治体個々に限定せず、より広域的なものにしなければ、消費者は使いづらい。すでに、『全国版』の構築に向け、今年度予算にも盛り込んでおり、早期に実現したい。
不動産総合データベースについては、2年前の提言にも盛り込んだ。不動産に関連する情報は、レインズを筆頭にさまざまなデータベースがあるが、災害危険区域などの防災情報や都市計画に係るさまざまな規制情報などが一元化して閲覧できれば、不動産流通事業者だけでなく国民にとっても極めて使い勝手がいいものになるはずで、できるだけ早く実現すべきだと考えている」
――提言5では、空き家流通に係る媒介費用の適正化(増額)について盛り込んでおり、不動産流通事業者は注目している。
「仲介手数料のあり方については、『低額物件を引き上げるのであれば高額物件は引き下げろ』『低額物件だけでなく全体を見直せ』『半世紀もそのままというのはおかしい』などさまざまな意見があり、そこに踏み込むことは非常に難しい。ただ、空き家・空き地の流通促進に関しては可能と考えた。
空き家は基本的に低額物件だから、今の手数料率だと実費さえ賄えない。仲介すればするほど赤字になるのでは、事業者もモチベーションが上がらない。やはり、低額物件に関しては少なくとも実費ぐらいはペイできるような手数料の設定は必要だ。空き家所有者の側に立っても、そのほとんどが空き家の処理に困っており、『タダでもいいから処分してほしい』という人も多い。そういう事情であれば多少負担が増えたとしても問題がないと考えられる。すでに、国土交通省との間で具体的にどうしていくか調整しており、今夏には打ち出せる見込みだ。
仲介手数料全体の問題については、流通コスト全体の在り方にも留意しながら、将来の課題として認識していく」
――今回の提言は「中間とりまとめ」という形だが、今後「最終とりまとめ」のようなものはあるのか、また、今後の具体的な政策実現に向けて、委員会としてどのような活動をしていく予定か?
「まずは、今回の提言に盛り込んだ内容を、すぐできること、すぐやらなければいけないこと、今後数年かけてやることに分け、それぞれフォローアップしながら新しい課題に取り組んでいく。
短期的には、前述した手数料の問題や、提言3に盛り込んだ空き家活用を阻害する建築規制の見直しについては、国土交通省に早く見直すよう指示しており、夏までには目途をつけられると思う。
今後は、空き家だけでなく空き地対策も進めなければならないが、空き地についても新法を作るべきか、また空き家特措法を改正して空き地対策も盛り込むかといったことを考えなければならない。提言それぞれでタイムスパンは違うが、業界の皆さんの話を聞きながら、政府とも調整しながら継続して取り組んでいく」
――今回のとりまとめは、自民党の中ではどういう位置づけになっているのか?
「当とりまとめは、住宅土地・都市政策調査会の了承をもらい、5月18日に政調会で認めてもらったことで、党全体の提言となっている。すでに石井啓一国土交通大臣には、党から政府への提言という形で政策を進めてくれとお願いした。また、石原伸晃経済財政担当大臣にも、成長戦略にぜひ盛り込んでほしいとお願いし、提言のエッセンスが盛り込まれることになっている」
地域に根差した不動産事業者の役割に期待
――今回の提言を実現化していくうえでの課題は?
「空き家・空き地政策は、自治体の役割が非常に重要だ。政府として法律や枠組みは用意するが、それを実際に動かすのは自治体。しかし、自治体間で温度差が相当ある。やる気のある自治体と協力して、成功事例や先進事例を集めていくことで、他の自治体の政策に波及させていくべきだろう。
また、各地域に根差した不動産事業者の役割も大きい。政策は国や自治体が中心となり進めても、それを国民・利用者へ繋いでいくのは事業者の皆さん方だ。空き家の流通は、正直儲かる仕事ではないかもしれないが、そこに携わる中で別のニーズが掘り起こせれば、新しいビジネスに繋がることもある。地域貢献の意味もある。空き家問題は、地域の治安や景観、防災問題でもあり、地域を良くするためにも、地元に根付いた事業者の方々には積極的に携わってほしい」