記者の目 / リフォーム

2023/9/13

空き家を「バイク女子」向けシェアハウスに

 全国各地で空き家の増加が問題となる中、独自のアイディアで空き家を再生するケースも増えてきている。そんな中、築60年超の空き家を「ガレージ付き」女性専用シェアハウスへと改修、収益物件化した事例があるという。京急グループでリノベーション事業を手掛ける(株)Rバンク(東京都目黒区、取締役社長:小石哲也氏)取締役の金子智美氏に、事業の経緯や改修工事のポイント、竣工後の反響等について聞いた。

「&ガレージ 日比谷line 南千住」外観。左がガレージ

バイク需要の高まりに商機見いだす

 依頼者は東京都荒川区等で複数のビルを管理する不動産管理会社。賃貸運用を目的に荒川区内の戸建住宅を購入したものの、建物は築年数が経過しており、設備の劣化のほか、2階部分の床面は傾斜が発生していた。運用に当たって改修は必須だったが、借地のため大規模な工事は難しく、適切な利活用策が見つからないまま空き家と化していた。そうした中、メディアでRバンクの存在を知り、リノベーションを依頼した。

従前の2階居室。床面は経年劣化し傾斜が発生していた

 物件は、JR常磐線・東京メトロ日比谷線「南千住」駅より徒歩10分に立地。Rバンクは、得意とする女性専用シェアハウスへの再生・運用が最適だと考えたが、長期的に高稼働を維持するためには新たな付加価値も必要だと判断。「エリア特性を紐解くと、物件至近には日光街道をはじめとした幹線道路があるほか、『南千住』駅前にはバイクや自転車ショップ、ホームセンター等が点在。バイカーが集まるカフェもある。さらに物件は小道を入った隠れ家的な立地であり、ガレージを付帯すれば、バイク等を保管する『基地』が欲しいユーザーに『刺さる』と考えました」(金子氏)。

従前の1階浴室。タイル張りの壁面や浴槽には汚れが目立つ
1階トイレ

 また同社は、コロナ禍以降、個人向けバイク需要が高まりを見せていることに注目。今後、駐車スペースのニーズも高まることを考え、「ガレージ付き賃貸事業」に参入することを決定した。同物件を初弾に位置付け、改修工事に着手。23年1月に「&ガレージ 日比谷line 南千住」として運営をスタートした。

 事業スキームは、同社がオーナーから物件を借り上げ、または運営委託契約を締結し、市場調査やターゲット設定、改修・改装・家具のコーディネートを行なった上で、シェアハウスとして運営するもの。対象物件は戸建て、長屋、ビル等。オーナーによる費用負担が困難な場合は、京急グループが工事費用を全額負担でリノベーションする「カリアゲ―ル」も提案する。

和室をガレージに変更。既存の柱を撤去し、ゆとりある空間に

 「&ガレージ 日比谷line 南千住」は、敷地面積85.35平方メートル、延床面積81.37平方メートル、木造地上2階建て。総戸数は4戸で、専有面積は7.5~9.9平方メートル。躯体・基礎の改修はなし。2階に居室、1階に共用部を配置した。

 2階の居室部分は、従前の間取りを最大限生かしつつ、一部押し入れを取り払う等して、要件となる専有面積を確保。代わりにオープン収納やパイプハンガーを新設し、生活利便性を高めた。床面の傾斜は補強工事により解消。床材は無垢材に張り替え塗装を施した。また「シェアハウスとして運用するには電気容量がかなり不足していたため、容量変更工事を行なうと共に、配線およびコンセントを拡充しました」(同氏)。

2階居室(03号室)。居室はすべて家具・家電付き
2階居室(04号室)では既存の収納を生かしている

 1階は、従前の居室部分を共用のダイニングキッチンに変更。電気配線も整え、電化製品や食器類、それを収納する棚なども揃えた。浴室はシャワーユニットへと取り換え、従前トイレがあった場所には洗濯機を配置している。

1階キッチン。家電・食器類を収納する棚も設けた
1階ダイニング
従前トイレがあった場所に洗濯機を配置。奥まったスペースのため稼働音が気にならない
1階トイレ(右)と浴室(左)

 和室は広さ約12㎡のシェアガレージへと改修。既存の壁面・開口部を取り払い、シャッターを新設した。「建物の基礎部分の一部を切り取り、地上面とのレベル合わせを実施。バイクをスムーズに出し入れできるようにしました」(同氏)。内部の柱は撤去し、代わりに天井部分を補強。耐震性を確保しつつ使い勝手の良い空間としている。壁面にはラックを新設し、ヘルメット等のバイク関連のグッズのほか、季節物の洋服や靴、スポーツ・アクティビティ用品等をディスプレイできるようにしている。

シェアガレージでは、バイクや自転車を収納可能。月額料金は6,000円

「趣味の生活」志向するユーザーから反響

 改修費用は約1,000万円(家具・家電込み)。賃料は4万9,500円~6万1,000円(共益費1万7,000円)と、周辺の同規模の物件よりも2万~3万円ほど高額だが、同社の狙い通り「これからバイクを購入し趣味の生活をしたい」というユーザー等から引き合いがあり、現在、4室中3室が成約済みだ。改修費用は運営開始から4年で回収できる目算。オーナーも、利活用に苦慮していた建物が人気物件へと生まれ変わった上、定期収入が得られることに大変喜んでいるという。

 今後も積極的にガレージ付き賃貸物件を展開していきたい考えだ。

◇ ◇ ◇

 同社では女性専用シェアハウスを「Rシェア」というブランドで展開しており、今回の物件もその一つ。ブランド全体の稼働率は約9割を維持するなど好調だ。

 通底する付加価値は、入居者同士の「コミュニティ」形成を支援するスペース。例えば 「la femme西永福」(東京都杉並区、総戸数6戸)では、敷地内に菜園スペースを設置。「練馬okeikoちゃん家」(東京都練馬区、総戸数16戸)では、入居者がイベントや作業スペースとして利用できる「okeiko room」を備えている。今回の「シェアガレージ」も、コミュニティの核となるスペースという位置付けだ。今後の新たなアイディアにも期待が膨らむ。(丈)

※写真提供:(株)Rバンク

この記事の用語

シェアハウス

複数の居住者・家族が一定の生活空間を共用する住宅をいう。一般に、台所、浴室、居間などを共用し、居住者同士のコミュニケーションが生まれることとなる。賃貸住宅として供給されているが、居住スタイルの選択肢の拡大に応える住宅形態のひとつである。

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