『月刊不動産流通』2026年8月号の「流通フラッシュ」にて、地域の不動産事業者が既存ストックを活用し、人を呼び込む宿泊施設に仕立てた事例を取り上げた。今回はその番外編として、誌面では紹介することができなかった、オフィス・店舗仲介をメインに事業を展開する(株)CSA不動産(静岡市葵区、代表取締役:小島孝仁氏)の「ビル泊」について詳報する。
◆客室はゆとりの空間を確保。中長期滞在にも対応
「ビル泊」は、JR「静岡」駅前の商店街に点在するビルの2階以上、いわゆる「空中階」の空き区画を同社がリノベーションし、宿泊施設として活用するプロジェクトとして、20年にスタートした。現在は6つのビルに10室の施設を運営している。
客室の広さは30平方メートル台半ばから、広いものでは100平方メートル近いものまであるなど、一般的なビジネスホテルとは異なる多様な仕様となっている。キッチンや洗濯機、複数のバスルーム・トイレなどを備えた部屋もあり、家族やグループでも利用しやすく、中長期の滞在にも対応している点が特徴だ。
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◆プロジェクトの背景に、複雑に絡み合った課題
同プロジェクトが生まれた背景を紐解いていきたい。同商店街には、1階の店舗を通り、奥にある階段からしか上階へと行けない構造になっている“昔ながらの建物”が多く、1棟を丸ごと貸すスタイルが主流だったという。家賃は高いが、それでも「20年ほど前であれば、例えばテナントが6ヵ月後に退去することになっても、退去までには次のテナントが決まっていました」(同社執行役員企画部部長:赤澤宣明氏)。
しかし、ECサイトの台頭など時代の流れとともに物販店自体が減少したことに加え、家賃の高さから徐々に借り手がつかなくなっていった。今では、高い家賃でも支払えるコンビニエンスストア、宝石店、ドラッグストアの計3業態の出店比率が高く、個性的なお店は商店街から失われてきているそうだ。
さらに、エレベーターがなく階段も狭い古いビルの上階は、美容室やサロンなど、そこを目的地にユーザーが訪れるような業態の店舗以外は借り手がなくなり、徐々に空室が目立つように。
「では、ビルを建て替えて更新を図ればいいのでは?」と思うだろうが、それも容易ではない事情がある。この地域の建物は、1960年代に防火建築帯として整備されたもの。長屋のように横に連なり、区画ごとに異なるオーナーがいるという権利関係の複雑さが、建て替えを阻んでいた。
それゆえ、建物を建て替えることなく、現況のままで空室の解消を図らざるを得ないわけだ。
◆まちの活気を維持するため「外から人を呼び込む」
そこで同社が着目したのが、空室をリノベーションし宿泊施設に仕立てることだった。同社には、このままではまちの活気が失われていくという危機感があった。赤澤氏は、「静岡市は、政令市の中で最も早く人口減少が始まりました。この流れを止めるのは大変なこと。まちの活気を維持するためには、外から人を呼び込むしかないと思ったのです」と明かす。
“勝算”もあったという。静岡は歴史的に「商いのまち」として発展してきたことから、観光客の誘致にそれほど目を向けてこなかった。宿泊施設と言えば、出張客をターゲットにしたビジネスホテルや旅館などが大半を占め、観光やレジャー目的の宿泊客向けのホテルは圧倒的に不足。一方で、全国的に旅行需要やインバウンド需要は拡大を続けており、「レジャー向けの宿泊施設を整備すれば、人は必ず来るはずという見込みはありました」(同氏)。
◆グループ観光客やインバウンドからニーズ。地元からの利用も
開業当初はちょうどコロナ禍と重なり苦戦したというが、コロナの落ち着きとともに旅行需要も回復。現在の客室数は10を数えるまでになっているが、運営を続ける中でニーズを分析、利用者の声を反映し、客室に洗濯機を設けたりキッチンを備えたりなど、アップデートを図ってきたことで運営も軌道に乗ってきているという。
宿泊客は、3~4人のグループ観光客がボリュームゾーン。客室は駅から徒歩5~12分と駅近という利便性もあり、インバウンドの利用客も着実に増加しており、「ビル泊」の客室を“拠点”に、新幹線移動を利用し東京や関西をめぐる長期滞在客が多く見られるそうだ。また「非日常的な空間で特別な日を過ごしたい」と、地元の人が大人数で利用するケースも最近は増えてきているという。
「稼働状況は好調と言えると思います」と同氏。同社では今後も、「ビル泊」の客室数を増やしながら、より多くの人をまちに呼び込むことを目指している。
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「ビル泊」は、まち自体が観光客の誘致にあまり目を向けてこなかった点を逆手に取り、かつ近年の旅行需要の拡大を冷静に捉えたのが成功につながったプロジェクトと言えよう。他の地方都市でも参考になるのではないだろうか。
加えて、同プロジェクトは、「人口流出によりまちから活気が失われていく…」という同社の危機感から始まったもの。「ピンチはチャンス」とよく言うが、危機感が新たな事業のヒントになることもあるはずだ。
また、先に述べた『月刊不動産流通』2026年8月号も併せてお読みいただけたら幸いだ。(木)


