記者の目 / 開発・分譲

2011/6/17

震災後のマンション、関心は「防災・被災時対応」へ

野村不動産、「プラウドシティ稲毛海岸」のマンション分譲開始

 住戸中心の開発で、ここまでのピックプロジェクトはいつ以来のことだろうか…。野村不動産(株)が、千葉県美浜区稲毛海岸の土地、約7.7haにて進めてきた、マンション555戸・一戸建て265戸の計820戸を開発する「プラウドシティ稲毛海岸プロジェクト」。このほど、このマンション部分の分譲を開始した。  未曾有の震災を経て、経済の悪化も懸念される中での分譲開始だったが、第1期販売分である222戸は即日完売となった。  販売に先だって、マスコミ向けのプロジェクト説明会が開催されたので、この物件の人気の秘密を探ってきた。

「プラウドシティ稲毛海岸レジデンス」完成予想パース
「プラウドシティ稲毛海岸レジデンス」完成予想パース
配置図。マンション棟は、西北方向に「レジデンス ザ・コースト」(130戸)、北東方向に「レジデンス ザ・ガーデン」(179戸)、「レジデンス ザ・フォレスト」(246戸)を配置。
配置図。マンション棟は、西北方向に「レジデンス ザ・コースト」(130戸)、北東方向に「レジデンス ザ・ガーデン」(179戸)、「レジデンス ザ・フォレスト」(246戸)を配置。
コミュニティ形成の工夫のひとつ。「ママズラウンジ」。キッズルームの横に、ママたちが集える空間を設置した
コミュニティ形成の工夫のひとつ。「ママズラウンジ」。キッズルームの横に、ママたちが集える空間を設置した
非常時に向け(左)マンホール設置型トイレ、(右上)かまどべんち、(右下)災害用井戸など を設置している
非常時に向け(左)マンホール設置型トイレ、(右上)かまどべんち、(右下)災害用井戸など を設置している
モデルルームには、災害用備蓄品なども展示されている
モデルルームには、災害用備蓄品なども展示されている
100平方メートルタイプのモデルルーム。この部屋のほかに、80平方メートルタイプのモデルルームも用意されている
100平方メートルタイプのモデルルーム。この部屋のほかに、80平方メートルタイプのモデルルームも用意されている

戸建てエリアに絶対高さの制限を設ける計画

 JR「東京」駅よりJR京葉線で直通35分の「稲毛海岸」駅。ここから徒歩17分の地に開発地はある。幕張新都心にもほど近い、いわゆる湾岸エリアだ。国家公務員宿舎跡地約7.7haという広い計画地は緑豊かな住宅地に立地し、小学校や保育所も近接している。なお今回のプロジェクトでは商業施設(スーパーマーケット)も一緒に開発されため、生活環境としては非常に優れている。

 地形は直角三角形に近い形で、その短辺と長辺にマンションがそれぞれ建ち、その前に戸建てエリアが広がるような配棟計画。戸建てエリアには、絶対高さの制限を設けた地区計画が定められる予定で、それにより将来にわたって十分な日照、広い眺望確保が約束される予定である。

 こうした環境が評価されてか、モデルルーム来場者のなかには物件の購入自体を決断している人が多いという。「戸建てについての詳細はまだ公表していないが、非常に関心は高く、問合せは多数受けている。『マンションか戸建てかで悩んでいる』という方も多い」(同社住宅カンパニー住宅営業一部副部長・笠原一俊氏)とのこと。

特徴は、「コミュニティ形成」、そして「防災・被災時対策」

 本物件では環境対策、セキュリティ対策など、さまざまな策は導入されているが、最大の特徴は、コミュニティ形成に向けたさまざまな工夫と、防災・被災時の対策であろう。

 コミュニティ形成に向けた工夫では、日本女子大学教授の篠原聡子教授と産学協同で、コミュニティに関して研究、調査をまとめ、それを生かした、“人と人をつなぐための仕かけ”をまち全体に配置している。
 例えば「チャットパーク」。人が集まれば会話が生まれる。しかしマンションのエントランス正面で人がたまるのには抵抗を覚える人も多い。そこで、メイン動線を避けて立ち話ができる空間を設置する、といった具合だ。

 また「特に力を入れたのは、中心購入者層となる20~40歳代のファミリー層を意識した、親子間の絆を深めるコミュニティ手法」(笠原氏)とのことで、その中の一つが(株)東京ガス、(株)アーバンコミュニケーションとの連携により実施する「私の森プロジェクト」(http://www.tokyo-gas.co.jp/myforest/)だ。まちの一角に、住民の手で木々を植えて育てていくという試みで、合わせて、みんなで選んだ樹を植える空間を用意し、ここにみんなで樹を植えて、クリスマスなどに飾り付けを行なうことで、まちへの愛着を育てる、というものだ。
 その他、砂場のそばには大人のいられるベンチなどを用意する「集まる砂場」、キッズルームに隣接して、お母さん同士が気兼ねなくおしゃべりできる空間を設ける「ママズラウンジ」など、実にたくさんの工夫を取り入れている。

 そして「防災・被災時対策」。東日本大震災直後の“今”、防災対策、そしていざ災害が発生したときへの備えへというものに関心が高まっている。
 本物件では、耐震仕様ドア枠(ドアが変形しても開閉可能)・キッチン棚における「耐震ラッチ」の採用のほか、災害用井戸やかまどベンチの設置、マンホール設置型トイレの装備など、地震発生時・地震発生後へ備え、さまざまな設備を導入している。
 「震災前、消費者は『耐震性』に高い関心を持たれていましたが、震災後はその関心が防災や災害対応に移ったように感じています。今は耐震性能はあって当たり前、という感覚でしょう。そうした方にとって当プロジェクトは高い関心を持って受け入れられているようで、現場では大きな手応えを感じている」(同氏)という。

坪単価121万円!、81平方メートル・2,900万円が中心

 ちなみに当該プロジェクトの立地である千葉市美浜区は、液状化の被害が発生した地域である。記者発表当日もその点に関する質問が多数寄せられた。
 その点について笠原氏は 「くい打ちしていたうちの1ヵ所で水が少し出た以外は、影響がまったくなかった」と回答。確かにこの地は埋立地とはいえ、かなり内陸側にある。今回のプロジェクト工事スタート後には土壌の入れ替え、必要な地盤改良も実施していたことから、被害はないに等しかったようだ。

 ちなみにモデルルーム来場者から不安の声は受けていないのか?との問いには「来場者の多くが千葉市在住者であることから、この辺りはさほど被害を受けなかったことはすでにご存知の様子で、不安の声や質問を受けることもさほど多くはない」(同氏)とのことであった。

 平均専有面積は81平方メートル、最多価格帯2,900万円台。坪単価は121万円と非常に値ごろ感のある設定だ。記者の間からも「安い!」と驚きの声が多数あがっていた。
 「土地の仕入れがリーマンショック後であったため、比較的安く仕入れられ、この価格を実現できた」(同社上席執行役員・山本成幸氏)とのことだが、この価格のインパクトは、消費者に対しても相当なものだ。

 モデルルームオープンまでに、すでに約3,000件に及ぶ資料請求・問合せを受けたと言うから、大反響といえよう。来場者は子育て世代の20~30歳代、世帯主年収は400万~500万円台が中心と、同社の狙い通りだ。

 「この物件は当社にとって、震災後を占う“試金石”となる物件」と山本氏は語っていたが、先日第一期の販売が行なわれ、第1期販売分である222戸は即日完売であった。「震災後」は、マンション市況においては、もう過ぎたことなのかもしれない。(RN)

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