海外トピックス

2011/8/22

vol.185 掃除魚

トラックに満載された大型ゴミ(?)はおおかたメキシコ人によってリサイクルされる(イリノイ州シカゴ市。以下同)
トラックに満載された大型ゴミ(?)はおおかたメキシコ人によってリサイクルされる(イリノイ州シカゴ市。以下同)
街角で冷たい飲み物を売るメキシコ人。サインはスペイン語
街角で冷たい飲み物を売るメキシコ人。サインはスペイン語
屋台は午後から出る。客も大多数はメキシコ人だ
屋台は午後から出る。客も大多数はメキシコ人だ
サトウキビやココナッツジュース売り。パパイアなど南の国の果物がならぶ屋台。色彩もメキシコ的でカラフル
サトウキビやココナッツジュース売り。パパイアなど南の国の果物がならぶ屋台。色彩もメキシコ的でカラフル
ランドスケーパー達は芝刈り機やほうきなどを積み込んだ大きな車でやってくる
ランドスケーパー達は芝刈り機やほうきなどを積み込んだ大きな車でやってくる
ランドスケーパーのボス。メキシコ人だ。数多くの若いメキシコ人達が働く
ランドスケーパーのボス。メキシコ人だ。数多くの若いメキシコ人達が働く

早朝、裏通りには粗大ごみ等を満載したトラックが…

荷台から溢れんばかりの廃品の金物を載せたぽんこつトラックが早朝の裏通りを行き交う。乗っているのは例外なくメキシコ人で、ゴミ箱の脇に捨てられた大型ゴミ、とりわけTVやコンピューターなどの金属部品が目当てだ。週に1度のゴミ回収車が来るまで、箪笥やらベッド、掃除機などがゴミ箱の脇に放置されるが、多くの品々はメキシコ人達によって廃品回収リサイクルされるのである。 彼等は仕事に出かける前にトラックでゴミ箱が並ぶ裏通りをぐるぐる回るらしく、早朝以外はめったに見かけない。彼等にとっては元手いらずの商売だし、ゴミが再生されれば捨てる側は気が休まる。 珊瑚礁での「掃除魚」、つまり、互いに利益を得て共生する関係が連想される。

庭仕事もメキシコ人たちの領域に

“ランドスケーパー” もメキシコ人が圧倒的に多い。春先には硬くなっている土を耕したり、夏の芝苅り、秋は落葉はき、冬は雪かきなどの庭仕事…。以前はその家の誰かがやっていたものだが、今はランドスケーパーと呼ばれるサービス業者が請け負う。 安い賃金と肉体労働にもかかわらず言葉をしゃべる必要がないためだろうか、中古のトラックが1台と芝刈り機があれば始められる仕事なので、一生懸命働いて、うまく軌道に乗ればメキシコから助っ人を呼び寄せて、やがては多くの人を使ってランドスケーパー会社のボスにおさまったメキシコ人成功者も珍しくはない。 昼には歩道のわきで輪になって、大きなランチボックスからトルテラ(トルティーヤ)や豆料理などを分け合ったり、ポータブルのコンロで料理を暖めたり…、仲間同士で食事時間は和気あいあいと本当に楽しそうだ。

肉体労働は他人に任せ、自らはスポーツジムへ

庭仕事に加え、家の掃除も他人に任せる人が圧倒的に増えた。きれい好きと定評のあるポーランド人は「クリーニングレディ」と呼ばれる職種で成功している。車に掃除機、掃除用の洗剤、タオルなどを積み込み数人のチームでやってきて掃除をする。2週間に1度の契約で、1時間か2時間で掃除機をかけ、トイレや風呂場、台所の掃除をすませる。1回の掃除で3,000円から5,000円が相場だろうか。周囲を見回すと、自分で掃除をする人達は驚くほど少なくなった。 どうもアメリカ人は身体を使う仕事を他人に任せる傾向があるようだ。その結果からか、運動不足に悩む人達でジムのエクササイズ器械は昼間から満杯。走ったり、ウェイトを担いだり、動かない自転車をこいだり…。これは都会だけかもしれないが、ふだん長時間働いてはいても、その仕事は1日中コンピューターに向かっていたり、ミーティングばかりしている人が多く、身体を動かしたり歩きまわる仕事は少ない。

社会の底辺を支えている不法移民たち

アメリカには数えきれないほどの不法移民が滞在している。これまで述べたランドスケーパーやクリーニングレディの中にも大勢の不法移民が働いていると思う。彼らへの支払いは現金、レシートなし。身体を酷使し、安い賃金ではあっても、それで家族がなんとか暮らしてゆける。 不法移民についての是非は置いておくとしても、彼等がアメリカ人の嫌がる仕事を肩代わりしているのは確かだ。時折、アメリカ人の仕事を不法移民にとられる、不法滞在者を追い出せ!という論議がカリファルニア州やアリゾナ州で起きるが、お互い持ちつもたれつの関係だから、声は弱々しく、いずれ途切れてゆく。

後発が先発を押し上げ、つくり上げてきた「移民国家」

後発の移民達は、先発アメリカ人達が嫌がる仕事を引き受けて、次第にアメリカ社会に同化してゆく。昔、イギリスやフランスからやってきた最初の移民達は現在ではアメリカ社会の中核となり、その後19世紀末から20世紀始めにかけてイタリア、アイルランド、東ヨーロッパ、中国からの移民がどっと流入した。精一杯働いた彼等はすでに二世三世となって立派なアメリカ人。 1960年代以降はベトナムやタイ、カンボジアなどの難民、政治混乱からロシアや東欧諸国からの流入民、キューバやメキシコなどラテン系の国々からの移民が続いてやってきた。そして彼等は手に入る仕事なら喜んで受け入れて精一杯働き、先発の移民達を押し上げる形となる。 バイタリティに溢れるアメリカ社会を観察すると、イソギンチャクとクマノミ、ホンソメワケベラやハゼなどの掃除魚など、双方が利益を得る「相利共生」の生態が重なり合う。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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