2040年までにカーボンニュートラルを目指すオーストリアの首都、ウィーン。ウィーン市はこの目標を達成するために、産業、発電、建築等の項目を設け、ロードマップを設計した。その中で最重要視されているのが、モビリティだ。
市内の自動車の交通量を減らすことが、都市のカーボンニュートラルの達成には不可欠だが、過去何十年にもわたって築かれた交通網を一朝一夕で変えるのは至難の業だ。ウィーン市では、2022年に市内駐車場の一律有料化を導入したほか、2023年から2025年にかけて徐々に車道を減らし、代わりに自転車専用道や街路樹を増やす工事が進められている。
2年間で50以上の関連プロジェクトが予定され、20キロメートルの自転車専用道が新設される工事が進められている。また、既存の自転車道の幅を広げ、一方通行から対面通行にして通りやすくするなど、自転車交通網の全体的な見直しが図られる。これにより市内の7割の自転車道は、自動車交通から構造的に分離された専用レーンとなる。
「自転車ハイウェイ」の創設
ウィーンの自転車交通網の要となるのが、「自転車ハイウェイ」だ。市を北西から南東に斜めに横切るこの自転車専用道が完成すれば、ウィーン市民だけでなく、市外の住民がウィーン市街地へ、安全でスムーズに自転車で通勤、通学することが可能となる。これにより、郊外からの自動車乗り入れが減り、市内の交通量の減少が見込まれている。
「自転車ハイウェイ」計画の要は、自転車道と車道の構造的な分離と、既存の自転車道の拡張だ。自転車が車道を走る必要を極力減らし、幅広い自転車道を整備することで、安全性と利便性の両方を実現することが目的だ。
2023年秋には、この「自転車ハイウェイ」構想の第一段階として、ウィーン北西部からドナウ川を渡り、街の中心部まで向かう、幅4メートル、長さ7キロメートルの自転車専用道が完成した。2024年には、このハイウェイをさらに北西と南東に延長し、ウィーン市外からの直接の乗り入れを目指している。
自転車を取り巻くインフラの充実
自転車を通勤、通学の足として使う人たちが必要とするのは、専用道路だけではない。途上のパンクや修理などに対処できるよう、セルフサービスステーション「自転車工房」が、ルート上の各地に100か所以上新設されている。タイヤに空気を入れたり、ねじの調整を行ったりといった自転車のセルフメンテナンスが可能なほか、タイヤやパーツの自動販売機も設置されている。
また、ウィーン交通が運営するレンタル自転車「ウィーンモビル」が、街のいたるところにあり、30分0.75ユーロ(約128円)、もしくは1年間59ユーロ(約9500円)で利用が可能だ。自転車を持っていない学生や観光客、ウィーン市外に住んでいる人でも、気軽に利用できる。地下鉄や電車への自転車持ち込みも、平日昼と夕方以降、土日祝日は可能なため、公共の交通機関とレンタル自転車の組み合わせも可能だ。
自転車レーンの周りには、緑や市民の憩いの場を増やす活動も行われている。「自転車ハイウェイ」の周りは、新しく植樹され、遊び場やベンチなどの設置される予定だ。自転車運転の途中で、気軽に座って休憩することもできる。
自転車を取り巻く教育
将来を見据えた教育として、学校や幼稚園では、モビリティに関する授業が定期的に行われている。ウィーンの学校では、小学3,4年生になると、自転車の装備や交通規則の授業があり、実技と筆記試験に合格すると、大人の付き添いなしで自転車で公道を走ることができる、自転車免許証が発行される仕組みとなっている。
環境とモビリティの街、ウィーン。車道や駐車場を減らすことで、 自動車乗り入れ数を減らし、 自転車専用道や関連設備の充実を通して、 自転車利用のハードルを下げる。同時に、緑を増やし、 自転車教育促進することにより、 将来的な環境への配慮を強化する。こうしてウィーンは、 2040年までのカーボンニュートラル達成へのロードマップを、 着実に歩んでいる。
御影実
2004年からオーストリア・ウィーン在住。国際機関勤務を経て、2011年より執筆と輸出入事業経営を手掛ける。世界45カ国を旅し、様々な旅行媒体にオーストリアの歴史、建築、文化、時事情報を提供、寄稿、監修。ラジオ出演、取材協力等も多数。掲載媒体は、『るるぶ』『せかたび』(JTB出版社)、サライ.jp(小学館)、阪急交通社などの旅行読みものや、日経BP-DUAL、プレジデントウーマン、時事通信、『家の光』などの社会情勢分析。執筆協力は『ハプスブルク事典』(丸善出版)、『びっくり!!世界の小学生』(角川つばさ文庫)等。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。