海外トピックス

2017/4/6

vol.319 ぜい肉を減らしてスリムな暮らしを:収納を考え直す

選び抜かれた品だけが置かれているアーティストの友人宅のダイニングルーム。(オランダ アムステルダム市)

 アーティストやデザイナー達のインテリアに共通するのはすっきりした空間である。しかし部屋に何も置いていないわけでは決してない。

 友人・リーサ(グラフィック・デザイナー)のタウンハウスに滞在した。

 シンプルな家具がほどよく配置され、アクセントとして選りすぐった品だけが飾ってある。壁の色彩はよく吟味され、テーブル、椅子、ソファは木や藤や木綿や麻など天然素材が使われているせいか、どの部屋も優しく、寛げる。

 しかし、余分なもろもろがどうして見当たらないのだろうか?
本当に余計なものがないのか、それともどこかにまとめて収納する場所があるのだろうか?

年月とともに増えるモノ。どう処分すれば…

 すっきりした空間を形作る鉄則は、床にものを置かないこと。そのためには、モノを貯めない、増やさない。誰もがそうは思っていても年月がたてば自然とモノは増えてゆき、積み重ねて部屋の隅に置けば、床はじわじわとモノに侵蝕されてゆく。

 「3年使わなかったモノは処分する」と徹底している友人がいるが、彼は例外かもしれない。おしなべてアーティストはモノを貯める。いつか使うだろうととっておく人が多いし、実際役には立つのだが・・・。

 次第にスタジオはモノで溢れ、始末におえなくなって「スタジオセール」と銘打って処分する有様。さまざまな不用品を受け取るリサイクルショプや組織があるし、大きな家具は連絡すれば引き取りに来てくれる。オンラインで売る友人もいるが、手間ひまを考えると寄付するのが実際的な処分方法のように思われる。

 それら寄付した物品に対しては、多額ではないが税控除がある。

家具は色も形も充分に吟味され、花の色彩さえ考慮されているに違いない(オランダ アムステルダム市)
コレクションの絵画を引き立てるために、椅子もソファも目立たぬよう黒を、カーペットは淡いグレーを選択(イリノイ州 ハイランドパーク市)

良質な家は収納スペースも多い

 目に触れる場所に飾る品は別にして、モノを処分しないとしたら、どこかに収納しなければならない。

 アメリカの良質な家は設計の段階でよく収納のスペースが考慮されている。例をあげると、パントリー、クロゼット、屋根裏、地下室、ガレージなど各部屋に収納スペースが。

 パントリーというのは食料保管場所で、キッチン近くに設置され、缶詰、瓶詰、紅茶やコーヒー、小麦粉、スナック菓子、ワインやビールなど収納する。

 クロゼットは押入れ、物入れ、衣装収納場所で、タオル、シーツやリネン類、また不要な電気器具、毛布など、とりあえず使わないものも含めて収納。ウォーク・イン・クロゼットは寝室に近く設けられ、洋服や下着を収納するが、夏物と冬物を入れ替えずに衣装のすべてが吊るしてある家が多い。ハンドバッグ、帽子、スーツケースもウォーク・イン・クロゼット内に収納する。玄関近くのクロゼットにはコートやマフラー、靴を収納。

 ガレージには車のほか、自転車や工具類、ゴルフセットやスキー用品、スケートボード、サーフボード、ラケット、園芸用品等が置かれる。

リーサの家の2階へ上がる踊り場には、なんと日本のタンスが!(コロラド州 デュランゴ市)

趣味に合わないものは置かない

 箪笥を部屋に置いて、その上に額に収めた家族の写真を沢山飾るアメリカ人が多い。家だけでは足りないのか、仕事場、つまり会社の机の上や歯科診療室、大学の教授室、ホワイトハウスの執務室にまで家族の写真が飾ってあるのが目につく。

 また、代々親から譲り受けたテーブル、椅子やドレッサー(箪笥)を大切にしている友人達も多い。
リーサは日本で仕事をしていた時、ゴミ集配所に捨てられていた桐ダンスを拾ってアメリカに持ち帰り、上部分と下部分を分けてダイニングルームに置いているが、上質な桐箪笥はアメリカの室内に違和感がないばかりか、部屋全体に気品を与えている。

 銀の蠟燭立てや年代物のガラス製品、両親や祖母が使った大切な食器セットも飾ってあるのをよく見かける。それにしても、趣味に合わず室内に調和しない装飾品を置かないという頑固さは大多数のアーティストに共通する。

リーサは桐箪笥を分けて使うという自由な発想でお洒落な空間を形作った(コロラド州 デュランゴ市)
このように家族の写真を飾っている家が多い(イリノイ州 シカゴ市)

経済、環境要因で変わる生活。収納スペースにも影響?

 1990年代は大きな家が人気の中心であり、建築家や不動産開発業者は必要以上に大きな収納場所を設計した。ところが経済が下降停滞(リセッション)し、以前に比べて小スペースの一戸建て住宅やコンドミニアムを望む人々が増え、従って収納スペースも小さくなる傾向が見られる。

 これまでは週に1度山ほどの食料品を買い込んでいたのが3日に1度新鮮な野菜等買うようになり、収納場所が少なくて済む、という暮らし方の変化も寄与しているようだ。

 さらに環境問題に関心を寄せる人の増加も小さな家志向を後押ししている。例として、窓を大きく取り、冬は太陽光を取り入れて暖房費を節約する。二重構造のガラス板使用で、大きく窓をとっても寒気が入る割合は以前に比べて激減した。大きな窓のスペース分、壁面積が少なくなり、本棚や戸棚のスペースが減ったが、デジタルブック(i-books)がその不足分を補うかどうかはまだわからないが。生活様式の変化により、収納の考え方も変わりつつあるように思える。

ダイアンはキッチンに年代物の食器を飾っている(イリノイ州 シカゴ市)
典型的なキッチンの薬味戸棚(イリノイ州 シカゴ市)

 Akemi Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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ウォークインクローゼット

ウォークイン、つまり歩いて入れるクローゼット、衣類の押入のこと。衣装ダンス、衣裳戸棚を指すワードローブは家具のニュアンスが強いのに対して、ウォークインクローゼットは造り付け家具、ないし部屋の意味に使われることが多い。

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