「デロリアン」が疾走した駐車場も今やガラガラ
「午前1時15分にツイン・パインズ・モールで待ち合わせよう」と、1985年公開の映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でエメット・ブラウン博士(通称:ドク)は主人公マーティ・マクフライに言いました。
ショッピングモールの広大な駐車場でタイムマシン(デロリアン)を時速140キロ超の猛スピードで走らせるためには、そんな人目を避けた真夜中の時間を選ばなくてはならなかったのです。
このシーンの舞台に使われたのは「プエンテ・ヒルズ・モール」。ハリウッドからほど近いロサンゼルス郊外にある現役のショッピングモールです。映画で使われた看板は記念として建物内に展示されています。
ならばさぞかし映画ファンでにぎやかだろうと想像して、現在このショッピングモールに足を運ぶと、きっと意外な光景が目に入るでしょう。日中の営業時間帯でも駐車場はガラガラです。これならドクは昼間でもデロリアンをフルスピードで走らせることもできそうです。
映画では百貨店「J.C. Penny」だった建物はスポーツクラブ「24 Hours Fitness」になっています。施設内に入ると軒を並べる専門店のほとんどが閉まっていて、通路を歩いている人もほとんど見かけません。「閑古鳥が鳴いている」とは陳腐な表現ですが、まさにその言葉がぴったりきます。
「プエンテ・ヒルズ・モール」の現状はけっして極端な例ではありません。全米中でこのように「死にかけた」あるいは「ゾンビ化」したショッピングモールが増えつつあるのです。
施設数はピーク時の3割以下まで減少
かつてのショッピングモールは、アメリカで最も多くの人々が集まる場所の一つとして隆盛を極めました。その多くは何軒かの百貨店が通路でつながり、アパレル専門店、レストラン、映画館、ゲームセンターなど、あたかも一つのまちを形成していたかのようでした。地元の人々が集まるだけではなく、海外からのツアーバスが何台も入れ代わり立ち代わりやってきました。
しかし、それは今では過去の話になりました。ショッピングモールが完全に姿を消してしまったわけではありませんが、少なくともアメリカの「メインストリート」ではありません。
経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」が2022年10月に掲載した記事によると、ピーク時の1980年代には全米で約2,500ヵ所あったショッピングモールのうち、現在でも運営されているのは約700箇所にまで減っているのだそうです。閉鎖には至らなくても、上の例のように閑散化してしまったショッピングモールも少なくありません。
ショッピングモール衰退の原因には、ネットショッピングの普及が第一に挙げられるでしょう。消費者の購買スタイルが大きく変化し、買い物には必ずしも外出が伴わなくなりました。最も集客力が大きかった百貨店さえ次々と倒産や縮小の憂き目にあっています。ここ数年は新型コロナウイルスのパンデミックによる打撃も加わり、さらに状況は悪化しているようです。
日本のアミューズメント施設が出店
ショッピングモールは都市開発計画とも密接に関わっています。流行らなくなったからといって、広大な敷地と建物をそう簡単に取り壊すわけにはいきません。
撤退した百貨店の代わりに「ターゲット」や「ウォルマート」のようなディスカウント・チェーンが開店する例、あるいはスポーツクラブやボウリング場などの複合施設に転換される例もあります。大阪市に本社を置く「ラウンドワン」も2010年代から全米各地のショッピングもモールに進出しています。大学や企業の研究所が移転してくることもあるそうです。
そうしたショッピングモール施設の再生もしくは再利用が将来的に持続可能かどうかは、今後明らかになっていくでしょう。
角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのち、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディアで執筆活動も行なう。「海外書き人クラブ」会員。