
最近目立つのが、お洒落なブランコ。
大人用のブランコを玄関前の庭に置く家が増えている。子供達はもちろんブランコが大好きで遊ぶが、大人用にサイズが大きく作られているブランコが新しい傾向。主眼はデコレーションであろうか。
家の裏庭やベランダでなく正面前庭、つまり歩道のすぐそばに置いて、友人達となごやかに談笑している光景は開放的で微笑ましい。アメリカは車社会なので、歩道に人通りは多くないが、通りかかった歩行者はブランコに乗った隣人に声を掛け合ったり、時には話の輪に入って一緒にブランコに座ったり…、ブランコで楽しい絵ができあがる。

前庭と玄関は「家の顔」
歩道から家全体が見渡せるだけに、家の前庭と正面玄関には特に気を配って設計がなされる。建物は建築家が設計するが、前庭のデザインは撒水装置も含めて造園家(landscape archtect)や造園業者(landscaper)に委託する場合が多い。正面玄関から片側をスロープにして車椅子が使えるように設計され、片側は階段で歩道へ。玄関から植物が歩道までバランスよく配置され、造園家の手を経ているに違いない(写真参照)。
また、建築設計の段階でブランコを前庭のアクセントとして配置する家も見受けられる(写真参照)。


突然、舞台が変わるように
シカゴの5月初めはまだ寒く、庭いじりを始める気分ではないが、5月末のメモリアルウィークエンド(戦没記念日)までにはどこの家でも花々が突然勢揃いし、毎年のことながらいつもびっくりさせられる。
冬から一転、芝居で突然舞台が変わるように、あたり一面眺めは春となる。タネを撒いて急に育つわけはないが、大手の園芸店や工具店、スーパーマーケットがすでに満開の花の苗を一斉に売り出し、人々はごっそりと苗を買い込んで車に積んで持ち帰り庭に植えるわけだ。ランドスケーパー(造園業者)が請け合って庭を花で彩る場合もある。
ロビン(こまどり)やカーディナルなど、鳥達も花々につられて急にさえずり始める。

芝刈りの仕事は、今や業者任せ
芝生を刈るのは、以前は子供達やご主人達がしたものだったが、今は業者に任せる家庭がほとんど。つい最近まではメキシコ人業者が一手に引き受けていたが、不法移民が少なくなかったために、トランプ大統領の一声で途端に激減してしまった。政治がすぐに庶民の暮らしにまで波及する。
それだけの理由ではないが、水撒きも現在は機械任せの家が多い。地面に埋め込み、セットされた時間に自動的に撒水する装置をつけた家が増えたのである。


塀で囲まないから前庭は重要
芝生、歩道と街路樹、道路。このワンセットが典型的なアメリカの住宅街の家並みだ。
塀で家を囲まないから、道路からも歩道からも家の前庭が見晴らせる。だから芝生の手入れに加えて植木や花、玄関にまで気を配ることになる。自分で庭いじりをする人や専門家に頼む人もいるが、前庭は家の顔であろう。よそから見て最初に目に入るし、その家の内の様子を醸し出す部分でもある。

手入れを怠ると、周囲から「注意」が
一戸建て住宅に限らず、タウンハウス、コンドミニアムも例外でなく、前庭は美しく飾るが、それがすまい全体の価値を判断する目安にもなる。
芝生の手入れや玄関まわりの手入れを怠ると、その家だけでなく、区画全体の評価まで落ちてしまうので、そんな場合は近所から「気をつけてほしい」とメモが届くことも・・・。
最近多く使われ始めたお洒落なブランコは人々を歓迎するシンボルと言えようか。美しく彩った前庭と共に家の価値を高める。
そして区域全体を良い状態に保てば評価価格が上がり、物件が高く売れるという実際的な配慮であろう。
Akemi Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。