海外トピックス

2023/10/1

vol.409 旧教会を改装した美しい建築物たち【オランダ】

旧教会をリノベーションしたビール醸造所兼パブ

 オランダには、教会として建築された建物が約7,000棟存在し、そのうち約4,000棟が現在も教会として活用されているのだとか。逆に言うと、約3,000棟の旧教会はまったく別の用途で活用されているということになります。そこで今回は、筆者が実際に見つけた「旧教会を利用した施設」を紹介させてください。どれも単なるリノベーション物件ではなく、オランダらしい大胆さが発揮された美しい物件なのです。

ビール醸造所兼パブ「Jopenkerk」

 オランダは、実は「ビール大国」。日本でも有名なあの「ハイネケン(Heineken)」はオランダ発祥ですし、EUで最大のビールとノンアルコールビールの輸出国であるという統計結果もあります。そんなビールが大好きなオランダ人の醸造家が、ハールレムというまちの荒廃した旧教会を改装し、2011年に醸造所兼パブを開業しました。

「Jopenkerk」外観

 お店の名前は「Jopenkerk」。Jopen(ヨーペン)はビールのブランド名で、kerkはオランダ語の「教会」。予備知識なしにこの建物を見たら、教会にしか見えないでしょう。

教会の高い天井が印象的な内部
ステンドグラスとビールタンクというミスマッチが魅力

 けれど、一歩中に入ると雰囲気は一転し、およそ教会らしからぬ赤いインテリアに囲まれます。醸造タンクや貯蔵タンク、バーカウンターといった世俗的なアイテムに、荘厳なステンドグラスなどの要素をうまくミックスさせているのもさすがのセンスです。

タンクに隣接する中二階スペース

 この斬新な「Jopenkerk」は、オープンと同時にオランダ国内から注目されました。12年には「最高のホスピタリティコンセプト・アワード」でホスピタリティ&スタイル賞を受賞し、13年には「オランダで最も美しいバー」、14年には「ハールレムで最も美しい場所」に選ばれたのです。Jopenは美味しいビールですが、この美しい旧教会の施設と出会っていなかったら、ここまで注目はされなかったかもしれませんね。

トランポリンスタジオ「Planet Jump」

外観は教会のままのトランポリンスタジオ

 お次に紹介するのは、デンハーグという街にある「Planet Jump」。この建物は元々1956年に建てられたカトリック教会でしたが、2005年に教会としての役割を終えました。その後、民間業者によって買い取られ、室内遊戯場のトランポリンスタジオへと生まれ変わったのです。

まだ教会らしさを残した内装

 このトランポリンスタジオは、教会らしい高い天井をそのまま生かしているので、気兼ねなくジャンプできるというメリットがあります。いったいどうやったら、こんなに斬新な利活用のアイディアを思い付くのでしょうね?

トランポリンで遊ぶ子供を見守りながら保護者はお茶を楽しめる

 かつて祭壇だったスペースは、現在、カフェスペースとして活用されています。予約をすれば、子供の誕生パーティなどの会場としても使用できるそう。教会としての役割は終えましたが、子供たちに愛される施設として末永く活用されてほしいと思います。

旧教会の集合住宅

教会だった時の姿のままの集合住宅

 最後に紹介するのは、旧教会をリノベーションした集合住宅です。この建物は、1909年にカトリック教会として建築されてから約100年間、人々の信仰の場として親しまれました。2019年に教会としての役割は終えましたが、この建物は国定記念物(Rijksmonument)として保護されており、取り壊すことはできません。

エントランスホールの高い天井
階段とエレベーターの利用が可能

 教会は民間業者へと売却され、21年から改装工事に始まりました。そして満を持して、22年に9棟の集合住宅として生まれ変わったのです。偶然にも筆者の友人がこの集合住宅の1棟に入居したので、内部を見学させてもらいました。

ステンドグラスのあるリビングダイニング

 各棟で間取りが異なるようで、筆者友人の住戸は3LDK。ステンドグラスのある美しいリビングダイニングには、思わずため息が出ました。

テラスへと続く窓とビベルドグラスの窓

 リビング正面(テレビ後方)の窓はステンドグラスによって外部と遮断されていますが、部屋のサイドにはテラスへと続く窓もあります。大きな窓で明るさは十分。それでいて半分はビベルドグラスという無色のステンドグラスで覆われているので、プライバシーもしっかり守れます。

各住戸のテラスはつながっている

 こちらは、テラスから見た建物の様子。外の景色を眺めるよりも、思わず建物に見入ってしまいます。

バスルームにもビベルドグラスが
寝室のひとつにあるステンドグラス

 ステンドグラスとビベルドグラスは、家の中のあらゆる場所に散りばめられています。

キッチン窓の豪華なステンドグラス

 個人的に一番印象的だったのは、キッチンのステンドグラス。弧を描くように並べられたステンドグラスは、かつては祭壇スペースに使われていたのかもしれません。

光が透け、美しく輝く

 こちらも、別角度から見たキッチンのステンドグラス。この建物が国定記念物に指定されたのも納得の美しさです。

 ここまで3棟の旧教会物件を紹介しましたが、他にも、さまざまなテナントが入る商業ビルへと生まれ変わった事例も見たことがあります。本当にオランダ人は発想が自由ですね。もし皆さまがオランダを訪れてまちで教会に出くわしても、もしかしたらそれは教会ではなく、リノベーション物件かもしれません。ぜひそんな驚きを発見してみてください。

倉田直子
オランダ在住ライター/タイニーハウス・ウォッチャー。リビア(革命から脱出)、英国スコットランドでの生活を経て、2015年よりオランダ在住。主な執筆ジャンルは、オランダの文化、タイニーハウスを中心とした建築関係など。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。

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